第124話 風流洞攻略7日目7:【2つ星】ステフ

「おっ!」


 ロード単独パーティー討伐時の初回ドロップアイテムは武具だ。

 それぞれのジョブに合わせた武具を人数分ドロップする。

 どれもサード・ダンジョンの序盤で大活躍するものだ。


 俺の場合はルナティック・ミスリル・ダガーだった。

 今のスタイルになってからはあまり活躍していないが、『無窮の翼』時代は大変お世話になったものだ。


 今回ドロップした武具は、黒く細長く尖った短剣がひとつ。

 その形状から敵の弱点をピンポイントで刺突するための武器だ。

 ステフの戦闘スタイルに合っている。


 そして――精霊石20個。

 ファースト・ダンジョンのラスボス時と同じく精霊石がドロップした。

 俺が倒したからだろうか?


 その数はファーストの時の倍だ。

 手持ちの精霊石がまた増えた。

 より一層、精霊強化ができるな。


 そう思いながら短剣と精霊石を拾い、倒れたままのステフに声をかける。


「肩を貸してやろうか?」

「いらんっ!」


 強情っぱりなのか、男嫌いなのか、ステフは俺の誘いを突っぱねる。

 脚を引きずりながらも、なんとか自力で立ち上がった。


「ほらっ、おまえのドロップ品だ」


 黒光りする短剣をステフに投げ渡す。

 バランスを崩しながらも、ステフはしっかりと受け止める。

 しばらくの間、視線は短剣に注がれていた。


「その調子なら大丈夫だな、じゃあ、後もう少し、根性見せてみろ」


 俺はステフに背を向けて、最奥の間に向かって歩き出す。

 歩くだけでも全身に痛みが走るだろう。

 それでもステフは弱音を吐かずについて来る――俺はそう確信していた。


 だが、その時――。


 後ろからドッと歓声が沸き上がる。

 戦闘中、入り口の扉は開きっぱなし。

 すっかり忘れていたが、前室には数十人の冒険者たちがいた。

 皆、俺たちの戦いを観戦していたのだろう。


「すげー、一発かよ」

「信じらんねえ……」

「ラーズさん、やっぱ凄いな」

「ステフもハンパねえ」

「弾数少ないとはいえ、一人で全部凌ぎ切ったぞ」

「さすがは【絶壁】」

「だから、怒られるって」


 歓声に混じって、彼らの話し声も聞こえてくる。


「ジャマしたな、もう帰るから、オマエたちも頑張れよ!」


 用は済んだし、長居は無用と、立ち去ろうとしたところ――。


「ステフさん」「ステフ様〜」「ステフ〜」


 数人の女性冒険者がステフの下へ駆け寄ってくる。


「「「【2つ星】おめでとうございますっ!!!」」」


 皆、頬を紅潮させ、恋する乙女の顔をして、瞳を輝かせている。

 俺だったらテンパってしまいそうな状況だけど、ステフは慣れた様子でイケメンスマイルを返す。

 さっきまでボロボロになって倒れてたとは思えない切り替えの早さだ。


「ああ、ありがとう。君たちも頑張りなよ」

「「「はいっ!」」」

「でも、寂しくなります……」

「しばらくお別れですね……」

「私たちもすぐに追いつきますから、ドライの街で待ってて

くださいっ!」

「安心してくれ。私はまだしばらく、この街に留まる。だから、君たちとのお別れはもう少し先だ。まだ、一緒に楽しめるよ」

「「「え〜〜!!!」」」

「嬉しいですぅ〜」

「やったー!!」

「また、誘って下さいね」

「あー、わたしもー」

「私も待ってますぅ〜」


 他の冒険者たち(主に男性陣)は呆れたように、このやり取りを傍観している。

 その気持ちは俺もよく分かる。


 だが、俺にはシンシアがいる。

 もしシンシアがいなかったら、俺も殺意を飛ばしていたところだ。


 とはいえ、ほっといたら、このお花畑時間がいつまでも続きそうだ。

 下に二人を待たせていることだし、俺はステフに声をかける。


「ほら、行くぞ」

「ああ。じゃあ、君たち、また後で」

「「「はいっ!!!」」」


 キラリンと目からハートを飛ばしてから、ステフは俺の後を追いかけて来た。

 そのスキルはなんて名前だ?

 まあ、きっと俺には無縁のイケメン専用レアスキルなんだろう。


 きゃあきゃあ言われながら、俺たちは最奥の間に向かう。

 ロード単独パーティー討伐によって開かれる部屋だ。

 もちろん、ギャラリーは入れない。

 入る資格があるのは実際に倒した俺とステフのみ。


 最奥の間は狭く、中央に転移クリスタルが置かれているだけだ。

 シンシアとファースト・ダンジョンをクリアしたときは、火精霊がクリスタルに吸い込まれ、クリスタルは赤く変色した。

 そして、火精霊王様と出会うことになった。


 今回も同じことが起きるか気になっていたが、精霊たちはおとなしい。

 無関心に飛び回る精霊を見て安心した。

 シンシアと分かれている状態で精霊王様と会うのは避けたかったからな。


「ほら、登録しちゃえ」

「あっ、ああ……」


 ステフは俺より年上だったはず。

 能力的には風流洞をクリアできるのに、パーティーに恵まれず、長年この街で足止めを喰らっていた。

 それが俺たちと出会ったことで、その日のうちに踏破することになってしまった。


 ロードを倒すまでは戦闘のことで頭がいっぱいになっていたのだろう。

 ようやく自分が成し遂げた事を理解したようだが、まだ、頭と気持ちがついて来ていない様子。

 ステフは恐る恐る、確かめるようにしてクリスタルに冒険者タグを近づける――。


「【2つ星】……」


 ステフの冒険者タグに2つ目の星が刻まれる。

 それをじっと見入る瞳から、一筋の涙がこぼれた。


 ――タグに星を刻む。


 冒険者人生で一度か二度。三度あるのは極ひと握り。

 そんなビッグ・イベントを唐突に迎えさせてしまった。


 ちょっと申し訳なかったかな、と今になって思う。

 それと同時に、「イケメンは涙流すだけでも絵になるんだな」という、わりとどうでもいい考えも頭に浮かんだ。


「おめでとう。これで同じ【2つ星】だ」

「あ、ああ……」


 この【2つ星】は俺が無理矢理取らせたものだ。

 あまり褒められた行為じゃない。

 だが、魔王討伐を目指す俺たちはそんな事は言ってられない。

 それに、ステフも「覚悟する」と自分で決めたのだ。

 感傷に浸るのは、夜、一人になってから好きなだけやればいい。

 今日やるべきことは、まだ残っている。

 むしろ――この後が本番だ。


「戻るぞ」

「……ああ」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

次回――『風流洞攻略7日目を終えて』

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