第65話 火の精霊王の語り

 火の試練をクリアして、火の精霊王様からたくさんの褒美を頂いた。


 まず、レベルが30も上がった。

 精霊石を20個もらった。

 火精霊を10体与えてもらった

 眷属化して、魔力消費で火精霊を生成できるようになった。

 そして、最後の褒美としてサラが仲間になった(ダンジョン限定)。


 どれだけ戦力が強化されたのか、分からないほどだ。


 そして、ご褒美タイムが終わり――。


「うむ。では――少し真面目な話をしようか。お主の世界について教えてやろう」

「世界ですか?」


 いきなり、どでかい話が始まった。


「お主の世界では、太古より二つの勢力が争い続けて来た。ひとつは我ら精霊族。そして、もうひとつが――魔族だ」

「精霊族と魔族……」

「おとぎ話だと思っていたわ……」


 目に見えない精霊族と、はるか昔に滅んだとされる魔族。

 シンシアの言う通り、どちらも世間ではおとぎ話扱いだ。

 せいぜい、言うことを聞かない子どもに「魔族が連れてっちゃうよ」と脅すのに使われるくらい。

 精霊の存在を知っている俺でも、魔族が本当に存在するなんて、これっぽっちも思ってなかった。


「精霊も魔も人の世から姿を消して久しい。忘れられるのも当然であろう。時の流れというのは残酷なものだな」


 火の精霊王様は遠くを見つめ、なにかを噛みしめているようだ


「ともあれ、精霊族が存在するのと同様、魔族も実際に存在するのだ。そして、精霊王が精霊を統べるのと同じく、魔族は魔王という存在によって支配される」

「魔王! やはり実在したのですね」


 俺たちにとっては千年以上前――歴史上の存在だ。

 世界を滅ぼそうとする人間の敵。

 その力は強大で、殺すことはできず、封印することで精一杯。

 今も世界のどこかで封印が解ける日を待ち続けている。


 魔王の存在を信じていない者も多い。

 だが、俺は精霊術について調べていくうちに、古い文献にいくつもあたった。

 そこに書かれていた情報から、俺は魔王は実在すると考えていた。

 だから、それほど驚かなかった。


「あまり語り過ぎると、他の精霊王に叱られてしまうので簡潔に話すが、精霊たちは人間たちと手を取り、魔王の侵攻を退けてきた。何度も何度もな」

「ええ、そのようですね」

「そして、一番最近魔王が猛威を振るったのが――」

「千年前ですね」

「ほう。そこまで知っておるか」

「ええ、色々と調べましたから」

「カッハ。そうかそうか。熱心なのはいいことだ。それで――」


 話が核心に近づいて来たようだ。


「千年前、一人の精霊術の使い手がおった。その者は【精霊統】となり、五大ダンジョンを制覇し、真の精霊術を使いこなし、魔王を封印したのだ」

「やはり、本当の話だったのですね」


 俺が王立図書館で出会った一冊の本、『精霊との対話』。

 そこに書かれていたのと同じ話だ。


「ああ、その者の力を持ってしても、魔王を葬ることはできなかった。封印するのが精一杯だったのだ」


 それだけ強い精霊術でも、魔王を倒すことは出来ないのか……。

 魔王はどんだけ強いんだろうか……。

 想像しただけで、鳥肌が立った。


「魔王の封印は時間とともに弱くなり――」


 イヤな予感しかしない、話の流れだ。


「そして此度(こたび)――魔王の復活が間近に迫っておる」

「「なッ!?!?」」


 やっぱりか……。

 俺とシンシアは顔を見合わせ合う。


「五年後なのか、一年後なのか、あるいは、明日なのか。正確な時期は分からん。だが、間違いなく魔王は復活する。復活し、この世を絶望に染め上げるだろう」

「それを防ぐには、どうすればいいのですかッ?」

「お主に頑張ってもらうしかない。お主にしか、魔王を止めることは出来ない」

「ラーズが!?」

「…………ふぅ。まあ、そういう話の流れですよね」


 とんでもないことを言われているのだろう。

 でも、俺はするりと受け入れることが出来た。

 【精霊統】に覚醒したときから、心は少しずつ受け入れる準備をしていた。


「ああ、そうじゃ。そもそも、お主は五大ダンジョンのことをどこまで知っておるのだ」

「いえ、特別なことはなにも。普通の冒険者が知っている程度の事しか」

「ほう、その程度がどれほどなのか、伝えてみい」

「ええ。五大ダンジョンを制覇した者には、女神様がなんでも願いを叶えてくれると……」

「カッハッハ」

「なにか間違っているんですか?」

「間違っているもなにも、まったくの正反対だ」

「正反対ですか?」

「ああ、人間とは面白い存在だ。どうして、正反対の意味で話が伝わっておるのか。理解の範疇を超えるのう」

「…………」

「真の意味を教えてやろう。五大ダンジョンを制覇した者に与えられるのはチカラだけだ」

「チカラですか? なんのために?」

「その力で女神の願いを叶えるのだ。魔王を討ち、世界を救うという願いをな」


 衝撃だ。

 世界がひっくり返ったような衝撃だ。


 女神様が願いを叶えてくれるのではなくて、女神様の願いを叶える立場になるだなんて……。


「そもそも、五大ダンジョンは精霊族が創った修練の場だ」


 火精霊王様の言葉、納得できる部分は多い。


 過酷だと言われるダンジョンだが、ダンジョンはその実、優しい。

 いや、過保護だと言った方が適当かもしれない。


 よっぽど無茶をしたり、欲をかいたりしなければ、ダンジョンで命を落とすことはあり得ないのだ。


 モンスターは弱い方から順に、段階的に強くなっていく。

 急激にモンスターが強くなることはない。


 ちゃんと準備を整え、それでも足りなければ、戻って経験値稼ぎをして、そうして臨んで倒せないモンスターは存在しない。


 ボスモンスターだってそうだ。

 ボス部屋の前には、わざわざ練習用のモンスターやモンスターハウスがちゃんと用意されている。

 ボス戦前にチュートリアルがあるのは五大ダンジョンくらいだ。


 モンスターだけじゃない。

 地形だってそうだ。

 火炎窟は火をモチーフにしたダンジョンだが、実際に火山や溶岩などの耐熱・耐火装備が必要になる地形が登場するのは21階層以降。

 しかも、その直前で氷翠結晶(ひすいけっしょう)がドロップするというサービスつきだ。

 浅い階層から特殊地形が登場したら、そこでドロップアウトする冒険者は今の何倍にもなるはずなのに、そのような不親切な設計にはなっていないのだ。


 ここまでくると、冒険者たちがいかにダンジョンから手厚い保護を受けているか分かるだろう。


 俺は長年、疑問に思っていた。


 なぜ、こんなにまでダンジョンが過保護なのか、

 ダンジョンとは、冒険者を飲み込む場所ではなく、育てる場所なんじゃないか?


 ずっと疑問には思っていたが、そんなはずないだろと一笑に付してきた。


 だが、俺の考えは正しかったのだ。

 火の精霊王の言葉がそれを証明してくれた。


「修練の場というと、魔族に対抗する力をつけるためのですか?」

「ああ、そうだ。魔族に、そして、魔王にだ。だが、今みたいに誰も彼もを対象としているわけではない」

「と言いますと?」

「薄々感づいておるだろう。五大ダンジョンは精霊術の使い手を鍛え、すべての精霊を使いこなせる一人前に鍛え上げるために創られた場所なのだ。すなわち――」


 火の精霊王様はそこで、言葉を区切る。

 隣でゴクリとツバを飲む音が聞こえた。





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 以上、五大ダンジョンの存在理由でした。

 『精霊との対話』は第17話に登場してます。


 次回――『火の精霊王の語り2』


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