第59話 火炎窟攻略5日目8:火の試練クリア報酬

 ステータスを見て驚愕している俺とシンシアに、火の精霊王様が声をかけてくる。


「どうだ? 強くなったろう?」

「ええ、信じられないくらいに」

「精霊術使いは最強のジョブじゃ。まだまだ強くなるぞ。これくらいで驚いてどうする」

「最強ですか!?」

「ラーズが、最強ジョブ……」


 散々ハズレジョブ、不遇職と罵られていたのに、まさか、最強のジョブだったとは……。

 現時点でも反則なほど強いと思うが、いったいどこまで強くなるんだろうか。

 想像するだけで震えが走る。

 武者震いだろうか。不思議な感覚だ。


「まあ、その話は後回しじゃ。先に褒美を渡しておこう」

「褒美までいただけるとは……」

「モンスターも倒せばアイテムをドロップするだろ? そのようなものだ」

「そうですか」

「まずは精霊石だ。手を出せ」

「はい」


 差し出した手のひらに、精霊石が落とされる。

 その数20個。


「精霊石の使い方は知っておるな」

「はい。精霊に与えるんですよね」

「そうだ。その割には、精霊強化をあまりしておらんな」

「ええ、どういう使い方をしようかと決めかねてて、まだ使ってませんね」


 火精霊に与えた1個とギルドに提出した1個。

 それ以外は手付かずだ。貧乏性とも言う。


「なんじゃ、縛りプレイでもしておるのかと思ってたぞ」

「そんなつもりはないのですが、どういう意味ですか?」

「火の試練に挑んだ者は過去に何人もおるが、お主のように精霊石をほとんど使わずに挑んだ者は初めてだからな。本来、試練は精霊石で強化した精霊とともにクリアするのが前提の難易度になっておる」

「まじ……ですか?」

「カッハッハ。やっぱり、お主は面白いのう」


 精霊石を使うのが前提だったのか……。

 どうりで鬼すぎる難易度だった。

 実際、死にかけたもんな。

 というか、下手すりゃ、死んでたよ。


 まあ、クリア出来たから良かったけど、そういうことは最初に説明して欲しい……。


「昔は常識だったのだが、精霊術の歴史も途絶えて久しいからな。伝わっておらんでも仕方がないか……」

「ええ、精霊術に関する情報は断片しか残ってないです」

「まあ、詮(せん)なきことか……」


 火の精霊王様はなにか思いつめたような表情を浮かべたが、すぐに話を切り替えてきた。


「次なる褒美は火精霊だ。火精霊を10体、お主に預けよう。末永く面倒見てくれ」


 火の精霊王様が言うと、10体の火精霊が現れ、俺の周りを嬉しそうに飛び回り始めた。


「どういうことでしょうか?」

「ふむ。これも説明が必要か……。我々にとっては一瞬でも、人間にとっての千年とはそれほどまでに長い時間であるのか……」

「ええ……」

「スマン。説明だったな。精霊というのは場に懐く存在だ。火の気があるところ、火の精霊あり」


 それは俺も知っている。

 精霊は場所によってその数が増減する。

 火焔窟では基本的に火の精霊が多い。

 逆に水精霊は少ないが、水場の近くでは数が増える。

 他の精霊も同様で、俺が使役できる精霊の数は環境によって増減するのだ。


「だが、この10体はお主に懐く。どこであっても、自由に使役できるのだ」

「それは凄いっ! 貴重な精霊を与えていただき、誠にありがとうございます」


 これは凄いことだ。

 火属性に弱い水・氷属性モンスターは水場や氷雪地帯に多く出現する。

 そういう場所では、火精霊の数が少ないから、精霊術は本領を発揮しづらい。


 しかし、火精霊が俺に付いて来てくれるなら、そのような場所でも、火の精霊術を存分に使うことが出来るッ!


「なに、堅苦しくせんでよい。お主は我が眷属じゃ」

「そうは言いますが……」

「まあ、分をわきまえた態度、悪くはないがな。そいつらの面倒は任せたぞ」

「お任せ下さい」


 俺は10体の火精霊に「よろしくな」と伝える。

 それに応えるように火精霊はフルフルと震える。

 先日、精霊石を与えた大火精霊は新入りを歓迎するような先輩風を吹かせている――ような気がする。

 まあ、みんな仲良くやって欲しい。


「あっ! そういえばっ!」

「どうかしたか?」

「いえ、先ほど精霊王様は精霊は場所に懐くとおっしゃいましたが――」

「ああ、そうじゃ」

「ですが、精霊石を与えた、この一回り大きな火精霊はずっと俺の後をついて来るのですが……」

「ああ、それも知らんかったか。言い忘れておったが、精霊石を与えるとその精霊は与えた者に懐くのだ」

「ああ、そういう事でしたか。納得しました」


 やけに他の精霊達より距離感が近く、俺への想いが強いと感じていたが、そういう理由だったのか……。

 今も俺に身を擦り付けるようにしているので、軽くなでてやると身体を震わせ喜んでいる。

 ペットの飼い主になった気分だ。


「先程、お主は火の眷属となったと言ったが――」

「ええ、まだその意味は理解しておりませんが……」

「火の眷属となったお主は、魔力を用いて火の精霊を生み出すことが出来る」

「えッ!? 本当ですかッ!?」

「ああ、試してみよ」

「では、やってみます」


 初めての挑戦だが、自信はあった。

 サラとの戦いで、感触は掴んだ。

 心の炎を燃やし、火を顕現させる。


 ――きっとそれで上手くいく。


 火の精霊王様は「魔力を用いて」とおっしゃった。

 心を燃やすイメージに魔力を注ぎ込んでいく――。


 心の中、新たな命の息吹が燃える。

 芽生えた命は火の手を上げ、声ならぬ声で語りかけてくる。

 魔力を糧に、命は育つ。めらめらと。めらめらと。


 外に出たい。外に出たい。

 世界を見せて。

 隣に立たせて。

 手助けさせて。

 役に立たせて。

 燃える。燃える。燃える。


――ああ、よろしくな。


 内なる火精霊の語りかけに応え、魔力を注ぎ切る。


 途端――。


 身体の中から元気よく飛び出した火精霊は、俺の頭上をクルクルと勢い良く回り、喜びを伝えてくる。

 火精霊の喜びが俺に伝わり、俺の喜びが火精霊に伝わる。


「うわっ、綺麗」


 シンシアの澄んだ瞳は、新たに生まれた火精霊に吸い寄せられたままだ。

 この感動を彼女と当たり前のように共有できることが、当たり前でなく嬉しい。


「お主が魔力を注ぎ続けるかぎり、その子はその姿を保ち、魔力を止めれば、お主の中に還(かえ)っていく。可愛がってやってくれ」


 魔力供給を停止すると、生まれたての火精霊は俺の中へと消えていく。


「はい。火の眷属、その末席として、火とともにあり、火ととも生き、火とともに戦うことを誓います」

「ハッハ。相変わらず固いのう」

「いえ、過分な褒美を頂き、ありがとうございました」

「いやいや。まだ終わっとらんぞ。最後に一番の褒美だ――」





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 火の試練クリア報酬


 精霊石20個

 火精霊10体

 眷属化:魔力消費で火精霊召喚

 最後の褒美???


 次回――『火炎窟攻略5日目9:最後の褒美』


 最後の褒美は?

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