第117話 新パーティー始動
この前の会食時、追加メンバーは二人と聞いていたのだが、この場所にいるのは俺たちと、ステフとメンザさんのみ。
遅れているのか、後から合流なのか……。
「新規メンバーは二人と聞いていたのですが?」
「ええ、その通りですよ」
「もう一人は?」
「ここにいますよ」
「まさか、メンザさんが!?」
「私では不服ですか?」
「いや……」
まさか、支部長本人だったとは……。
だが、メンザさんなら不服どころか大歓迎だ。
冒険者ギルド・ツヴィー支部長メンザ。
過去百年間で最高のパーティーと名高い『五帝獅子』の元メンバーにしてサブリーダー。
最終到達階層はフォース・ダンジョン水氷回廊、第27階層。
その記録は以来更新されていない。
生きる伝説の一人だ。
彼と一緒にパーティーを組めるのは、俺たちにとって計り知れない経験になるだろう。
まったく想定していなかった意外な人選だが、言われてみればメンザさんほど適任者はいない。
戦力・知識・経験――どれをとってもこの街のナンバーワンだ。
「あなた方『精霊の宿り木』の弱点は3つ。そのうちの2つ、人数不足と防御力はこれで解消できるでしょう」
メンザさんのジョブはランク3の【魔導壁】。
強力な魔法障壁を張れるユニークジョブだ。
俺たちの欠点はタンク不在だ。
三人とも前衛をこなせるが、専門のタンクではない。
シンシアもサラも回避型。
ある程度、敵の攻撃を引き付けることは出来るが、高威力の攻撃――例えば、ガーディアンの突進など――を受け止める力はない。
俺の精霊壁もある程度は攻撃を防げるが、連発できないという欠点を抱えている。
今後、強敵と対するにあたって、タンク役は絶対に必要になるのだ。
それにしても、さすがはメンザさんだ。
ロッテさんからの報告で、俺たちの弱点を正確に把握し、適切な人材を選び出してくれた。
ステフの物理防御とメンザさんの魔法防御。
この二人が加われば、パーティーの安定度はグッと上がり、一段階も二段階も強くなるだろう。
「でも、いいのですか? 支部長の仕事も忙しいのでは?」
「優秀な部下たちに恵まれてますので問題ありません。それにギルド側としても、私が加入することは望ましいことなのです」
「どういうことですか?」
「ひとつは私がこの目で直接確かめたいからです。ロッテ嬢の報告は正確です。しかし、冒険者である私が見た方が、より多くの情報が得られます」
その通りだ。
戦力以外にも情報収集という面でも、メンザさんほどの適任者はいない。
フォース・ダンジョンを知る、元【3つ星】冒険者。
俺たちが気づき得ないことにも気づけることがあるはずだ。
「もうひとつの理由はロッテ嬢の負担を減らすことです。あなた方『精霊の宿り木』がもたらす情報はギルド全体で考慮すべき最重要案件です。それをロッテ嬢一人に背負わせるのは酷なものです。彼女の激務はあなたが一番ご存知でしょう」
「そっ、そうですね……」
その原因となっている身としては申し訳なく思う……。
ロッテさんに視線を向けると、輝かんばかりの笑顔。
休みを勝ち取った勝者の笑みを浮かべていた。
「もう一人専属担当官を付ける案も出たのですが、すぐに適任者を見つけることも出来ず、それならばと私が名乗りを上げたのですよ」
「そういう事情でしたか」
「ええ」
「納得しました」
「――というのは建前です」
「えっ!?」
「あなた方の話を聞いて、一度は消えてしまった冒険者魂にまた火がついてしまったのですよ」
元【3つ星】でもない。
ギルド支部長でもない。
目の前にいるのは、研ぎ澄まされた本物の冒険者だ。
「だいぶ鈍っていましたが、ここ数日でそれなりに勘は取り戻しました。あなた方に後(おく)れを取るつもりはありませんよ」
背筋に電気が走る――。
怒気や殺気を放っているわけではない。
ただ純粋な気迫がひしひしと伝わってくる。
「分かりました。メンザさん、よろしくお願いします」
俺がそう述べると、空気が弛緩した。
「まあ、私の方はこの街限りのスポット参戦ですが、こちらこそよろしくお願いします」
立場上、この街からは離れられないのだろう。
だが、その短い期間だけでもありがたい。
「これからは同じパーティーです。呼び捨てで結構。それと、私は誰に対してもこの話し方なので変えませんが、冒険者らしい話し方で構いませんよ」
「ああ、分かった。よろしく、メンザ」
「よっ、よろしく、メンザ」
俺、シンシアの順でメンザと握手を交わす。
大ベテランの先輩なので、もちろん敬意は払うが、これで対等な仲間だ。
俺も負けてはいられない。
「ふふっ。パーティーを組むのは久々です。血が騒ぎますね。ほら、ステフも」
メンザにうながされ、ステフも右手を差し出す。
俺との握手はイヤイヤやってるのが丸分かり。
対して、シンシアには嫌になるほど念入りに。
思わずシンシアが自分から手を引いたくらいだ。
やはり、シンシアに気があるんだろうか?
それとも、女性なら誰でもいいんだろうか?
どちらにしろ警戒しないとな。
「では、パーティー加入手続きを済ませましょう」
今まで黙って見ていたロッテさんが口を開いた。
俺たちはロッテさんに冒険者タグを渡す。
ロッテさんは携帯端末を操作し、冒険者タグにパーティー情報を記録していく。
「それで、もうひとつの弱点ですが……ラーズは自覚していますか?」
「ええ、燃費の悪さです」
「そうですね。ちゃんと自覚しているのは良い事です」
俺たち三人とも高火力攻撃でガーディアンを一撃で葬れるが、一発の魔力消費が大きすぎる。
今は魔力ポーションをがぶ飲みして凌いでいるが、いつまでもこのままで行けるわけではない。
メンザさんはそこまで見通していたのか……。
「エルフ王族から支援でしばらくは大丈夫でしょうが、私からもプレゼントがあります」
メンザさんが2つの腕輪(バングル)を差し出してきた。
メンザさん自身が左腕につけているのと同じものだ。
見たことがない。
きっと、フォース・ダンジョン装備だろう。
「これは?」
「バフォメット・バングル。フォース・ダンジョン第20階層ボス、バフォメットの角で作った腕輪です。装備すると消費魔力量が3分の1になります」
「なっ!?」
消費魔力を抑えるアイテムはサード・ダンジョンの中盤くらいから手に入るようになる。
それでも、減らせるのは1割とか2割とかだ。
3分の1とは、破格過ぎる。
これが『五帝獅子』の装備品か……。
「でも、いいのか? こんな大層なものを貰って」
「構いません。バフォメットの角は大きく、1本から5個も作れるのです。予備で持っていたもので、適任者が現れたら渡そうと思っていたものですよ」
「……では、ありがたく使わせてもらおう」
さっそくバングルを腕に嵌める。
シンシアもおっかなびっくりバングルを眺めている。
「私からは以上です」
メンザはそう言って、俺に視線を向けてくる。
ああ、リーダーとして俺を立ててくれているんだな。
「よし、じゃあ、ダンジョンに向かおう」
「うん、行こう!」
「行きましょう」
「…………」
ステフだけが無言。
まだ仲間として認められていないようだ……。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
二人目は支部長でした。
これでロッテさんもちゃんと休みが取れるよ!
支部長のようなギルド主要メンバーは引退後にも定期的にダンジョンに潜って戦力維持に努めてます。
現役当時とは言わないまでも、8割程度の実力はあります。
次回――『風流洞攻略7日目1:サラと二人の対面』
サラちゃん面接。
二人は合格するでしょうか?
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