第125話 風流洞攻略7日目を終えて

 ダンジョン入り口に戻った俺たちは、シンシア、メンザと合流する。


「ラーズ、どうだった?」


 シンシアが問いかけたのは俺だったが、ステフは笑顔とともにサムズアップで応じる。

 相変わらずのブレない振る舞いに、思わず苦笑が漏れる。


「その様子だと、無事に課題はクリア出来たようですね」

「ああ、ステフの根性を見せてもらったよ」


 孫の奮闘にメンザおじいちゃんは頬を緩めている。


「シンシア、治してやってくれ」


 気を張っているが、ステフは全身傷だらけだ。


『――【聖癒(ホーリー・ヒール)】』


 聖なる光がステフを包み込み、傷はすぐさま癒えていく。


「身体が……軽いっ!!」

「ほほう。これはすごい」


 二人が驚くのも当然だ。

 【聖癒(ホーリー・ヒール)】は普通の回復魔法より、回復量・回復速度ともに優れている。

 加えて、回復するだけでなく、しばらくの時間身体能力を向上させるバフ効果を付与することも可能だ。

 その回復魔法は、【聖女】クウカを上回るほどだ。


 だが、ひとつ問題点がある。

 メンザが以前、指摘したように燃費の悪さだ。

 【聖誅乙女】は他のジョブランク3回復職より物理寄りだ。

 精霊王様から授かったユニークジョブであるが、魔力量は他ジョブより少ない。

 【聖癒(ホーリー・ヒール)】頼みの戦い方をしていたら、すぐに空(から)っ穴(けつ)になってしまう。


 今はポーションに頼れるが、被ダメージを少なくする戦い方が必要だ。

 そのために必要なのはタンク――ステフとメンザだ。

 彼らをパーティーに入れるかどうか。

 これから最終テストだ。


「ステフも【2つ星】になれた。第41階層に転移できるか確かめるぞ」


 再度、モンスター・ファーム奥の小部屋に転移し、転移クリスタルをアクティベートする。


 ――今度は問題なく、ステフも登録することが出来た。


「じゃあ、最終試験だ。第41階層で二人が通用するかどうか、見せてもらおう」

「試される側ですか。腕が鳴りますね」

「私も負けないッ!」


 俺たちは第41階層へと飛んだ――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 今日の午後。

 半日かけて、メンザとステフ両人の力量を確かめ、サラも加えた五人パーティーでの戦い方を模索した。


 結果から言うと、メンザはもちろん、ステフも合格だ。

 現状では、ステフは俺たちよりレベルが低く、タンクとしての防御力は少し足りていない。

 だが、その程度のステータス差は俺のエンチャントとメンザのフォローでなんとかなる。

 それに、この先、レベル差はすぐに埋まるのだ。


 そして、マラソンとロード戦で見せてくれた根性は中々のものだ。

 人間性にちょっと問題があり、仲良くなるのは難しいかも知れない。

 だが、冒険者として見る限り、ステフは文句なし。

 ぜひとも、一緒になって欲しい人材だ。


「二人とも十分だ。明日からも力を貸してくれ」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「そうか……」


 俺に向けるステフの視線は、朝に比べるとだいぶ柔らかい。

 ロード戦を終えた辺りから、ステフの俺に対する当たりは明らかに弱くなった。

 少なくとも冒険者としては、俺を認めてくれたようだ。

 そして、自分が一人だけ格下であることを理解したのだろう。

 午後は俺に突っかかってくることは一度もなく、素直に指示に従ってくれた。

 経験はまだまだだが、戦闘センスには光るものがある。

 ステフの今後の成長が楽しみで、午前中の失礼な態度はあまり気にならなくなった。

 やっぱり俺は冒険者なんだな――と実感する。


「みんな、お疲れ。明日は第42階層の探索だ」

「「おー!!」」

「楽しみですね。血が騒ぎます」

「私も遅れはとらないぞっ!」


 みんなやる気満々だ。

 嬉しくなる。

 ずっとこういうパーティーに憧れていた。

 『無窮の翼』では手に入れられなかったものだ。


「それで、この後はどうする? できれば歓迎会を開きたい」

「サラ、いくー!」

「ははっ、サラは外に出られないだろ。お留守番だ」

「むー」

「明日、また、おいしい魔力やるから、それで我慢してくれ」

「わかったー!」

「そうね。私も二人を歓迎したいわ」

「お誘いはありがたいのですが、私はギルドに戻らないといけませんので、辞退させてもらいます」


 メンザは支部長としての役目もある。

 多忙だったロッテさんの仕事を一部肩代わりすることになったのだ。

 この街で一番忙しいのはメンザかもしれない。


「またの機会を楽しみにしてますよ。今日は若い人たちで楽しんでください」

「ステフはどうする?」


 個人的な意見としては、シンシアと二人きりの夜を過ごしたい。

 だが、バーティーリーダーとしては、少しでもステフとの溝を埋めるべきだと考える。

 もちろん、俺は後者を優先させた。


「シンシア嬢に誘われたら、断るわけにはいかないな」


 初心(うぶ)な少女だったら、それだけでコロっていってしまいそうな笑顔をシンシアに向ける。


 いや、誘ったの俺なんだけど……。


 シンシアはさらっと流し、なんでもない顔をしている。

 もちろん、シンシアを信じているが、その反応に少し安心した。


 その後シンシアと相談した結果、三人での歓迎会は店ではなく、俺たちの拠点で行うことに決まった。

 早いうちにステフとの関係を良好にしておくべきだと、シンシアも思っているのだろう。


 第一印象は最悪だった。

 このまま、こじらせてしまったら、取り返しがつかない。

 その前に打てる手は打っておくという考えには、俺も賛成だ。


 それでも、ダメならどうしようもない。

 残念だけど、縁がなかったということだ。


 ――俺たち三人は拠点に戻った。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 次回――『ステフ歓迎会1』


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