第132話 風流洞攻略8日目4:第42階層3
「ふぅ〜」
大きく息を吐くステフは紅潮している。
満足そうにシンシアに向き直り――。
「どうだったかな?」
「えっ?」
「シンシア嬢とひとつに結ばれた気がしたのだが……」
「いえ、私は別に……」
興奮気味に語るステフにシンシアは押され気味だ。
オーラを受け取ったステフはなにかしら一体感を覚えたようだが、与えた側のシンシアは特になにも感じていないようだ。
だが、ステフは一方的に続ける。
「爺様のオーラも悪くないのだが、やはり、シンシア嬢のオーラは格別だ。世界樹の甘露であっても、ここまで甘美ではないだろう。ああ、心が蕩ける味だ……」
「そっ、そう……」
「やはり、私たちはひとつになるべきでは――」
シンシアの両手を掴み、口説き始めたステフの頭をチョップ。
「あうっ!」
「おい、それくらいにしておけ」
放っておくといきなり口説き出すのだから、油断も隙もあったもんじゃない。
頭を「痛てて」とさするステフにメンザも声をかける。
「では、私のオーラは必要ないみたいですね」
「いっ、いえ、爺様。そういうわけでは……」
「重ねがけに興味があったのでは?」
「はい、そうです……」
昨日、聞いた話だと、ステフの【オーラ・レセプター】は複数のオーラを同時に受け取れるらしい。
ステフは今まで重ねがけを試したことはないらしいが、過去の記録によると、オーラの重ねがけはとても強力らしい。
「さっきの発言、身内への甘えでしょうが、あまり好ましくありませんよ。ステフは他者――とりわけ男性への態度を改めるべきです。この先の事を考えるのであれば、なおさらですよ」
「はい。スミマセンでした……」
叱られたステフは素直に頭を下げ、しょぼんと萎れる。
ちゃんと反省しているようだ。
こういうことは俺が言うより、メンザからの方が効果的だ。
代わりに伝えてくれたメンザに頭を下げると、「気にせずに」との返事。
そんな俺たちのやり取りにサラはまったく興味がないようで、センチネルがドロップした魔石を拾い上げ、俺に手渡してきた。
「あるじどのー、魔石だよ〜」
「おう、ありがとな」
頭を撫でると、にひひと笑うサラに、一同和み、沈みかけた空気が弛緩する。
本人はなにも意図していないのだろうが、助かった。
誰とも良好な関係を築けるシンシア。
ちょっと暴走がちだが、真っ直ぐなステフ。
年長者として、言うべきことを言ってくれるメンザ。
パーティー内の空気を明るくしてくれるサラ。
うん。いいパーティーだ。
「じゃあ、この調子でガンガン狩っていくぞっ!」
「「「「おー!!!」」」」
重なる声がひとつ増えている。
よく見ると、メンザも一緒に手を挙げている。
あれっ、そういうキャラだった?
ともかく――。
これまでは群れているセンチネルは避け、単体ばかりを相手にしてきたが、これなら、複数体相手でも問題ないだろう。
「そろそろ本気で狩ろうか」
「「「おー!」」」
◇◆◇◆◇◆◇
――午後四時。
今日はハードだった。
センチネルにガーディアン。
複数相手に連戦をこなし、狩って狩って狩りまくった。
ただでさえ個々の能力が高い五人。
それが上手く噛み合うとここまで強いとは思わなかった。
戦闘を指揮する立場として、快感を覚えるほどだった。
相変わらず魔力ポーションは大量に消費したが、ドロップ品の魔石が高額なので、お釣りが来る稼ぎだ。
「みんな、よく頑張ったな。まだ大丈夫か?」
「まだまだいけるー!」
サラは相変わらず元気いっぱいだ。
というか、これまでサラの疲れた姿を見たことがない。
精霊だから疲れを知らないのかもしれない。
「ええ。ラーズと組んでからしばらくたったからね。もう慣れたわ」
シンシアは慣れたものだ。
「五帝獅子時代でもこれほどハードな日はなかなかなかったですね。昔を思い出しましたよ」
さすがは【三つ星】。
メンザも疲れた様子はない。
「……ああ、大丈夫だ」
ステフの顔には疲れが浮かんでいるが、それでも弱音は吐かない。
まったく、コイツの根性は大したものだ。
今日一日で、第42階層は概ね制覇した。
第43階層へ向かう部屋も確認済み。
残っているのは、この先の部屋だけだ。
「さて、ここが例の場所だが……」
シンシアの探知に引っかかったロックされた部屋だ。
調べた結果、閉ざされた扉は開けられることが分かった。
ただ――。
「中にはモンスターが一体いるわね」
「強そうなヤツー!」
シンシアもサラもモンスターの気配を感じ取っている。
俺も同じものを感じていた。
それだけ濃密な殺気を放っているのだ。
これは強敵に違いない……。
ボス部屋のように、戦闘が開始したら閉じ込められるタイプの可能性が高い。
部屋内では転移石が使えないので、いざという時に緊急脱出が出来ない。
「さて……」
みんなの顔を見回す。
「焦る必要はない。出直そう」
平気な顔をしているが、皆、疲労は蓄積している。
俺もそうだ。
ここは万全の態勢で望むべきだろう。
それに、今日一日でいくつかレベルアップした。
それでも、センチネルとガーディアンの経験値効率は十分オイシイ。
もう、一日二日、ここでレベル上げするのがいいだろう。
「今日はここまで、帰還しよう」
「「「「おー!」」」」
帰り道、数体のセンチネルと遭遇したが、とくに問題もなくダンジョンから帰還する。
沈みかけた夕日に、今日一日の達成感がじんわりと全身に広がる。
攻略が順調に進み、無事帰って来られたこの瞬間――。
冒険者にとってこの瞬間は、何度繰り返しても変わらぬ価値を持つ。
このために、ダンジョンに潜っていると言っても過言ではないのかもしれない。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『風流洞攻略8日目:リザルト』
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