第118話 風流洞攻略7日目1:サラと二人の対面

 俺たちはギルドを後にして、ダンジョンに向かった。

 【魔導壁】メンザ、【盾闘士】ステフのタンク二人を加えた新生『精霊の宿り木』のスタート。

 まだ二人は仮加入。どうなるかはこれから次第だ。


「では、転移しよう」


 ダンジョン入り口から四人揃って転移する。

 場所は第1階層モンスター・ファーム奥のセーフティー・エリア。

 俺たちはここのチェック・ポイントに登録して第41階層に行けるようになった。

 メンザとステフも行けるようになるのか、その確認だ。


「あるじどのー、ままー」


 チェック・ポイントに転移すると、顕現したサラが俺とシンシアに抱きついてくる。

 その頭を撫でているうちに、ステフのことでささくれだっていた心が癒やされていく。


「ふむ。これが火精霊サラ殿ですか。非常に興味深いですね」

「ほら、サラ、新しい仲間だ。ちゃんと挨拶しなさい」


 普通の精霊は普通の人には見えないが、サラは特別でみんなにその姿が見えるのだ。

 サラは俺たちから離れ、メンザに向き直る。


「おっちゃん、こんちはー」

「これはこれはご丁寧に。お初にお目にかかります、精霊殿。私はメンザと申す者、しばらくご主人であるラーズと一緒に冒険することになりました。よろしくお願いします」

「サラだよー。おっちゃん、よろしくー」


 サラは人怖じもせず、メンザに向かって手をブンブンと振っている。

 失礼な態度かもしれないが、メンザは気にする様子もなく目を細めていた。

 さすが、変人揃いの『五帝獅子』唯一の良心と言われるだけはある。


 そして、もう一人はというと――。


「カワイイ…………」


 一歩二歩と吸い寄せられるようにサラに近づき、両腕を回してサラを抱きしめようと――。


『――【炎朧(えんろう)】』


 サラの身体がブレて、俺の背後に出現する。


「むー、コイツきらいー」


 嫌悪感をむき出しにするサラ。

 こんな姿を見るのは初めてだ。

 だが、ちょっと胸がスカッとした。


 つーか、さっきシンシアに馴れ馴れしくしたばかりなのに、節操ないなコイツ。

 とはいえ、一応コイツも仲間になるかもしれないのだ。

 仲良くしろとは言わないが、挨拶くらいは交わしておかないと。


「コイツはステフ。今日はコイツも一緒だ。ほら、ちゃんと挨拶しないと」

「やー!」


 すっかりヘソを曲げてしまったようだ。

 ステフはというと空振りしてしまった両腕を前に出したまま、萎れた花のように立ち尽くしていた。

 ざまあみろ、と思った俺は悪くないだろう。


 しかし、ステフは気を取り直したようで――。


「よろしくね、サラちゃん」


 キラリと星が飛びそうなイケメンスマイルで、まったくめげた様子がない。

 メンタルは強いようだ。


 だが、サラは横を向いたままで口を尖らせている。


「なあ、サラ、なんでそんなに毛嫌いするんだ?」

「コイツ、あるじどののこと嫌いだもん。あるじどのの敵はサラの敵ー」


 俺も嫌われているのは分かっていたが、精霊であるサラも敏感にそれを感じ取ったようだ。


「まあ、燃やさないでくれよ」

「むー、がんばってみる」


 頭をなでてやると機嫌が直ったようで安心した。


「ロリツンデレ……ありだな」


 なんかステフがブツブツつぶやいていたが、小さな声だったので聞き取れなかった。


「まあ、挨拶はこれくらいにして、本題に移ろう。サラ、もう一回アクティベートしてもらえるか」

「わかったー!」


 前回と同じように、サラが転移クリスタルと向き合い、手をかざす。


「あくてぃべーと!」


 掛け声とともに、無色だったクリスタルが緑色に変わる。


「「いえーい!」」


 サラはシンシアとハイタッチを交わす。

 うん、息がぴったりだ。


「ほう。報告通りですが、実際に目の当たりにすると驚きますね」


 そう言いながらも、声も表情もまったく驚いた様子がないのはさすがだ。


「じゃあ、メンザから試してみてくれ」

「はい。やってみましょう」


 メンザが冒険者タグをクリスタルに触れさせる。


「成功です」


 メンザが見せてくれた冒険者タグ。

 第41階層が登録されている。

 俺は内心、胸をなでおろした。

 精霊王に認められた人間でないと上層部に行けない可能性を恐れていたのだ。


「じゃあ、次はステフ」

「…………」


 ステフは無言で冒険者タグを取り出し――。


 一瞬、悔しそうに顔を歪ませる。


「ダメだ」


 メンザが大丈夫だったので、ステフも大丈夫かと思ったが、そう上手くはいかなかった。


「取れる方法は二つですね」

「ああ」

「リーダーにお任せします」

「シンシアは?」

「ラーズに任せるわ」


 「ステフは?」と当事者に訊くのはさすがに酷だろう。

 メンザが指摘したように、選択肢は二つある。

 ステフを切り捨てるかどうか。


 だが、いくら馬が合わない相手だからといって、簡単に切り捨てるほど俺は子どもじゃあない。

 まだステフの能力の欠片も知らないのだ。


 さて、決断する前にもう少し情報を集めよう。


「ステフ。最高到達階層は?」

「……37階層。ソロでは22階層だ」


 やはりそうか……。


 メンザは大丈夫で、ステフがダメ。

 その理由として考えられる違いは、ここ風流洞を踏破しているかいないか。


 というのも、上層部のスタート地点は第41階層と表示された。

 つまり、第40階層の上の階層。

 五大ダンジョンはどれも階層を飛ばすことは出来ない。

 メンザが上層部に飛べて、ステフが跳べないのは第40階層まで踏破してないから――そう考えるとつじつまは合う。


 確証はないが、試してみる価値はある。

 切り捨てるのは簡単だが、ここは回り道してみよう。

 どうせ、半日もかからないのだから――。


「なあ、ステフ。俺たちについて来るなら、今までの常識は通じない。無茶苦茶なことをするし、命の保証もない。それでもついて来る覚悟はあるか?」


 真っ直ぐにステフを見据える。

 一瞬ためらったが、すぐにステフは言い返してきた。


「とっ、当然だッ! 覚悟ならとうに出来ているッ!」


 イケメンで負けず嫌い――俺は幼馴染の顔を思い出した。


「言ったな? もう取り消せないぞ?」

「ああ、私も冒険者だ。吐いたツバは飲まないッ!」

「よし、決まった。今日中にステフに風流洞を制覇させ、【2つ星】にする」

「なっ!?!?」


 ステフは信じられないといった視線を向けてくる。


「覚悟はあるんだろ?」

「…………」


 黙りこんでしまった。

 だが、自分で言ったことだ。

 冒険者に二言はない。


 37階層から40階層まで一日でクリア。

 普通だったら、不可能な提案だ。

 だが、俺たちにとってそれは不可能でも何でもない。

 ただの、ちょっとした寄り道に過ぎない――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 【炎朧(えんろう)】

 炎が揺らぐように身体がブレて、短距離ワープする。

 攻撃を避けるだけでなく、嫌いな相手からのハグを回避するのにも有効。


 次回――『風流洞攻略7日目2:マラソン』


 ステフはついて来られるのか?

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