第130話 風流洞攻略8日目2:第42階層
第42階層だ。
この先、まったくの未知領域。
まずはサラとシンシアに探知してもらう。
「なんかいっぱい、うろちょろしてる〜。それと入れない場所が一個ある〜」
だいぶ感覚的なサラに対し、シンシアは――。
「敵は二種類ね。ひとつはガーディアン。もうひとつは未知のモンスターで、こいつらはガーディアンと違って、フロアを歩きまわっているわね」
【精霊知覚】を覚えたシンシアは精霊との距離が縮まった。
特に、風精霊とは仲が良く、探知を頼んだりできるのだ。
俺も精霊術で同じことはできるが、シンシアの場合は魔力を消費せずに済むのでお得だ。
探知は火精霊よりも風精霊の方が得意だ。
なので、サラよりも多くの情報を得ることが出来る。
「それと、サラちゃんが言ったように、ロックされている場所が一箇所あるわね」
「うん! そうなのだ〜!」
「ボス部屋かな? そこは転移石使えなそう?」
「ええ、そうね」
「なのだ〜!」
そうか……。
まあ、そこは後回しで、フロアを探索してみよう。
未知のモンスターも気になるな。
フロアは第41階層と同じような構造をしているが、通路の幅が広くなっている。
3メートル以上。ガーディアンでも通れそうだ。
広い通路に徘徊しているモンスター。
通路での戦闘を意識して造られたフロアだ。
囲まれたり、挟撃されたりに注意しないとな。
「単独行動してるヤツは近くにいるか?」
「ええ、手頃なのが一体いるわ」
「よし、まずはソイツで力試しだ」
「おー!」
メンバーに作戦を伝え、出発する。
「じゃあ、シンシア、案内を頼む」
「ええ、任せて」
陣形を整え、通路を進んでいく。
前衛はシンシアとステフ、中衛は俺、後衛はサラとメンザだ。
しばらく歩くと、シンシアが敵の接近を告げる。
「20メートル先に一体いるわ。名前はウッド・ゴーレム・センチネル。人型のウッド・ゴーレムね。身長170センチのほっそり体型。剣と盾を装備しているわ。弱点は刺突と氷属性。強さはガーディアンほどじゃないわね」
【精霊知覚】で得た情報をシンシアが伝えてくる。
「センチネルだな。よし、じゃあ、作戦通りに」
俺の言葉に皆が頷く。
ステフが一歩前に出て、シンシアが一歩下がる。
先頭のステフはカイトシールドを前面に出し、センチネルに近づいていく。
俺は氷剣を、シンシアはメイスを手に持ち、その後に続く。
サラとメンザには後方警戒を任せた。
シンシアの【精霊知覚】で近くに敵がいないことは確認済みだが、念の為、警戒は怠らない。
少しずつ、距離が縮まっていく、
センチネルも俺たちに気がついたようで、警戒態勢のまま近寄って来る。
――カタカタカタ。
身体を鳴らす音とともに、センチネルが姿を現す。
シンシアの報告通り、細身の人型だ。
木製の剣と盾を装備していて、それらは淡い緑の光に包まれている。
魔力で強化されているので、木製武器だからといって油断は出来ない。
「来るぞっ!」
ステフはセンチネルに向かって走り出す。
恐れも気負いもない。
初見モンスター相手でも怯(ひる)まないその姿が頼もしかった。
俺とシンシアは腰を落とし、いつでも駆け出せる姿勢をとる。
サラとメンザもいつでも魔法を発動できる状態でスタンバイ。
先制攻撃されるとは想像していなかったのか、センチネルは慌てた様子で、ステフに剣を振るう。
『――【対角受流(ダイアゴナル・パリィ)】』
だが、剣撃を弾かれ、センチネルは体勢を崩す――。
「今だっ!」
俺とシンシアはセンチネルの脇を通り抜け、背後に回りこむ。
ステフもこの隙を見逃さず、黒く細長く尖った短剣――スティレットを引き抜く。
『――【刺突(ピアシング)】』
放たれた黒い一撃がセンチネルの右腕関節を的確に刺し抜く。
スティレットは第40階層ボスであるイヴィル・トレント・ロードのドロップ品だ。
刃はなく、鋭く尖った先端で突くための武器。
さすがは、セカンド・ダンジョンのクリア報酬だ。
ステフの技量と相まって、その一撃はセンチネルの関節を破壊した。
これで満足に剣を振るうことは出来ない。
ステフの剣技に目を見張りつつも、俺とシンシアは自らの役目を果たす。
俺は氷剣で首を突き、シンシアは――。
『――極重爆(グラビティ・ブラスト)』
胴体をメイスでぶん殴る。
三つの攻撃にセンチネルは耐え切れず、動きを止めた。
「オーバーキルだったな」
ガーディアン相手に楽勝できるようになった俺たちにとって、センチネルは相手ではなかった。
ステフはロード戦のときよりレベルアップしてる上、俺の精霊エンチャで強化されている。
この調子なら、ステフ一人でもセンチネルを倒せるな。
「うん。問題ない。この調子でガンガン狩っていこう」
「「「おー!」」」
サラの掛け声に二つの声が重なる。
今まではシンシアだけだったが、ステフもそれに加わり、三本の腕が高く挙げられている。
それを見て、メンザは目元を緩めていた。
「シンシア嬢、サラ嬢。私の戦いぶりはどうだったかい?」
「ええ、いい動きだったわ」
「なかなかやるな〜!」
「そうかそうか」
二人に認められ、ステフは満足そうな笑顔を浮かべている。
「これもラーズの精霊のおかげだ。精霊たちにお礼を伝えて欲しい」
「ああ」
俺が伝えると精霊達は嬉しそうに身体を震わせる。
その姿をステフは見ることが出来ないが――。
「精霊も喜んでいるよ」
「そうか。これからもよろしく頼むよ」
ステフもだいぶ俺に対する態度が柔らかくなった。
この様子なら、仲良くやっていけそうだな。
【後書き】
次回――『風流洞攻略8日目3:第42階層2』
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