第116話 新メンバーと顔合わせ

 会食を終えてから、五日後。

 今日は新メンバーとの顔合わせの日だ。


 これまでの四日間、なにをして来たか簡単に説明すると――。


 会食から帰宅した俺とシンシアは、自然な流れで同じ寝室へ向かい、愛を確かめ合った。

 そして、翌日。

 休日であり、ロッテさんが来ないことを確認してあったので、俺たち二人は一日中寝室にこもっていた。


 二人とも今まで散々我慢してきたので、箍(たが)が外れたようにお互いを求め合った。

 そして、シンシアが覚えた【聖癒(ホーリー・ヒール)】は凄かった。

 いくら愛し合って疲れても、これ一発で体力全快。

 おかげで丸一日、愛し合うことができて、シンシアとの仲はより一層深まった。


 【聖癒(ホーリー・ヒール)】のおかげで翌日に疲れを残すこともなかったので、次の二日間はダンジョンにこもりきりだった。


 この二日間はレベリングがメイン。

 風流洞に来てからだいぶレベルが上がったが、まだまだガーディアン狩りは効率が良い。

 それに、エルフ王家の支援のおかげで、魔力ポーションは湯水のように使える。

 魔力回復の休憩を取らずに済むようになって、討伐スピードは更に速くなった。


 結局、二日間でガーディアンを五百体狩った。

 おかげで、俺もシンシアもレベル285。

 この街に来てから一週間も立たないうちに50もレベルが上がったことになる。

 驚異的な成長速度だ。

 他人に言っても絶対に信じてもらえないだろう。


 そして、この二日間で第41階層の探索も終わった。

 第41階層のほとんどが格子状に配置されたガーディアン部屋から構成されていたが、それ以外に二つの部屋があった。


 どちらも小さい小部屋で、中央には緑色の転移クリスタルがあるだけだ。

 冒険者タグで登録してみると、ひとつのクリスタルは第42階層へ向かうもの。

 そして、もうひとつは意外にも下層に向かうものだった。

 こちらに登録すると、35階層までの5の倍数の階層のスタート地点にあるチェック・ポイントへ転移可能になったのだ。


 俺たちは風流洞のチェック・ポイントを一回全部リセットしたので、これで5層刻みに転移できるようになったことは便利といえば便利なのだが……。

 今さら風流洞下層部に向かう理由は特にない。

 それとも、なにか上層部攻略する際に、下層部を探索しなければならない理由があるんだろうか――ファースト・ダンジョンにあったような隠し部屋があるとか。

 まあ、現時点ではなんとも言えないので保留だ。


 そして、二日間のレベリングを終えた翌日は休日だ。

 この日は、三日前のことを反省し、愛を確かめ合うのはそこそこに控えた。(控えただけで、ゼロではない。ゼロにするのは無理なほどシンシアは魅力的だった。)


 代わりになにをしたかというと、デートだ。

 ツヴィーの街は風光明媚だ。

 世界樹を始めとした豊かな自然。

 それと調和するように建てられた美しいエルフ建築。

 デート・スポットには事欠かない。


 セカンド・ダンジョン攻略中の冒険者がカップルになる率が高いのも、この美しい街並みが一端を担っているのは間違いない。

 俺とシンシアも恋人らしく、デートスポットを巡り、のんびりとした一日を過ごした。


 順番が逆になってしまったが、こういう恋人らしいことをして、あらためて俺たちは恋人になったんだなあとしみじみと思った。


 そして、今日――。

 新メンバーとの顔合わせだ。


 十分にリフレッシュした俺とシンシアは朝から、約束場所である冒険者ギルドの入り口をくぐる。


「あっ、おはようございます」


 すぐに俺たちを見つけたロッテさんが声をかけてくる。

 今日は目の下にクマもないし、淀んだ空気を背負ってもいない。

 それを確認して、安心した。


「では、早速向かいましょう」


 待ち合わせ場所は支部長メンザさんの執務室だ。

 そこで新メンバーとの顔合わせすることになっている。


「支部長、ロッテです」

「どうぞ、お入り下さい」


 執務室にいたのはメンザさんともう一人。

 チェインメイルをまとい、腰には細い短剣を差している。

 左腕には見たことがない腕輪を着けている――多分ミスリル製だろうが、その効果は不明だ。


「我が名はステフ。レベル205の【盾闘士】だ」


 【絶壁】ステフ。

 ジョブランク2の【盾闘士】。

 その名前は聞き覚えがある。

 この街でも名が通っているソロ冒険者。


 『無窮の翼』時代は、風流洞を駆け抜けることに集中していて、あまり周りの冒険者を気にかけていなかったが、それでも耳に入って来たほどだ。


 こうして対面するのは初めてだが、強者としての自信が滲(にじ)み出ている。

 それにしても、イケメンだなあ。

 クリストフを貴公子風イケメン、闇の狂犬ムスティーンをワイルドイケメンとすれば、このステフは中性的イケメンだ。


 男としては少し長目の赤髪。

 タンクの割にはスラリと細い体躯で、胸板も厚くない。

 少し高い声と優雅な振る舞い。

 これはモテるんだろうなあ。


「また、お会いできて嬉しいよ、シンシア嬢」


 俺のことはガン無視で、シンシアに声をかけるステフ。


「知り合い?」

「ええ、以前ちょっと……」


 小声で話していると、ステフは馴れ馴れしくシンシアに近づいてきたので、俺は間に入る。


「『精霊の宿り木』のラーズだ。おまえが加入者か、【絶壁】ステフ?」

「その名で呼ぶなッ!」


 ギロッと睨まれたが、ここでナメられるわけにはいかない。

 俺は毅然として向かい合った。


 二つ名はよほど認められた冒険者にしかつけられない。

 【絶壁】と呼ばれるからには、ステフの守りがそれだけ評価されているということだが……。

 どうやら、本人は気に入っていないようだ。

 地雷を踏んでしまったのか、嫌われてしまったみたいだ。


「まあまあ、二人とも。これからパーティーを組むのです。仲良くやりましょう」


 緊張感を破ったのは、メンザさんの穏やかな声だった。


「いいね、ステフ」

「……はい」


 不服そうにしながらも、ステフはメンザさんの言葉に従い、俺から視線を外した。


「あなたの男嫌いは知っています。ですが、個人の好みとパーティーで果たすべきことは、分けて考えなければいけませんよ」


 クリストフも男はバカにして、女性と見ればすぐに口説いていた。

 どうやら、ステフも同類みたいだな。


「ラーズもいいですか?」

「ああ。まだ、顔合わせの段階だ。使えるかどうかはダンジョンが判断してくれるよ」


 パーティーメンバーは仲が良いに越したことはないが、役割を果たしてくれるならば問題はない。

 ソロで渡り歩いて来たということは、どんなパーティーでもそれなりに役目をこなせるのだろう。

 その腕前は、実戦で確かめればいい。


「人間性はともかく、実力は私が保証しますよ」

「期待してるよ」

「私はまだ、オマエを認めていない。判断するのはこちらも一緒だ」


 せっかくメンザさんが丸く収めようとしてくれたところをステフが混ぜっ返す。

 俺に対しても喧嘩腰だし、人と上手くやれる性格とは思えないが、その実力はいかほどか……。


 それにしても、「私」か。

 冒険者だったら、普通「俺」だ。

 「僕」や「私」だったらナメられる。

 それが許されるのはメンザさんのようなよほどの実力者だけだ。


 だが、ステフには「私」と自称するのが似合う気がした。

 理由は分からないが、そう感じた。

 そして、ナメられてもそれを跳ね返せるだけの自信もあるのだろう。


「ステフ、いい加減にしなさい」

「…………ッ」


 メンザさんが言葉に少しの怒気をはらませる。

 ごく少量だが、普段穏やかなだけに、その効果はステフにも覿面(てきめん)だった。


「済みませんね。私の孫ということで甘えているようです」

「孫っ?」

「はい。ステフは私の孫なのです。私の方からも後で叱っておきますので、この場は収めてもらえませんか?」

「ああ。ここはメンザさんの顔を立てましょう」


 俺はともかく、メンザさんへの態度もずいぶん失礼だと思っていたが、なるほど身内だったのか。

 とはいえ、メンザさんは身内びいきをするような人ではない。

 とりあえず今は保留だ。

 ダンジョンで戦ってみてから、ステフをどうするか判断しよう。


「それより、情報の秘匿は大丈夫ですか? メンザさんの孫ということだけでは弱いと思います」

「それは心配ありません。ステフが着けている腕輪――それは『制約の腕輪』です。この腕輪によって、知り得た情報を他者に漏らすことは出来ないのですよ」

「なるほど。便利な魔道具ですね」


 その腕輪の真贋は分からないが、疑い出したらキリがない。

 それに、ギルド側は俺たちと良好な関係を築きたいと思っている。

 俺たちを騙したりはしないだろう。


 ステフの問題はひとまず棚上げだ。

 他にも、もうひとつ疑問がある。

 この前の会食時、追加メンバーは二人と聞いていたのだが……。





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 加入一人目は支部長のお孫さんでした。

 現時点では好感度最悪だと思います。

 最終的な判断はもう少しお待ちいただけると……。


 NTRとか、レイプとかは絶対にないのでご安心を!


 次回――『新パーティー始動』


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