第100話 風流洞攻略1日目3:サラの本気

「じゃあ、今度はサラの番ねー」


 シンシアにライバル意識を持ったのか、サラは負けん気満々で言い放つと、手を前に構えた。


「――【火弾全射】」


 火の試練で俺を攻撃した魔法だ。

 数えきれないほどの火弾が現れ、部屋中のスポナーに向かって飛んで行く。


 スポナーからモンスターが出現する条件はふたつ。

 ひとつ目はスポナーに近づいたとき。

 そして、もうひとつはスポナーを直接攻撃したときだ。


 サラは火弾を放つと、間髪を入れず次の詠唱を始めた。


 ――無より起こりて、星火(せいか)と為(な)り。

 ――星火、燎原(りょうげん)を圧巻す。

 ――火樹(かじゅ)よ銀花(ぎんか)よ、闇を照らせ。


 サラが放った火弾はこの部屋にあるすべてのスポナーに直撃する。

 この部屋のスポナーは総数40個。

 それぞれのスポナーから10体のモンスターが生み出される。

 すなわち、400体が出現することになる。


「おいっ!」


 思わず声が出てしまったが、サラは気にした様子もなく、詠唱を続ける。

 スポナーに着弾してから、モンスターが現れるまでには少しラグがある。

 その間に、サラは詠唱を完成させた。


 ――種火。

 ――熾火(おきび)に。

 ――篝火(かがりび)よ。


 ――この夜、この世の、理(ことわり)すべて、焼いて燃やして消し炭に。


「――【活火激発(かっかげきはつ)】」


 サラの周囲に無数の火柱が燃え上がる。


「いっけー!!!」


 サラの号令に応じて、火柱から数百の火蜥蜴が飛び出して、あちこちへと散らばっていき――スポナーから出現したばかりのモンスターたちに襲いかかる。


 部屋が赤く染まった後に残されたのは、理解が追いついていない冒険者たちと大量のドロップ品、そして、呆れる俺とシンシアだった。


「どう? サラ、強いでしょ?」


 自信満々に胸を張って見上げる。

 確かに強い。強すぎる。

 いくら大して強くないモンスターとは言え、一撃で400体は反則だ。


 つーか、今の【活火激発(かっかげきはつ)】を火の試練で俺は耐え切ったんだよな。

 しかも、今よりも活性化して遥かに強くなった状態のサラを相手に。

 俺も相当強くなってるんだな。


 近距離の乱戦に強いシンシア。

 遠距離で無双なサラ。

 そして、どの距離でも対応できる俺。


 俺たち三人揃えば隙がなく、完璧な組み合わせだろう。

 シンシアのジョブランクアップとサラの加入で一段も二段も強くなった。

 今回の実験で、俺たちは思っていた以上に強くなったことが分かった。


 だけど――。


「……やり過ぎだ」


 ポカンと口を開けた冒険者たち。

 いったい何事かとこっちを注視する視線が集中する。


 実力を示したいと張り切るサラの気持ちは分からなくもないが、他人の獲物まで根こそぎ奪ってしまうのは褒められた行為ではない。


 まあ、他の場所だったら顰蹙もので文句をつけられるだろうが、ここならすぐに沸くからそこまでは問題ではないだろう。

 とはいえ、一言謝らないとな。


「みんな、ジャマしてスマン。ちょっとやり過ぎた。もういなくなるから、勘弁してくれ。ドロップ品は好きにしてくれていい」


 部屋中に届くように大声を張り上げて伝える。


「ちゃんと注意しなかった俺も悪いがやり過ぎだ。他人の獲物はとっちゃダメ。次から気をつけるんだぞ」

「はーい!」


 サラは悪びれた様子もないが、人間と違う尺度で生きる精霊だけに、あまり怒る気にもなれなかった。


「ねえ、あるじどのー」

「どうした?」


 サラが急に疲れたような顔をする。


「おなか空いたー」

「もしかして、今ので魔力いっぱい使ったのか?」

「うん、ぺこぺこー」

「サラちゃん、頑張ったものね」

「うん、サラ、頑張ったー」

「よし、おいで」


 俺の腰に手を回して密着するサラの頭を撫でながら、魔力を流し込む。

 今日二回目だが、さっきよりもいっぱい魔力を吸われた気がする。

 体感では全魔力の半分くらいしか残っていない。


 どうやら、さっきのような攻撃は強いんだけど、連発できるほど燃費が良くないんだな。

 まあ、あれを連発できたら反則だから、それも当然か。


 これからは魔力運用も考えていかないとな。

 サラに任せたら考えなしにオーバーキルな攻撃をぶっ放しそうだから、俺が手綱を握る必要があるだろう。


「まんぷくー」


 俺の魔力を大量に吸い取ったサラは満足した様子で俺から離れる。


「サラちゃんはラーズのことが大好きなのね」

「うん、あるじどのも、あるじどのの魔力もだいすきー」


 今度はシンシアがサラの頭を撫でている。

 ちょうどいい高さだから、つい撫でたくなっちゃうんだよな。


「よし、撤収だ」


 元来た通路へ向かおうとすると、サラが口を挟んできた。


「あるじどのー、こっちがいいー」


 サラが指差すのはもうひとつの通路。

 その先にはセーフティ・エリアしかない行き止まり。

 普通の人間の言葉だったら無視するところだが、精霊であるサラの言葉だ。

 きっとなにかがあるに違いない。


「よし、じゃあ、そっちに行ってみるか」


 俺たちはサラの示す通路に向かうことにした――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


 次回――『風流洞攻略1日目4:発見』


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