第58話 火炎窟攻略5日目7:赤い星

 気がつくと俺は白い空間にいた。

 火の試練の前に火の精霊王様と出会った場所と同じような空間なのだが……。


「えっと……火の精霊王様ですか?」

「ああ、そうだ。驚いたか?」


 目の前にいたのは、壮健で活力溢れる若々しい男性であった。

 凛々しく雄々しく整った顔立ち。

 燃えるような赤髪に、鍛え上げられた筋肉。

 男性の理想形のひとつとも言うべき姿形だ。


 そこまでは良いのだが……。


「ええ、驚きました。とっても驚きました。なんでそんな格好なんですか?」


 火の精霊王様はふんどし一丁だった。

 そのおかげで、いまいち威厳が感じられない。

 本当に精霊王なのか、疑わしく思えるくらいだ。


 あんまり驚いていないように見えるかもしれないけど、驚き過ぎて許容量を超えてしまい、どう驚いていいか分からなくなっているからだ。


「カッハッハ。暑いからだッ」


 呵呵大笑(かかたいしょう)。

 そんな些細なことはどうでも良いと、火の精霊王様は笑い飛ばす。


「この姿を見せるのも久方ぶりよのう。たしか、千年ぶりくらいか。カッハッハ」

「どうしてお姿を現しになられたんですか?」

「なに、ワシが変わったのではない。お主が変わったのだ。お主の精霊との親和性が高まったから、こうやってお主に近い人型で見えておるのだ」

「なるほど、そうなんですか」

「精霊とは実体を持たぬもの。姿形などあってないものよ」


 その割には、「暑い」とかおっしゃるのだから、よく分からない。

 きっと、考えるだけ無駄なんだろう。


「お主には伝えんといけない事がたくさんある。早くお主の仲間を喚(よ)ぶが良い」

「仲間を喚ぶ……ですか?」

「ああ、そうだ。お主に近しい者であれば、念ずるだけでこの世界に喚ぶことが出来る」

「そうなんですか!?」

「ああ、試してみよ」


 俺は心の中で、シンシアに呼びかける。

 すると――。


「うわっ。なに?」


 シンシアが目の前に現れた。

 いきなり呼ばれて驚いてるようだ。


「シンシア、俺だよ」

「ラーズッ!? 良かった、無事だったのね」

「ああ、大丈夫だよ。シンシアこそ、なにもなかった?」

「ええ。いきなりラーズがいなくなってビックリしたけど、一分もしないうちに呼ばれる声がして、気づいたらここにいたわ」


 やはり、火の精霊王様が言っていたように、元の世界とここは時間の流れが違うんようだ。

 俺の体感では、シンシアと分かれてからもう30分以上経過している。

 まあなにより、シンシアが無事で良かった。


「それで、ここはどこなの?」

「精霊界じゃよ。お嬢さん」


 俺が言いあぐねていると、代わりに火の精霊王様が答えてくれたのだが――。


「きゃあ〜〜〜」


 火の精霊王様の方を振り向いたシンシアが驚きの声を上げる。

 まあ、振り向いた先にふんどし男が立っていたら、それも当然の反応だ。

 とても、神様だとは思わないだろう。


「シンシア、落ち着いて。その方は火の精霊王様だ」

「えっ!? この変た――この方が火の精霊王様?」

「ああ、そうじゃぞ、お嬢さん」

「そっ、それは失礼致しました。ラーズとパーティーを組んでいるシンシアと申します。ご無礼をお許し下さい」

「なーに、構わんよ。それに二人とも、もっと気楽にしなさい。我々はもう同族なのじゃから」

「同族ですか?」

「ああ。ラーズよ、お主は火の試練を無事乗り越えた。よってお主を火の眷属として認める。今後、火精霊の力は使い放題じゃ」

「そんな強い力を……」


 試練というからにはクリアしたら何らかの報酬はあると思っていたが、俺が火の眷属だとは……。

 具体的なことはまだ何も分からないが、とんでもなく凄そうなのは伝わってくる。


「ねえ、ラーズ、試練って?」

「ああ、それは……」

「構わん。説明してやるがいい」

「では――」


 シンシアにこれまでの経緯を説明する。

 この世界に喚ばれ、火の試練を受け、それをクリアして再度ここに戻ってきたと。


 説明している間、ふんどし姿で仁王立ちしている火の精霊王様が、腕組みしたままウンウンと声に出して頷く姿が視界に入り、気にしないでいるのが大変だった。

 シンシアも意識して視界に入れないようにしていたし。


「そう、頑張ったのね、ラーズ凄いわ」

「ありがとう」


 やっぱり、シンシアに褒められると嬉しいな。

 思わずニヤけてしまう。


「ラーズよ。まずは火の試練を乗り越えたことから、話していこうか」

「はい」

「まずは乗り越えた証じゃ。冒険者タグを見てみよ」


 冒険者タグを手に取ると、シンシアも覗き込んで来た。

 冒険者タグに刻まれた2つの星。

 そのうちのひとつ、ファースト・ダンジョン制覇時に刻まれた星が白から赤へと色を変えている。


「「あっ!」」

「それが火の試練を乗り越えた証だ」


 前代未聞だ。

 星の色が変わるなんて聞いたことがない。

 こりゃまた、ロッテさんに呆れられそうだ。


「そして、試練を乗り越えたことによって、お主は成長を遂げた。確認してみるが良い」


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


【名前】 ラーズ

【年齢】 20歳

【人種】 普人種

【性別】 男


【レベル】205→235

【ジョブ】精霊統(せいれいとう)

【ジョブランク】 3

【スキル】

 ・索敵   レベル4

 ・罠対応  レベル4

 ・解錠   レベル4

 ・体術   レベル2

 ・短剣術  レベル2

 ・精霊使役 レベル10→11

 ・精霊纏  レベル1→2


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


「あっ、【精霊使役】と【精霊纏】のスキルレベルが1つ上がっている」

「えっ、どれどれ……。ホントだ。おめでとう!」


 さすがに精霊に関する試練だけあって、この2つが上がるのは納得だ。

 サラとの戦闘を経て、精霊の扱い方が上手くなったのは自分でも実感しているし。


 さて、レベルはどうかなっと……。


「ちょっ、レベルっ!?!?」

「えッ!? なにこれッ!?!?」


 ステータスのレベル表示を見て驚愕した。

 シンシアも信じられないという顔をしている。


 俺のレベルは一気に30も上昇していた。

 普通ではとても考えられない事態だ。


 そもそも、レベルというのは中々上がりづらいものだ。

 以前の俺のレベルは205。

 5年ちょっと冒険者をやって来て、それでも205だ。

 単純に考えると、9日にひとつ上がる計算だ。

 これでも『無窮の翼』ならではの、記録的に速いペースだ。


 シンシアは9年やってレベル232。

 2週間に1つレベルが上がる計算だ。

 これが標準的な冒険者の成長速度だ。


 レベルは一度に1つあがるのが当たり前。

 格上のボスを倒した時に2つ上がることもあるが、それが上昇の限界だ。

 一気に3つもレベルが上がるようなボスと戦うのは自殺行為以外の何物でもない。


 それなのに、今回は一度で30上昇だ。

 俺で言えば、9ヶ月分のレベルアップ。

 嬉しさよりも驚きのほうが強い。

 今でも信じる方が難しいくらいだ。


 だが、ステータスは嘘をつかない。

 本当に30もレベルアップしたようだ。


 さ〜て、ロッテさんにはなんて説明すればいいんだろ……。





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 ラーズ「これだけレベルアップするとは……もう一回やらしてくんないかな?」


 次回――『火炎窟攻略5日目8:火の試練クリア報酬』


 火の精霊王様は太っ腹!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る