第121話 風流洞攻略7日目4:イヴィル・トレント・ロード
セカンド・ダンジョン風流洞ラスボス――イヴィル・トレント・ロード。
通称『ロード』。
まるでダンジョンの主であることを主張するかのように、風流洞で唯一、ロードの名を冠するモンスターだ。
実はこのボス、倒すだけなら簡単だ。
というのも、他のボス部屋と違い、ここは人数制限がないのだ。
普通ボス部屋はひとパーティーしか入れない。
対して、ここは何パーティーでも入ることが出来る。
その上、途中入退室も可能だ。
ただし、風流洞クリアの証である【2つ星】は単独パーティーで討伐した場合にしか手に入らない。
なので、最初は複数パーティー合同――いわゆるレイドで挑んで経験を積み、段々と人数を減らしていき、最終的に単独クリアを目指すのが定石だ。
ボス部屋前にいた冒険者たちもレイドのために集まった者たちだろう。
そんな相手に俺たちは二人で挑む。
ラスボスとはいえ、最近狩りまくっているウッド・ゴーレム・ガーディアンに比べたらザコに過ぎず、俺はなんの気負いもない。
だが、ステフは違う。
初見ラスボス、しかも、レイド前提の相手ということで、少し固くなっている。
「行くぞ」
大勢の冒険者に見送られながら、ボス部屋に向かう。
ステフはマジック・バッグから大きなカイトシールドを取り出して装備した。
俺は手ぶらのままだ。
巨大な扉に手を当てると、ゆっくりと扉が開いていく。
ここのボス部屋はデカい。
百人が同時に戦闘できるほど広い。
そして、天井が高い。50メートルはあるだろう。
それだけ、ロードはデカいのだ。
「ロードのことはどれだけ知っている?」
ロード出現までは数分の猶予がある。
この時間に陣形を整えるのだが、俺たちは二人なので陣形もなにもない。
丁度いい場所に位置取り、ステフと最終確認だ。
「スペックは知っている。それと行動ルーチンも」
「なら、十分だ。おまえの仕事はただひとつ。第一波が来るまで砲撃を全て防げ。それだけだ」
「第一波が来た後はどうすればいい?」
「それで終わりだ。俺が倒す」
「なッ!? 本当に出来るのかッ?」
「ああ。言っておくが、上層部のモンスターに比べたら、ロードなんか足元にも及ばないぞ。コイツの攻撃を止められないようじゃ、上層部に連れていくことはできない」
ステフがゴクリと息を呑む音が聞こえた。
今回、二人でロードに挑む理由は二つある。
そのひとつはステフのタンクとしての実力を図ること。
ステフにも言ったように、ロードの攻撃を防げないようじゃ、ガーディアンの一撃であの世行きだ。
そして、もうひとつの理由は――。
「分かった。やってみる。おまえには傷ひとつ負わせない」
「まあ、死なないように頑張れ」
本当に死にかけたら助けに入るつもりだが、それは伝えない。
助けてもらえると知ってれば、どこかに甘えが出る。
だから、俺は突き放す。
格上相手でも引かない覚悟を見せてくれ。
そして――前触れもなく、部屋中央にロードが現れる。
「うわッ!」
ステフが驚きの声を上げる。
ロードは直径10メートル、高さ30メートルの巨大樹だ。
それが突如、眼前に出現するのだ。
ここまでに出会うモンスターとは比較にならない大きさ。
情報としては知っていても、それを実際に見るのは別物だ。
初見だと、いきなり壁が現れたとしか認識できない。
最初はみな、ステフと同じ反応を示す。
ステフは比較的早く立ち直った。
俺を庇うように前に立ち、カイトシールドを構える。
ちゃんとタンクとしての動きが身体に染み付いている。
考える前に身体が動いたところは評価できるな。
長さ1メートル、幅50センチもあるカイトシールドだ。
上辺は水平。これは敵の動きを観察しやすいように。
下にいくにつれて細くなり、先端は尖っている。
鈍色(にびいろ)に輝く武骨な盾だ。
強度重視で重く硬い鋼鉄製だろう。
ステフはその大盾で二人を守れるように構える。
盾は大きく重たいが、身にまとっているのは軽量(ライト)・チェインメイル。
その輝きから、鋼鉄になんらかの魔物素材を混ぜ込んで軽量化しているのだろうと推測できる。
防御力より素早さ重視の鎧だ。
敵の攻撃を真正面から受け止めるゴリゴリの重タンクだったら、もっと重く硬い鎧を身につけるはずだ。
そうしていないのは体格の問題か、それとも、別の理由か……。
ステフの体格はタンクに向いているとは言いがたい。
それでも冒険者の間で一定の評価を得ていることから、きっと後者であろう。
そうこうしているうちにロードは枝葉をざわめかせる騒々しい音とともに、攻撃を開始する――。
ロードの形状は一般的な樹木と変わりがない。
下部に幹があり、上部に枝葉がある。
ただ、サイズが桁違いなだけだ。
ロードの初手は一斉射撃だ。
太い枝を揺らし、直径30センチほどの大きく硬い実――硬殻実(ハード・ナッツ)を複数打ち出して来るのだ。
ただでさえ速い弾速は高所から打ち下ろされることによって、さらに加速するッ――。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『風流洞攻略7日目5:ステフの意地』
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