第123話 風流洞攻略7日目6:ロード撃破
「よし、よく耐え切った。後は任せろッ」
体力を使い果たして倒れ込むステフの前に立ち、ロードと対峙する――。
ロードの頭部には大きな口がある。
その口が一番の弱点で、そこに攻撃を集中させて止めを指すのがセオリーだ。
しかし、高さ30メートルにあるロードの頭部に攻撃を加えるのは困難だ。
近接職はもちろん、遠距離攻撃で狙い、有効なダメージを与えることも難しい。
一見、手詰まりのようだが、ロードには他のモンスターにない特徴がある。
その特徴を利用して倒すのが一般的だ。
ロードの特徴――それは、ダメージを受けると少しずつサイズが縮むこと。
まずは、幹に攻撃を集中させ、ロードを小さくしていく。
最終的に2メートルを切るサイズまで縮めてから、口を攻撃して倒す。
これがスタンダードな攻略法だ。
だが、対ロード戦にはもうひとつ、極めてシンプルな攻略法がある。
「言うは易し、行うは難し」の類(たぐい)の攻略法だが――。
開幕からしばらく、ロードの攻撃は硬殻実(ハード・ナッツ)の撃ち出しだけだ。
それが一段落すると、上部にある大きな口から、大量の手下モンスターを産み出す。
ロードは硬殻実(ハード・ナッツ)の撃ち出しとモンスター産出の攻撃を交互に行う。
モンスター産出は「波」と呼ばれ、回数を増すごとに生まれるモンスターは数も強さも増してくる。
時間をかければかけるほど、討伐は困難になっていくのだ。
そして、波のとき、ロードの弱点である口は剥き出しになる。
ロードが放つ第一波に合わせ、弱点である口に高火力を叩き込み、攻撃が本格化する前に瞬殺する――これがもうひとつ攻略法だ。
俺はロードの口に向かって、両腕を構える――。
『風の精霊よ、集い、固まり、縮まりて、敵を穿(うが)つ弾となれ――【風凝砲(ウィンド・キャノン)】』
ロードの口が大きく開き、無数のモンスターが産み出される、その瞬間――俺はガーディアンすら一撃で葬る【風凝砲(ウィンド・キャノン)】をブチかましたッ!!!
特大の一発は吸い込まれるようにロードの口へ向かい、生まれたてのモンスターをものともせずに消滅させ、ロードの口内で激しく爆ぜる!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ。
大きな音と激しい揺れ。
それと一緒に、ロードは塵となって消え去った――。
レベル285の【精霊統】にとって、ロード戦は戦いではなく、ただの作業に過ぎなかった。
後ろを振り返ると、倒れたままポカンと口を開けているステフ。
「うっ、うそだっ……ロードが一撃でっ……」
「これが『精霊の宿り木』の力だ」
「…………」
悔しそうに唇を噛みしめる。
彼我の実力差は当の本人が一番良く分かっているだろう。
「これを見てもついて来るか? 今なら辞めても構わないぞ」
「クッ……」
絶対に敵わないと思われる実力差。
相手が仲間であれ、モンスターであれ――それを突きつけられるのはとても残酷だ。
何度も死にかけ、それでも立ち上がってきた者。
そのような者でも、実力差という壁の前では脆く崩れ去る。
――本当に戦うべき相手は、ダンジョンでも、モンスターでもない。自分の心の弱さだ。
多くの者が心折られ、膝をつき――冒険者を辞めていった。
だが、俺はあえてステフに壁を見せつけた。
現実を突きつけること――これこそが、ステフと二人でロードに挑んだもうひとつの理由だ。
ステフの跳ねっ返りな性格は、今までソロで多くのパーティーを渡り歩いてきた自信に裏打ちされているのだろう。
きっと、今まで一緒に戦ってきた冒険者たちより、ステフは頭ひとつ突出していたはずだ。
だから、自分は最強だと、負けなしだと思い込んでいる。
だけど、それは思い上がり――井の中の蛙だ。
ステフは知らなかった。
【2つ星】冒険者という人間を。
確かに、ここでは最強だったかもしれない。
だが、ステフ程度、サード・ダンジョンにはゴロゴロいる。
増長したままで俺たちについて来たら、あっという間に死んでしまう。
だからこそ、『精霊の宿り木』の、ひいては、パーティーリーダーである俺の実力を、否定できないかたちで、はっきりと見せつける必要があった。
ステフの鼻っ柱を一回粉々に砕かねばならなかったのだ。
酷なことをしている自覚はある。
下手したら、自信を喪失し、冒険者を廃業してしまう可能性もある。
しかし、ステフはメンザに推薦された。
あの人は身内びいきをするような人ではない。
そのような人間では、ギルド支部長は務まらない。
横たわるステフを黙って見下ろす。
値踏みする挑発的な視線を、ステフは強い意志で跳ねのけた。
「私は……まだっ、諦めない」
「ほう」
「今はまだまだ足元にも及んでいない。それはハッキリと分かった。だがっ、必ず追いついてみせる。そして、追い越して見せるッ!」
――その気概や良し。
高い壁を目前にし、じっと上を見上げ、立ち上がる――それが、それこそが冒険者だ。
ステフの燃える瞳が、今までの失礼な態度を忘れるほど、俺には嬉しかった――。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
お互い少し歩み寄れた模様。
次回――『風流洞攻略7日目7:【2つ星】ステフ』
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