第105話 風流洞攻略1日目8:ゴーレム戦2

 ――三人交代でゴーレムを引きつけながら戦い続けること三十分。


 防御を優先し、隙の小さい攻撃で削り続ければ、十分に対処出来ることが分かった。

 時間はかかるけど、この方法が一番安全だ。

 左膝の球体関節のヒビも大きくなった。


 だからといって、油断は大敵。

 後は我慢比べだ。

 そう思っていたところ――ゴーレムが動きを止めた。

 その場に立ち止まり、身体を低く沈み込ませる。


「マズいッ!!」


 次の瞬間――ゴーレムは反動をつけてシンシアに突進した。


 今までの鈍重な動きからは想定できない速さ。

 大質量に任せた単純な突進攻撃。

 しかし、巨体ゆえに回避も難しく、喰らえば大ダメージだ。


『――【土壁(アース・ウォール)】』


 俺は慌ててシンシアの前に土壁を顕現する。

 なんとか間に合ったその壁に、ゴーレムの巨体がぶつかり――壁は砕け散った。


「なッ!?」


 土壁は今の俺に作れる最も固い壁だった。

 その壁が一度の衝突でなんなく破壊された。

 ゴーレムの突進は止まらず、シンシアへ向かうッ――。


 土壁は無駄ではなかった。

 止められはしなかったが、だいぶ減速している。

 なんとかシンシアが横っ飛びするだけの猶予ができた。


 だが――ギリギリで完全回避には間に合わなかった。

 右足が突進に巻き込まれ、空中で方向の変わったシンシアは、そのまま地面に叩きつけられる。

 シンシアの右足は衝突によって、膝から下がありえない角度に曲がっていた。


「シンシアッ!」

「クッ……」


 苦痛に呻いているが、意識はあるようだ。

 

 俺は勢い良く飛び出し、追い打ちする気のゴーレムとシンシアの間に割って入る。


 ジャマだとばかりに見下ろすゴーレムの赤い瞳を睨み返し――。


『――【炎剣(フレイム・ソード)】』


 炎剣を手に顕現させ、攻撃に備える。


「サラッ、最大火力をぶち込めッ!!」


 振り下ろされる拳を回避しながら、俺は叫ぶッ。


「わかった!」


 ついさっき魔力譲渡したばかりなので、サラの魔力は満タンに近い状態だ。

 今なら、とっておきの大技が使える。

 サラは長い詠唱を始めた――。


 俺の役目はそれまでゴーレムを引きつけること。

 上から迫る巨大な拳をバックステップで、なんとか躱す。


 俺はチラッとシンシアの様子を確かめる。

 足が折れた痛みでなにも出来ない――それは一般人や駈け出し冒険者の場合だ。


『――【聖癒(ホーリー・ヒール)】』


 シンシアは【2つ星】冒険者だ。

 これくらいの痛みは慣れている。

 顔を歪めながらも、詠唱短縮した回復魔法を無事に成功させた。


 【聖癒(ホーリー・ヒール)】は【聖誅乙女】になって新たに覚えた回復魔法だ。

 その効果は抜群。

 聖なる光がシンシアを包み込み、瞬く間に傷を元通りに治していく。


 その様子に安心する間もなく、ゴーレムは俺に向かって再度、拳を振り下ろしてくる。

 回避は可能だが、そうすれば無防備なシンシアに直撃してしまう。

 なんとか受け止めなければならない。

 防御に最適なのは土精霊だが、彼らは土壁を作るのに使ってしまい、まだリキャストできない。

 俺は次善の策をとる――。


『水の精霊よ、凍てつく壁となれ――【氷壁(アイス・ウォール)】』


 空中に漂う水精霊が集結し、動きを止める。

 次の瞬間、空中に氷の壁が出現し、迫り来るゴーレムの拳を受け――砕け散った。


 やはり足りないか――。


 俺は頭上に炎剣を構え、拳に備える。


 重い衝撃が、両腕から身体を通り抜け、ドッシリと踏ん張る両足から地面へと走り抜ける。

 氷壁によって多少は威力を軽減できたので、なんとか受け止めることはできた。

 だが、無事というわけではない。


 全身の骨がきしみ、筋肉が悲鳴を上げている。

 一番ダメージを負ったのは、衝撃を受け止めた両手首だった。

 持っていた炎剣は衝撃で消失し、両手首は俺の意志から離れ、プラプラと揺れている。


 痛い代償だったが、時間を稼ぐことには成功した。

 シンシアが後ろで立ち上がり、俺の判断を仰いでいるのが気配で分かった。

 判断を下すのが、リーダーである俺の役目だ。


 ――回復か、ここで勝負に出るか。


【後書き】

 次回――『風流洞攻略1日目9:ゴーレム戦3』


 ゴーレム戦、クライマックス!

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