第119話 風流洞攻略7日目2:マラソン

「よし、決まった。今日中にステフに風流洞を制覇させ、【2つ星】にする」

「なっ!?!?」


 ステフの最高到達階層は37階層。

 今日中にステフを風流洞を全踏破させるためには、俺たちの力が絶対に必要だ。

 だが、逆に、俺たちであれば問題ない。

 ステフがこの先ついて来られる能力があれば、達成可能な課題だ。


 俺とシンシアは先日41階層のチェック・ポイントに登録したことによって、5の倍数の階層に転移できるようになった。

 まずは俺たちが37階層にたどり着き、そこで二人に合流する必要がある。


「じゃあ、俺とシンシアは35階層から37階層に向かう。二人は37階層スタート地点で待っててくれ」

「分かりました。そうしましょう」

「意味が分からん。今日中に踏破だとッ!? それに待ってろとはどういうことだ。2階層を踏破するのにどれだけ時間がかかると思ってるんだッ! フザケるなッ!!!」


 メンザさんはすんなり承知してくれた。

 今までの報告書から判断して、俺たちがフザケているわけではないと分かっているのだろう。


 しかし、ステフは俺たちが冗談でも言っていると思ったのだろう。

 からかわれていると思い、激高している。

 だが、俺は至って本気だ。


「まあ、三十分もかかんないだろ。なあ、シンシア?」

「ええ、強敵もいないし、距離もそんなになかったわね」

「はっ!?」

「まあまあ、ステフ。ここはラーズの言葉に従いましょう」

「くッ……」


 メンザには逆らえないようで、ステフはおとなしく引き下がった。


「じゃあ、また後で。シンシア、サラ、行こう」

「では、後(のち)ほど」

「らじゃー!」


 二人を残し、俺たちは35階層に転移した――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 ――第35階層スタート地点。


「サクッと駆け抜けよう」


 ファースト・ダンジョン以来、久々のマラソンだ。

 ここから37階層まで最短距離で約15キロメートル。

 この辺はファースト・ダンジョンより記憶に新しい。

 道筋はしっかり覚えているし、出現モンスターも大したことない。


 俺たちの実力を認めていないステフの鼻を明かしてやりたいところだ。

 なので、全力で一気に駆け抜ける。

 少しもったいないけど、ドロップ品は全スルーだ。


 シンシアと自分に精霊エンチャントをしてから駈け出した――。


 全速で35階層を駆けて行く。

 出会うモンスターは先頭のサラが【火弾】で焼きつくしていく。


 サラに任せた理由はシンシアと話したかったからだ。

 走りながら気になっていたことを尋ねてみる。


「以前ステフとなにかあったのか?」

「そうね…………」

「言いにくかったら、無理に言わなくていいけど」

「大したことじゃないのよ。ただ、何度か口説かれたの……」

「口説かれた!?」

「もちろん、断ったわよ。私はそういう趣味じゃないし」


 趣味?

 ああ、見た目で人を判断したりしないってことか。

 世の中には顔が良ければそれでいいって人もそれなりにいるからな。


 シンシアの言うことは本当だろう。

 もしシンシアがイケメン好きだったら、地味顔の俺を選ぶはずがないからな。


「本当にそれだけよ」

「ああ、信じてるよ」


 目と目で通じ合う。

 俺はシンシアを信じる。


「でも、そんな事があったんなら気まずくない? シンシアが嫌なら断るけど?」

「大丈夫。私も冒険者よ。そこら辺はちゃんと割り切るわ。実力があることは間違いないもの」

「そうか。分かった」


 疑問が解消されたところで、36階層への階段へとたどり着いた。

 サラに任せっきりで申し訳ないかなとも思ったが、本人はノリノリで火弾を飛ばしている。

 こちらも問題ないようだ。

 その調子で36階層もサラに丸投げで駆け抜けた――。


 二人と別れてから二十数分後、37階層へ到達。

 約束通り三十分以内で二人と合流できた。


「待たせたな」

「ちゃんと時間内に間に合ったわよ」

「サラ、がんばったー!」

「ありえない速さですね」


 そう言いながらも、メンザはそれほど驚いていない。

 一方のステフは――。


「インチキだッ! どうせ、近くのチェック・ポイントまで転移してきたんだろ。この時間で2階層も踏破出来るわけがないッ!」

「じゃあ、これから証明してやる。遅れずについて来いよ」

「なッ!?」


 憤慨しているステフには構わず、俺は皆に告げる。


「今から40階層を目指す。昼前にはラスボス倒すぞ」

「「おー!」」

「ふふっ。楽しみです」

「…………」

「じゃあ、先頭は――」

「私がやるわ」


 また、サラに任せようと思っていたら、シンシアが名乗りを上げた。


「サラちゃんが活躍しても精霊だからって思われちゃうでしょ?」

「まあ、そうだな」

「ちゃんと【精霊の宿り木】の実力を示してあげるわ」


 好戦的な視線をステフに向けたまま、シンシアは続ける。


「言っておくけど、ラーズは私より強いわよ。あなたが侮っていい相手ではないわ」


 ああ、これは怒っている。

 俺に失礼な態度を取ったことに、本気で怒っている。


「ちょっと飛ばすけど、ついて来られる? 遅れるようだったら置いていくから」

「ついてこいー!」

「大丈夫だ。体力には自信がある」

「ふふっ。やはり、あなた方は面白いですね」


 出発前にメンザとステフに精霊エンチャントをかける。

 シンシアと俺はまだ効果が残っている。

 この階層ならわざわざかけ直す必要もないだろう。


「これで普段とは比べ物にならない速さで走れるし、疲労も少なくなる。この状態でついて来られない人間はウチには必要ない」

「ほほう。これは凄いですね。報告書で聞いていた以上です」

「俺たちは日々成長している。少し前の情報は当てにならないと思ってくれ」

「ここまでしてもらって、遅れるわけにはいきませんね。老体に鞭打ってみせましょう」


 そう謙遜するが、還暦とは思えないほど活力に満ちた若々しい身体だ。

 今でも鍛錬を怠っていないことがひと目で分かる。

 魔法職であるが、問題なく着いてこれるだろう。


 問題はステフだ。

 持久力のある盾職だが【1つ星】。

 ジョブランク2で、レベルは205だ。

 ついて来られるかどうかは半々だと思う。

 根性を見せてもらいたいところだ。


 ステフはなにも喋らなかったが、精霊術の効果に驚嘆しているようだ。

 じっと口を結んでいるが、それが表情に滲み出ている。

 そこら辺はまだまだ未熟なようだ。


「先頭はシンシア。次いでメンザ、俺、ステフの順だ。最後尾のサラは後方警戒を任せる」

「おー!」


 俺たちは40階層目指して走り始めた――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 次回――『風流洞攻略7日目3:マラソン2』


 ステフはついて来られるか?

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