第104話 風流洞攻略1日目7:ゴーレム戦

「チッ!」


 想定していた中で最悪に近い事態。

 思わず舌打ちが出てしまう。


 ゴーレムの右足がサラに迫り来るッ――。


「――【炎朧(えんろう)】」


 巨大な柱とも言うべき足が小柄なサラを叩き潰そうとするギリギリで――炎が風に揺らぐがごとくサラの身体がぶれて、蹴撃の射程外に逃れた。

 そのまま、サラはゴーレムの横を通り抜け、背後に回り込む。


 元々崩れた体勢から無理に放たれた一撃。

 倒れるまではいかなかったが、ゴーレムは大きくバランスを崩し、ヨタヨタと左右にふらつく。

 この隙を見逃さず、攻撃を叩き込む――。


『――【氷塊(アイス・ブロック)】』

『――極重爆(グラビティ・ブラスト)』


 風と火の効き目が弱かったから、今度は氷属性だ。

 俺の氷塊とシンシアのメイスが、剥き出しになったゴーレムの左膝の関節に命中ッ!


 シンシアの【極重爆(グラビティ・ブラスト)】はインパクトの瞬間に重力を増幅させる打撃技。

 単打であり、放った後に硬直するという欠点があるが、通常攻撃の十倍以上のダメージを与えられる。

 本来は打撃職のジョブランク3である【戦打闘士】の高位スキルであるが、【聖誅乙女】となったシンシアも使えるようになったのだ。


 だが――。


「これでも破壊できないか……」


 十分なダメージを与えられれば良かったのだが、関節に小さなヒビを入れたのみに留まった。


 ともあれ、間一髪、サラは回避に成功。

 ゴーレムの後ろに回り込めた。

 作戦通り、挟み撃ちの陣形だ。


 結果からすれば、作戦は成功と言える。

 だが、状況は好ましいとは言いがたい。


 俺が戦ったことがあるゴーレムには共通の攻撃パターンが存在した。

 ゴーレムは腕がひとつでも残っている限りは腕でしか攻撃してこない。

 しかし、両腕を先に壊してしまうと、蹴りや頭突き、そして、突進と残った身体全体で攻撃して来るので、対処が難しくなる。

 だから、下手に腕は攻撃せず、先に足を潰すのが鉄板の攻略法なのだ。


 しかし、このゴーレムは両腕が健在なのに、蹴りを放ってきた。

 今後は腕以外の攻撃も視野に入れなければならない。

 作戦を根底から見直さなければ……。


 どうするか?

 退却すべきか?


 いつものダンジョン攻略だったら、撤退の一択だ。

 撤退し立て直してから、再度挑戦すべきだ。

 しかし、今回の場合は少し状況が異なる。


 再挑戦するメリットは二つある。


 ひとつ目は、情報収集し、作戦を練り直せることだ。

 他の冒険者からアドバイスを聞いたりして、攻略法をブラッシュアップできるのだ。


 しかし、それは先行者がいることが前提となる。

 俺たちの場合は他人に頼ることが出来ないし、現在得られた情報は少な過ぎる。


 ふたつ目は、レベルを上げ強化ができることだ。

 単純に力不足であれば、他の敵を倒して経験値を稼ぎレベルアップすることで強敵に対応できるようになる。


 だが、これも俺たちには適さない。

 風流洞でレベルアップさせるには俺たちのレベルは高すぎる。

 ここでは時間がかかりすぎるのだ。

 サード・ダンジョンに行く手もあるが、片道二週間。

 これも時間がかかりすぎだ。


 ――ここはもう少し、情報を集めるべきだな。


「こっからは慎重にッ!」

「はい」

「はーい!」


 作戦会議で伝えてある。

 俺が「慎重に」と言ったら、防御メインで攻撃は控えめ。安全第一だ。

 その間に情報を集め、新たな作戦を導き出すのだ。


 作戦の第三段階が始まった――。


 シンシアとサラでゴーレムを挟撃している。

 俺は魔力ポーションを飲み干してから、前に出てゴーレムと対峙する。

 三人で正三角形を作り、ゴーレムを取り囲む布陣だ。


 ゴーレム種には2種類いる。

 ウッド・ゴーレムやストーン・ゴーレムなどのいわゆる下位ゴーレムは一定のダメージを与えれば倒せる。

 だが、ミスリル・ゴーレムなどの上位ゴーレムは胸部にある魔法核(まほうかく)を破壊しなければ倒すことが出来ない。

 このゴーレムがどちらかは分からないが、いずれにしろ、力押しで勝てない場合は、手足の球体関節を重点的に攻撃し、相手の戦闘力を奪うのが一番だ。


 ゴーレムの標的にされている一人は防御に専念し、残りの二人が無理せずに膝関節を削っていく作戦だ。


 ――ゴーレムが最初に標的したのはシンシアだった。


 シンシアはゴーレムに視線を固定したまま、ジリジリと斜めに下がる。

 攻撃はしかけない。

 惹きつけるのが目的だ。


 ゴーレムは鈍重な身体を動かし、シンシアを追いかける。

 想定通り、ゴーレムは動きが遅い。

 これなら、やりようがある。


 シンシアが後退するのに合わせて、俺とサラも移動する。

 三角形を回転させ、前に一人、後ろに二人の形に移行する。


 人間の甲冑と同じように、ゴーレムの膝関節は前面は装甲に覆われているが、後ろ側は剥き出しだ。

 この陣形だと、剥き出しの関節に二人がかりで攻撃できる。


『――【火弾単射】』

『――【飛礫(ペブル・ブラスト)』


 サラの火弾が、俺の飛礫が、左膝に着弾する。

 制御が難しい火弾だが、一発だけならサラも狙い通りの場所に飛ばせる。

 俺の飛礫も命中したが、ダメージは少なめ。


 二人の攻撃はヒビを少し広げただけだった。

 これで四属性すべて試したが、弱点属性はないようだ。

 これは長期戦になりそうだ……。


【後書き】

次回――『風流洞攻略1日目8:ゴーレム戦2』

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