第114話 会食3
「世界樹の上層部について、王族の間のみで連綿と受け継がれて来た話があるのです」
ブリューテ陛下が神妙な顔つきで語り始めた。
「世間では世界樹上層部の存在はおとぎ話のような扱いですが、王家ではその実在を疑っていません。なぜなら――上層部を造りし者を知っているからです」
「「えッ!」」
俺とシンシアの驚きの声が重なる。
ロッテさんを含め、他の人たちは驚いていない。
すでに、情報共有が済んでいるのだろう。
「その者こそ、我らが初代国王エルフリーナ――千年前の【精霊統】アヴァドン様のパーティーメンバーだったお方です」
【精霊統】アヴァドン。
火の精霊王様から聞いた名前。
史上唯一の五大ダンジョン制覇者。
千年前に魔王を封印した者。
そして、『精霊との対話』を著した者。
その名前がここで出て来るとは――。
そして、初めて明かされたアヴァドンのパーティーメンバー。
エルフ族の建国王がその一員だったのか。
「アヴァドン様が魔王を封印した後、エルフリーナ建国王は風の精霊王様の力を借りて世界樹に上層部と呼ばれる隠しダンジョンを造られたのです」
エルフ王族に代々伝えられてきた世界樹上層部の伝承。
俺たちがそれを発見し、それを知った冒険者ギルドがエルフ王族に照会したのだろう。
それで、今回の会食が実現したと――。
俺たちが41階層を発見したのは昨日。
わずか一日で会食がセッティングされたことから、ロッテさんは相当頑張ったのだろう。
彼女に向かって軽く頭を下げる。
「エルフリーナ建国王はとても悔やみ、自分を責めておられました。最後までアヴァドン様の隣に立っていられなかった自分の弱さを」
火の精霊王様の話を思い出す。
【精霊統】アヴァドンの強さに仲間たちはついて行くことができず、最終的にはアヴァドンは一人で魔王に立ち向かった。
一緒に戦ってきたメンバーとしては、不甲斐ない自分を責める気持ちでいっぱいだったのだろう。
「だから、もし、自分と同じく【精霊統】に従う者が現れた時、【精霊統】と並び立つ強さを手にすることが出来るようにと、隠しダンジョンを造り、そこに『三種の王器』と呼ばれる装備を残したのです」
自らの無念を未来の者が味わわないように尽力する。
それだけで、エルフリーナ王の人柄がしのばれる。
それにしても、『三種の王器』とは……。
それを手に入れるのが、目標のひとつだな。
ますます、ダンジョン探索が楽しみになった。
「隠しダンジョンはシンシアさん――あなたのためのダンジョンです。是非、力をつけ、『三種の王器』を手に入れ、エルフリーナ建国王の意志を継いで下さい。それこそが、我ら一族の悲願です」
ブリューテ陛下がシンシアに向かって話しかける。
「陛下の、エルフ族の想い、しかと受け止めさせていただきます。私にとっても、ラーズの隣に立って魔王と戦うことがなによりも大切なことです。必ずや、想いを引き継ぎ、魔王を討ってみせましょう」
シンシアの毅然とした態度に、ブリューテ陛下は満足したように頷く。
「ということです。遠慮せずに受け取って下さい」
「メンザさんは知っていたのですか?」
「いえ、私も今日聞いたばかりです」
衝撃的な話のはずなのに、メンザさんの顔に動揺は一切ない。
「陛下の話が済みましたので、私からもギルド支部長として話をさせてもらいましょう」
今度は冒険者ギルドからの話だ。
一体、なんの話だろうか……。
「ロッテからあなた方の戦いぶりについて報告を受けました。彼女は優秀ですね。必要以上の情報を提供してくれました。さすが、ケリー支部長が専属担当官に任ずるだけはありますね」
アインスの街のギルド支部長ケリー・ハンネマンとツヴィーの街の支部長メンザさん。
二人は同じ支部長というだけではなく、元々同じ冒険者パーティー『五帝獅子』のメンバーだ。
お互いに信頼しあっているのだろう。
そんな大物二人から信を得るロッテさん。
やっぱり、ものすごく有能なんだろう。
「いいパーティーですね。あなた方は三人ながらも、十分にパーティーとしての力を発揮できている」
「ええ、それは自負しております」
ここで謙遜することはシンシアとサラの頑張りを否定することになる。
だから、俺は力強く肯定した。
「だが、まだ不十分ですね」
「……それも自覚しております」
「そこで提案があります」
「なんでしょうか?」
「メンバーを加えてはどうでしょう?」
「…………」
「『精霊の宿り木』、一番の欠点は人数不足です」
二日間戦ってみて、自分たちの強さとともに弱点も把握した。
そのひとつが、メンザさんが指摘したように人数不足。
そもそも、隠しダンジョンは五人プラス精霊で攻略することが前提なのだ。
三人のままではいずれ、行き詰まることは分かっていた。
なので、メンザさんの提案は渡りに船なのだが……。
及び腰になっている自分に気付く。
やはり、追放の件を引きずっているのだろう。
見知らぬ他人に背中を任せることに抵抗があるんだ。
答えられず、口を閉ざしていると――。
「なにも恒久的な正式メンバーとは言いません。お試しのスポット参戦です。合わないと感じたら、すぐに切ってもらって構いませんよ」
「スポット参戦ですか……」
サード・ダンジョンにもなると、パーティーはメンバーが固定され、入れ替わることはほとんどない。
誰かがリタイヤしたときくらいだ。
だが、この街では、パーティーは流動的だ。
ファーストでは目立たなかったパーティー内での実力差が、ここ風流洞ではっきりと明らかになる。
自分と合うレベルの冒険者とパーティーを組み直すことはなにも珍しくない。
中には一時的にパーティーに加わるスポット参戦を専業にしている冒険者もいるくらいだ。
ただ、この街にいる冒険者はまだ成長途中の若者か、サードで挫折して戻って来た者たちだ。
上層部に挑める人材がいるのだろうか?
メンザさんにはなにか思惑があるのだろう。
「俺たちについて来られるんでしょうか?」
「ああ、それに関しては問題ないでしょう。あなた方に引けをとらない人材を派遣するつもりです」
「…………」
「失敗したらしたで、見えてくるものもあるでしょう。試す価値はあると思います」
「でも、その人に申し訳ないのでは? 俺たちの都合で振り回して、ダメでしたポイではあまりにも失礼です」
「それは大丈夫です。紹介する人物はその点を了承しています」
「…………」
「そもそも、あなた方には公に出来ない情報が多すぎます。同行者は守秘義務を守れる人間でないとなりません。こちらとしても、信頼できる人物を送るつもりです。なので、こちらのことは気にしないで判断して下さい」
シンシアを見る。
大きく頷いた。
メンザさんは信用できる。
であれば、彼が信用する人物も信じてみよう。
時としてリスクを取れなければ、冒険者失格だ。
「分かりました。そこまで言っていただけるのであれば、一度試して見ましょう。ただひとつ、問題が――」
「ふむ?」
「新しく入れたメンバーも第41階層に行けるかどうか分かりません」
「そこも含めて、試してみるしかないでしょう」
それから打ち合わせして、五日後の攻略から新メンバーと合流する運びとなった。
ちなみに、相手が誰なのかは当日までのお楽しみらしい。
「――私からは以上です。最後にクラウゼ殿下から話があります」
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
アヴァドンたち、千年前の話も少しずつ明らかになってきます。
戦力補強、どうなるでしょう?
次回――『会食4』
会食最後は殿下のお話!
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