第131話 風流洞攻略8日目3:第42階層2
センチネルを楽々撃破した俺たちは、次の標的を求め、シンシアの案内で進んでいく。
「あの角の先に一体いるわ。弱点は火よ」
「よし、サラ、準備いいか?」
「おー! ばっちりー!!」
索敵の結果、センチネルは個体ごとに弱点属性が異なることが分かった。
そこで、今回は実験のために、わざわざ火属性に弱い個体を探したのだ。
陣形を改め、今は俺とサラが先頭だ。
サラは先程は出番がなかった。
ようやくの出番にやる気満々。
ゆらゆらと赤く燃える髪を揺らしご機嫌だ。
俺も火精霊に呼びかけ、臨戦態勢を取る。
火精霊は他の精霊たちよりも、やんちゃなイメージだ。
サラにつられたのか、クルクル回転し、やる気をアピールしてくる。
さっきの戦闘時の陣形はスターンダードな陣形。
どんな場合にも対処しやすい陣形だ。
そして、今の陣形は――。
曲がり角を曲がり、センチネルが姿を現す。
「サラ、今だっ!」
サラを促し、俺も火精霊に指示を下す。
『――【火弾三射】』
『――【火球(ファイア・ボール)】』
二人の声が重なる。
息はぴったりだ。
サラが放った三発の火弾に、俺が放った火球が続く。
火球は精霊三体分。いつもより大きなサイズだ。
立て続けに直撃を喰らったセンチネルは為すすべもなく燃え尽きる。
「よく燃えた〜!」
「うん。丁度いい感じ。火が弱点だとこんなもんだな」
初戦はオーバーキルだった。
今回の攻撃はさっきに比べ、かなり威力を抑えている。
大体これくらいで倒せるだろうと計算しての攻撃だったが、ばっちり計算通りだった。
先制攻撃でセンチネルを瞬殺できることも確認できたし、倒すための適切なダメージ量も把握できた。
実験は大成功だ。
「サラひとりなら、五発だな」
「わかったー!」
サラの火弾は発射数を自由に指定できる。
今の手応えから判断すると、五発で丁度いいはずだ。
サラはこういう判断は苦手だ。
燃やすのが生きがいみたいなもので、ついつい攻撃が過剰になってしまう。
放っておいたら、あっという間に魔力切れになるから、俺が手綱を握っておく必要があるのだ。
「シンシア、だいたい掴めた?」
「ええ、これなら一撃で倒せそうね」
シンシアもだいぶ【聖誅乙女】の能力に慣れてきたようで、力加減も上手になった。
安心して前衛を任せられる。
「ステフは?」
「一撃は無理だが、倒す算段はついたよ」
直情的な性格だが、先ほどの戦い方でもわかるように、戦闘スタイルは技巧派だ。
センチネル程度なら、簡単にあしらえる。
ステフも前衛として頼りになる存在だ。
「メンザも一撃で倒せる魔法があると思うけど?」
「ええ、ありますよ」
「だが、ピンチのとき以外、攻撃魔法は打たないでくれ。他のメンバーに戦闘経験を積ませたいし、魔力は守備用に温存しておいて欲しい」
「ええ、分かりました。老骨は出しゃばらないようにしますよ」
メンザは至って穏やかだ。
ここがダンジョン内であることを忘れさせるような静謐(せいひつ)さを湛(たた)えている。
他のメンバーが動揺したり、感情的になったりしたときに、メンザの落ち着きは皆を鎮める力があるだろう。
俺も見習いたいところだ。
「じゃあ、もうひとつ試しておこう」
更なる確認のために、もう一体のセンチネルを求め移動する。
正攻法と先制攻撃を試した。
その次は――。
しばらく歩き、三体目のセンチネルを発見。
「メンザ、よろしく頼む」
「はい、お任せを」
センチネルの接近に合わせ、メンザは杖を前に構える。
――カドゥケウスの杖。
フォース・ダンジョンのモンスター――不死の王(ノーライフ・キング)のドロップ品。
二匹の蛇が纏わりついたような造形だ。
魔法の威力を5倍にするという破格な性能だ。
消費魔力を3分の1にするバフォメット・バングルといい、フォース・ダンジョンで入手できる武具はとんでもないものばかりだ。
メンザが詠唱を始めると、カドゥケウスの杖の二匹の蛇の目が怪しく光る。
そして、詠唱が完成すると――。
『――【魔導壁(マギカ・ヘミスフィア)】』
メンザのジョブ名でもあり、彼の十八番(おはこ)でもある【魔導壁】。
発動と同時にメンザを中心とした直径10メートルの半球状の魔力による障壁が出現した。
パーティーメンバーは自由に出入りできるが、モンスターもモンスターの攻撃も障壁内には入れない。
そして、この半球内にいるかぎり、障壁が壊れるまではダメージを負うことはない。
ジョブランク3で【3つ星】冒険者であるメンザの最強防壁、それが俺の精霊エンチャントで更に強化され――。
「これは凄い」
「……凄いわね」
「さすがは爺様だ」
「じっちゃん、ないすー!」
障壁の内側で見守っている俺たちはその性能に驚嘆するが、当のメンザは涼しい顔だ。
「精霊の加護があるからですよ。普段はここまで硬くはないんです」
謙遜してみせるが、それでも大したものだ。
なにせ、センチネルが10分以上剣を打ち続けても、障壁にはヒビ一つ入っていないのだ。
「後どれくらい保つんだ?」
「障壁よりも先に魔力が尽きますね。後5分くらいでしょう」
今回はメンザの障壁の性能テストを行ってみたが、想像以上の強さだった。
これなら、急襲されたり、挟撃されたりしても、体勢を整えるだけの時間は問題なく稼げる。
「じゃあ、次はステフの番だ」
「ああ。シンシア嬢、よろしく頼む」
「ええ、分かったわ」
シンシアは目を閉じ精神を集中させる。
『――【聖気纏武(せいきてんぶ)】』
シンシアは全身に眩(まばゆ)い聖気を纏う。
いつ見ても綺麗な聖気だ。
「これでステフの身体に触れればいいのね?」
「ああ、そうだ。どこでも構わないのだが、抱きついてもらえると嬉しい」
「はいはい」
シンシアはステフのたわ言をサラッと流し、ステフの肩に手を置く。
『――【オーラ・レセプター】』
ステフがスキルを発動させると、シンシアの聖気がステフを包み込んだ。
「おおおっ、これは……」
ステフの表情が恍惚に染まる。
「力が漲ってくるっ!!」
メンザの障壁から飛び出し、センチネルに向き合うと――。
『――【刺突(ピアシング)】』
咄嗟に対応できずにいるセンチネルの右腕関節をスティレットが貫き、センチネルの右腕は木剣ごと切り離される。
続けて――。
『――【刺突(ピアシング)】』
『――【刺突(ピアシング)】』
二連撃がセンチネルの首に突き刺さる。
センチネルは呆気なく地に伏した。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『風流洞攻略8日目4:第42階層3』
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