第107話 風流洞攻略1日目10:ゴーレム戦を終えて

「――よしっ、じゃあ、次で最後だ」


 俺たちは今日最初に戦ったゴーレム部屋へ再突入する。

 ゴーレムが俺たちに気づいて動き出す前に、俺は両腕を前に突き出し――。


『――【風凝砲(ウィンド・キャノン)】』


 凝縮された空気の固まりが、ゴーレムの胸部に命中し――そのまま貫通して大きな穴を開ける。

 ゴーレムは崩れ落ち、魔石だけが残った。

 最初はあれだけ苦戦したゴーレムが、今では一撃だ。


「今日はこれで切り上げだ。お疲れ」

「お疲れ〜」

「おつー」


 本日五十体目のゴーレムを倒した俺たちは、キリのいいところで帰還する。

 今日は本格的な探索はせず、ゴーレム狩りに一日を費やした。

 その成長の成果がこれだ。


 最初のゴーレム部屋からは俺たちが来た通路以外に、二本の通路が伸びていた。

 どちらも短い通路で同じような部屋に繋がり、そこには同じようにゴーレムが待ち構えていた。

 そう。ゴーレムはボスではなく、通常モンスターなのだ。


 このフロアを全て探索したわけではないが、調べた限りでは同じような部屋が格子状に配列されていた。

 どの部屋もゴーレムのリポップ時間は三十分。

 俺たちはぐるぐる回りながら、ゴーレムを倒し続けたのだ。


 魔力ポーション頼みの力押しで出費はそれなり。

 だけど、ゴーレムの落とす魔石はサイズも大きく、品質も良さそうなので、十分に元が取れるだろう。


 ゴーレムを簡単に倒せるようになった理由は、作戦を確立し連携がよりスムーズになったのもあるが、なによりも、レベルアップのおかげだ。


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【名前】 ラーズ

【年齢】 20歳

【人種】 普人種

【性別】 男


【レベル】235→250

【ジョブ】精霊統(せいれいとう)

【ジョブランク】 3

【スキル】

 ・索敵   レベル4

 ・罠対応  レベル4

 ・解錠   レベル4

 ・体術   レベル2→3

 ・短剣術  レベル2

 ・精霊使役 レベル11→12

 ・精霊纏  レベル2


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【名前】 シンシア

【年齢】 24歳

【人種】 普人種

【性別】 女


【レベル】232→248

【ジョブ】聖誅乙女(NEW!)

【ジョブランク】 2→3

【スキル】

 ・索敵   レベル2

 ・罠対応  レベル1

 ・体術   レベル7→8

 ・棍棒術  レベル8→9

 ・神聖魔法 レベル1(NEW!)

 ・聖気操作 レベル1(NEW!)

 ・精霊視


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 レベルに関しては今日一日で、俺が15,シンシアが16も上昇した。

 それに、スキルもいくつかレベルが上がっている。

 シンシアの【神聖魔法】と【聖気操作】は【聖誅乙女】になって習得した新スキルで、どちらも強力であることがゴーレム戦で証明された。


 ちなみに、今の【風凝砲(ウィンド・キャノン)】は、初戦のように全力で放っていない。

 使役している風精霊の2割を両腕の防御に、8割を攻撃に回して打ったのだ。

 威力は落ちるが、腕にダメージを負わずに済む。

 それでも、レベルアップのおかげで、ゴーレムを一撃だ。


 強くなったのは俺だけではない。

 シンシアもレベルアップして、【極重爆(グラビティ・ブラスト)】一発でゴーレムを倒せるようになった。

 回復職というよりは、もはや、立派な前衛職だ。


 そして、サラはといえば――。

 今日一日で少し大人になった。

 人間でいうと一歳くらい年をとったように外見が成長し、能力も上昇した。


 残念ながら、精霊であるサラにはモンスターを倒しても経験値が入らない。

 成長した理由は――精霊石だ。


 他の精霊に与えるよりも、サラに与えた方が効果が大きかったので、持っている精霊石はサラの強化に使うことにしたのだ。

 俺たちの成長に取り残されないよう、サラには10個の精霊石を与えた。


 そのおかげで、ひとつ年を取り、魔力量と魔法の威力が上昇した。

 【活火激発(かっかげきはつ)】は二発打てるようになったし、一発でゴーレムを倒せる威力になった。

 残りの精霊石は20個になったが、これからも使い惜しみする気はない。

 ただ、一気に強化しすぎるとサラ任せになってしまうので、俺たちの成長に合わせて与えていくつもりだ。


 俺たちは元来た場所から転移し、ダンジョン外に出た。

 サラとはしばしのお別れで、シンシアと拠点に向かう。

 ロッテさんには通信用魔道具で連絡しておいたので、着くのは同じくらいだろう。

 そう思いながら、拠点の立派なドアを開くと、ロッテさんは先に戻っていた。


「お疲れ様です〜」

「その様子だと、休日を満喫できたようですね」

「ふふっ。久しぶりに羽根を伸ばせました」


 とろけるような笑顔を浮かべるロッテさん。

 この笑顔を壊すのは忍びないが、伝えないわけにはいかない。

 俺は心を鬼にして、口を開いた。


「報告があるんですけど、今にしますか? それとも食事しながらにしますか?」


 途端、ロッテさんの顔から表情がこぼれ落ちる。

 そして、こめかみをピクピクさせている。


「食事しながらにしましょう。今、聞いてしまったら、食事できなくなりそうな気がするので……」

「あはは」


 氷属性をはらんだロッテさんの声に、俺は乾いた笑いを返すことしか出来なかった。


「笑い事じゃないんですけどね」

「すみません、すぐ支度してきます」

「私も急いで済ませますね」

「ゆっくりで構いませんよ。どうせ、私はその後忙しくなるでしょうから」


 嫌なことは出来るだけ先延ばししたいという思いが感じられる声だった。


 そして、三人で食卓を囲む。

 ロッテさんオススメの店からテイクアウトしたものだ。

 香草をふんだんに用いたエルフ料理。

 その繊細な味は、初めての体験だった。


 本来なら、もっと感動しただろう。

 ただ、空気がロッテさんの表情と同じくピーンと張り詰めていたので、料理を味わうどころではなかった。

 言葉少ない晩餐は、いつもより短い時間だったが、体感ではものすごく長く感じられた。

 長い試練が済み、シンシアがコーヒーを淹れてくれた。


「で? 今日はなにをやらかしたんですか?」


 詰問するでもなく、激高するでもなく、ただただ平坦な声は不思議な圧迫感をはらんでいた。

 今日相手したゴーレムより強い圧だ。

 少し気圧された俺は、思わず敬語になってしまう。


「まずは戦利品です」


 食器が片付けられた広いテーブルにゴーレムのドロップ品である魔石五十個を積み上げる。


「魔石ですね」

「ええ、魔石です」

「何個あるんですか?」

「50個です」

「ずいぶんと立派ですね」

「俺もこのサイズは初めてです」

「水氷回廊(フォース・ダンジョン)でも、これほどのは中々出ないですよ」

「それほどなんですか」

「これを落としたモンスターは?」

「多分、ゴーレムです」

「多分?」

「はい。ウッド・ゴーレムに似ていましたが、初めて見るモンスターでした」


 会話が進むにつれ、場の空気は重く冷たくなっていく。

 そして、遂に、ロッテさんが核心を突く質問を――。


「……どこで手に入れたんですか?」

「第41階層です」

「は?」

「第41階層です」

「は?」

「第41階層です」

「…………」


 すうはあすうはあすうはあ――と深呼吸を繰り返してから、ロッテさんは鑑定器を取り出す。


「冒険者タグをこちらへ」


 言われた通りにする。

 鑑定機で登録済みチェック・ポイントを確認するのだろう。

 俺の冒険者タグを握りしめ、ロッテさんの目が大きく見開かれる。

 彼女の瞳から雫がこぼれ、弱々しい声が震えた。


「もうやだ……」


 ロッテさんはそのまま、机に突っ伏して泣き始めた。


「ごめんなさい」


 俺には謝ることしか出来ない。

 シンシアが隣でなだめ続け、ロッテさんが落ち着くまでしばらくの時間が必要だった。


「――お見苦しいところを見せてしまいました」


 やがて、復活したロッテさんは再度尋ねてくる。


「他にはありませんよね?」

「はい。特筆すべきことはこれだけです」

「そうですか。では――」


 それから根掘り葉掘り質問攻めにされた。

 サラを含めた三人の戦力やコンビネーション。

 ゴーレムとの戦闘について。


 特に隠し立てすることでもないし、ギルドとは良好な関係を築いておきたいので、俺もシンシアも訊かれるままに全て正直に答えた。

 ロッテさんはさすがに専属担当官に任命されるだけあって、聞きどころを心得ていた。

 そこら辺の冒険者よりもよっぽど情報を引き出すのが上手だった。

 あらためてロッテさんの優秀さを認識した。

 彼女が激務から解放される日を心から望む。


「――ご協力ありがとうございました。それでは、明日の朝には戻ります」


 そう言い残して、ロッテさんは去って行った。

 死地に赴く兵士のように――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

次回――『二人の夜』


 ついに……。

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