第115話 会食4
「――私からは以上です。最後にクラウゼ殿下から話があります」
メンザさんから話を振られたクラウゼ殿下は慌てて居住まいを正す。
「あっ、ああ……」
今まで会話には一切加わらず、ロッテさんに熱い視線を送っていたクラウゼ殿下だが、気持ちを切り替えたようで俺とシンシアに向かって語り始めた。
「私はこの街の治安部門を預かっていますが、一月ほど前からこの街に不穏な空気が流れているのです」
「というと?」
いきなり、きな臭い話だ。
「まだ尻尾は掴めていませんが、この街で暗躍する非合法組織があるらしいのです」
「非合法組織ですか……。一体なにを?」
「禁薬を大々的に製造し、各地にバラ撒いているのです」
「禁薬?」
その言葉に冒険者対策本部(ボウタイ)のヴェントンから受け取った『無窮の翼』の末路に関する報告書のことを思い出す。
「ええ。ラーズ殿の元パーティーメンバーである咎人クウカ。彼女が使用した禁薬もその組織によって作られたとみて間違いないでしょう」
「…………」
「押収された禁薬を解析した結果、その素材の多くがここツヴィー産。この街に製造工場があると、我々は睨んでいます」
クリストフを洗脳した禁薬か……。
俺もまったくの無関係というわけではないが……。
「それに加えて、小規模ですが人攫いのようなこともやっている容疑がかかっています。その組織がやっているという証拠はまだ掴めていないのですが、不自然な行方不明者がここ一ヶ月で急増しているのです」
「話は分かりました。でも、どうして俺たちにその話を?」
俺もシンシアも冒険者だ。
ダンジョンでモンスターを相手するのが専門。
犯罪の捜査に適性があるとは思えない。
それに、魔王復活がいつか分からない以上、ダンジョン攻略が最優先だ。
「別に、捜査に協力して欲しいというわけではないのです」
「では?」
「先日、冒険者ギルドから、強力な助っ人が捜査に加わってくれることになりました。ですが、まだまだ捜査は難航しており、どんな小さな手がかりでも手に入れたいというのが現状です」
藁にもすがりたいという状況か……。
「あなた方は精霊に愛されし者たち。我々では気づきえない事でも、あなた方なら気づけることがあるかもしれません」
「なるほど、お話は分かりました。なにか気づいたら、お伝えいたします」
「そうしていただけると、こちらとしても助かります」
「それで、何かあった場合、俺たちはどうすれば良いんですか? クラウゼ殿下にお伝えすれば良いのですか?」
「我々は冒険者ギルドと共同捜査に当たってます。ですので、ロッテリア、いえ、専属担当官のロッテ嬢に伝えてもらえれば結構です」
「分かりました」
ロッテさんに伝えるだけなら、大した手間でもない。
「我々からは以上です。お二人からは、なにかありますか?」
「「いえ」」
「では、これでお開きにしましょう」
メンザさんの言葉で会食は幕を下ろした。
王族の二人を残し、俺たち四人は立ち去ろうとし――。
「ロッテリア……」
「……失礼いたします」
クラウゼ殿下が去り際のロッテさんに声をかけてきた。
なにやら二人の間には私的な関係がありそうだが、ロッテさんとしてはあくまでも公人としてのスタンスを崩す気はないようだ。
そんなつれない態度にクラウゼ殿下は寂しそうに目を伏せた。
まあ、二人にどんな関係があろうと、他人が割って入ることではない。
気づかないふりをして、部屋を出る。
途中、目録にあったエルフ王家からの贈り物を受け取り、王城を後にした。
「五日後を楽しみにしているよ」
「私もギルドで仕事があります。拠点には明後日の朝にお伺いしますので、ごゆっくりとお過ごしを……」
ギルド前でメンザさん、ロッテさんと分かれ、暗くなった道をシンシアと歩く。
顔合わせ程度だろうと軽い気持ちで臨んだ会食だったが、思ってた以上に内容が濃かった。
エルフ王家から多大な支援を受け。
千年前の昔話と上層部の由来を聞いて。
新メンバーをお試しで入れることになって。
禁薬作りや人攫いをしている非合法組織の話を聞いた。
「スケールが大きすぎて、いまだに実感できないわ」
「ああ、一ヶ月前の自分に言っても、信じてもらえないだろうな」
「でも、私は嬉しいわ」
「あなたが私に知らなかった世界を見せてくれるもの。毎日刺激的で、とっても楽しいわ」
「シンシア……」
「安心してね。私は最後までついて行くわ。魔王と闘うその時に、あなたの隣に立っているわ」
「ありがとう」
街中ではあるが、暗く人通りも少ない。
それをいい事に、俺とシンシアは熱い口づけを交わした――。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
無事、会食終了!
暗躍する悪者たち。
なにやら、雲行きが怪しくなってきました。
次回――『新メンバーと顔合わせ』
どんな人が来るでしょう?
そのうち一人は既に登場してる人物です。
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