第133話 風流洞攻略8日目:リザルト

 今日一日でまたレベルが上がった。

 各人のレベル成長は――。


 ラーズ :285→291

 シンシア:285→291

 ステフ :205→225

 メンザ :362→363


 俺とシンシアは6つレベルアップ。

 風流洞上層部に挑み始めてからレベルもかなり上がったし、人数も増えたせいで、上昇幅は下がってきている。

 だが、それでもまだまだ驚異的な上がり方。

 そろそろ、【3つ星】相当と言われてる300台に手が届きそうだ。


「にっ、20も……」


 ステフは信じられないといった様子で、自分の冒険者タグをみつめたたまま固まっている。

 俺とシンシアはもう慣れたが、冒険者の常識に照らしあわせたら一日で2つレベルが上がるだけでも奇跡みたいなもの。

 「一日で3つ上がった」と言おうものなら、間違いなくホラ吹き扱いだ。


「レベルアップですか……。感慨深いですね……」


 メンザが現役引退してから、二十年以上が経っている。

 つい先日までは、レベルが上がることは死ぬまでないと思っていたはずだ。


 タグを見つめる瞳に込められた複雑な思い。

 それを理解するには、俺はまだ若すぎた。


「明日は休みだ。ゆっくり休んで明後日に備えてくれ」


 俺も明日はシンシアとのんびり過ごす予定だ。

 一緒に行きたい場所もあるし。

 ステフは……まあ、いつも通り女の子と仲良く過ごすのだろう。

 メンザはギルド業務で休む暇があるか心配だが……。


「あの部屋に挑むのは先にしよう。明後日はレベリングだ。また、センチネルとガーディアンを狩りまくろう」


 俺の言葉に皆が頷く。


「じゃあ、ギルドで精算しよう」


 この後は、冒険者ギルドへ向かい、今日ゲットした魔石やらドロップ品を売却する。

 昨日の分も未精算なので、かなりの額になるだろう。

 ここから魔力回復ポーションなどの消耗品の費用や積み立て金を除いた額をメンバーで分配するのだ。


「各自の取り分だけど――」

「私の分はいりません」

「えっ?」


 メンザの発言に俺は驚く。


「私が同行しているのはギルド職務の一環ですので」


 そう言われて、俺は思い出した。


 ダンジョン内でイレギュラーな事態が発生した場合など調査が必要な際に、ギルド職員が冒険者パーティーに同行することがある。

 その際に得た報酬はパーティーのもので、ギルド職員は報酬を受け取ってはならない。

 これはギルド規則によって定められている決まりだ。


 ただ、今回の場合は事情が異なる。

 普通、同行する職員は戦闘に参加しない。

 しかし、メンザは戦闘に参加するどころか、パーティーの一員として大きな働きをしている。

 俺としては、メンザはすでにパーティーメンバーの一人という認識だ。

 なので、報酬を受け取るのは正当な権利だと思うのだが……。


 だけど、そう言ったところで、メンザは報酬を受け取ろうとはしないだろう。


「分かった。そういうことなら、三人で等分しよう」

「いやいやいや、ちょっと待ってほしい」


 今度はステフが口を挟んできた。


「爺様を除いたとしても、我々は四人だ。サラ嬢も数に入れるべきだろう」

「いや、サラは俺の使役する精霊だ。精霊の場合は特殊だが、テイマーが使役するモンスターは術者の能力の一部。人数に含まないのが定例だ」


 そうしないと、ゴブリンなど弱いモンスターを大量に使役して、報酬をガメることが可能になってしまう。


「たっ、確かにラーズの言葉には一理ある。だが、サラ嬢の場合はそこら辺の使役獣とは話が違う。サラ嬢はメンバーの一人といえる働きをしている。彼女に比べたら、私の方が貢献度は低いくらいだ」


 ステフも言い出したら聞かなそうな勢いだ。

 頑固で、自分の利よりも大義を優先させるのは血筋だろうか。


「そもそも、今日だけでレベルが20も上がった。これだけでも信じられないほどの報酬だ。この上、お金まで受け取るなど到底出来ない」


 ステフの言い分も分からなくはない。

 俺がステフの立場だったら、同じような思いを抱くだろう。

 だが、俺としても通すべき筋がある。


「いや、それとこれは話が別だ。報酬の分配は貢献度に関わらず等分。それはステフも知っているだろう?」


 事前に特別な取り決めがない限り、報酬は等分。

 冒険者の不文律だ。


 そもそも、貢献度など客観的に図りようがないのだ。

 等分にしないと、どうやっても揉めるのは避けられない。


「うっ……。そう言われると……」


 まったく、意外なところで真面目なやつだ。

 でも、そういうところは俺も嫌いじゃない。


「これはリーダー命令だ。良いよな?」

「……分かった。報酬を受け取ろう。だが――」


 渋々と従うようだったが、ステフは俺の想像以上だった。


「私の取り分はパーティー活動費に回してくれ」

「なんだとっ!?」


 それでは、報酬を受け取らないのと同じことだ。


「受け取った報酬をどう使おうと本人の自由。それはラーズも知っているだろう?」

「…………」


 ステフの言葉もまた、冒険者の不文律。

 そう言われたら、俺も従わざるを得ない。


「分かった。ステフの言うとおりにしよう。その代わり――」


 俺がなんと言おうと、ステフは自分の意見を曲げることはないだろう。

 だから、俺は代案を提示する。


「一日も早く、取り分を主張できるくらい強くなってくれ」

「ああ、約束しよう」


 揺るぎない自信とともに、ステフは返事する。

 その瞳は眩しいくらいにキラキラと輝いていた。


「よし、じゃあ、ギルドに行って解散だ。明日は休み。また、明後日第42階層でレベリングだ」

「「「「おー!」」」」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 次回――『ツヴィーの街外れ』

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