第50話 火炎窟攻略5日目1:ラスボス

 3日目から5日目に飛んでいるのはミスじゃないです。

 物語の構成上4日目はスキップしました。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 俺たちがファースト・ダンジョン火炎窟の攻略を始めて今日で五日目だ。


 最初の二日間で第20階層ボス踏破まで済ませた。

 そして、休息を一日挟み、昨日、今日の二日間で第21階層から、ここ第30階層までを急ぎ足で駆け抜けて来た。


 第21階層からは火炎窟という名前の通り、溶岩地帯や火山地帯といった火炎をモチーフにした地形が待ち構えている。

 通常であれば、第20階層ボス、フレイム・バットのドロップアイテムである氷翠結晶(ひすいけっしょう)を集め、武器・防具に耐熱・耐火付与して備える。

 そうでないと、まともに進むことすら困難だ。


 しかし、精霊の力を借りられる俺達にとっては、草原のピクニックも同様だった。

 20階層までの洞窟地帯に比べたら、風と水の精霊は数を減らしたが、それでも、風と水の精霊が守ってくれるおかげで、熱さも感じず、快適に駆け抜けることが出来た。


 モンスターも強くなっているが、所詮(しょせん)はファースト・ダンジョンに出て来る敵だ。

 まだまだ俺もシンシアも一蹴できるレベルだった。


 そういうわけで、大した苦もなく、第30階層ボスモンスター部屋にたどり着いた。

 ここを守るのはファースト・ダンジョンのラスボス。

 コイツを倒せばファースト・ダンジョン踏破であり、晴れて星持ちになれる。

 最後の難関として立ちふさがるボスモンスター。

 その名は――。


 ――炎魄(えんばく)。


 直径2メートルほどのゆらゆらと揺れる巨大な火の玉。

 触手のように何本もの炎の腕を伸ばして攻撃してくるだけでなく、速いスピードの火弾を打ち出してくる。


 ボスモンスターにはテーマが定められているが、コイツの場合は――。


 ――属性対策だ。


 これまでに登場した2つのフロアボスであるフレイム・オーガとフレイム・バットはともに火属性のモンスターではあったが、必ずしも属性対策をしなければ倒せない相手ではなかった。


 しかし、炎魄は属性対策なしでは相手にならない。

 そもそも、水・氷属性の攻撃でしかダメージを与えられないし、水・氷属性を付与した耐火防具でないと、炎魄の攻撃は防ぐことが出来ない。

 通常装備だと火弾一発で火だるまだ。


 しかし、俺たちには精霊がいる。

 今回も問題なく勝てるはずだ。


「来るわね」

「ああ、下がってくれ」

「ええ」


 広いボス部屋の中央に、太い炎の柱が燃え上がり、炎魄が姿を現した。


 初手は俺だ。

 それで倒しきれなかったら、シンシアが追撃。

 シンシアはいつでも飛びかかれるように体勢を整えている。


 俺の周りにはいつも複数の精霊たちがフワフワと漂っている。

 場所によって多少増減するが、水精霊は今、10体いる。

 水精霊たちへ順番に命じていく――。


『水の精霊よ、凍てつく塊となりて、敵を討て――【氷弾(アイス・バレット)】』

『水の精霊よ、凍てつく塊となりて、敵を討て――【氷弾(アイス・バレット)】』

『水の精霊よ、凍てつく塊となりて、敵を討て――【氷弾(アイス・バレット)】』

『水の精霊よ、凍てつく塊となりて、敵を討て――【氷弾(アイス・バレット)】』

『水の精霊よ、凍てつく塊となりて、敵を討て――【氷弾(アイス・バレット)】』

『水の精霊よ、凍てつく塊となりて、敵を討て――【氷弾(アイス・バレット)】』

『水の精霊よ、凍てつく塊となりて、敵を討て――【氷弾(アイス・バレット)】』

『水の精霊よ、凍てつく塊となりて、敵を討て――【氷弾(アイス・バレット)】』

『水の精霊よ、凍てつく塊となりて、敵を討て――【氷弾(アイス・バレット)】』

『水の精霊よ、凍てつく塊となりて、敵を討て――【氷弾(アイス・バレット)】』


 次から次へと炎魄に襲いかかる氷弾。

 その全てが吸い込まれるように命中していく。

 そして――炎魄はなにも出来ずに消え去った。


「倒しちゃったわね」

「ああ、オーバーキルだったな……」


 氷弾を打ちまくっている途中で、すでに炎魄は倒れていた。最後の二、三発は必要なかったほどだ。

 相手に攻撃の機会すら与えない完勝だ。

 あらためて、精霊術の強さに戦慄する。


「昔は苦労した相手だったんだけどな……」

「えっ、そうなの? 『無窮の翼』でも苦労したんだ」

「ああ、炎魄みたいな小細工がきかない相手だと、作戦でどうにか出来ないからな」


 炎魄は水・氷属性でしかダメージが入らないし、デバフへの耐性も高い。

 真正面から戦うしかないのだ。


「ああ、確かにそうね」

「記録がかかっていたから、みんな焦っていてな。俺たちは駆け足で攻略してきたせいもあって、氷翠結晶も足りてなくてな」


 ギリギリの氷属性武具でなんとか最下層まで切り抜けたけど、炎魄相手ではさすがに無理が来たのだ。


「それで20階層で氷翠結晶集めしたんだけど、運悪くいつも以上に混み合っていたんだ」

「あそこは混むもんね。ヒドい時は一日一回しかトライできないものね」

「ああ。そこまでではなかったけど、結局三日かかったよ」

「へえ、記録更新の裏にはそんなこともあったんだ」

「ああ、大変だったよ。クリストフやバートンが『早く炎魄と戦わせろ』って言うのを宥(なだ)めなきゃいけなくて……」

「それは……大変だったわね」

「ははは」

「あっ、ドロップよ。良い物あるかしら?」


 炎魄が消え去った後には小袋が落ちていた。

 通常ドロップ品は魔石だ。

 初回撃破の場合はそれに各自ひとつ武器・防具が加わる。

 小袋というのは聞いたことがないが……。

 シンシアが駆け寄って、小袋を持ち上げる。


「ねえ、ラーズッ!」

「ん、良い物でたか?」

「これッ、精霊石みたいよッ!」

「ほんとだッ!!」

「それも10個もッ!!」

「おおお!!!」


 シンシアが小袋から取り出したのは精霊石だった。

 第16階層で発見した精霊石。

 そのときは5個入りで、そのうちのひとつを火精霊に使って強化し、ひとつを冒険者ギルドに売却した。

 その後も第24階層と第27階層で同じような隠し部屋を発見し、そこでも精霊石を手に入れたので、今回のドロップを合わせて計23個の精霊石を持っていることになる。


「使っちゃう?」

「う〜ん、まだ悩んでるんだよな」


 一点強化でひとつの精霊を強くするべきなのか、それとも、満遍なくみんなを強化するのか。

 未だに決めかねている。

 早急に使わなきゃいけないほど追い詰められていないし、使うのはまだ先でいいかなと思っているのだ。


「それにしても、何も起こらなかったわね」

「ああ、普通にクリアしちゃったな」


 精霊王様には、「他の四人の精霊王様に会って真のダンジョン制覇をせよ」と言われている。

 道中になにも変化がなかったから、ラスボスを倒せばなにか起こると思っていたのだが……。


「とりあえず、出口に行く?」

「そうだな……」


 この部屋には何も異常はないみたいだし、出口に行くか。

 炎魄を倒したことによって、ボス部屋から奥の部屋へと続く扉が開かれている。


 奥の部屋は3メートル四方の狭い部屋。

 他に続く通路もなく、正にダンジョンの終端。


 ラスボス討伐直後で興奮の最中にいる冒険者たちとは対照的に、ゴール地点であるこの部屋は意外にも素っ気ない造りをしている。


 なんの飾り気もない石壁に囲まれた部屋。

 その中央にはひと抱えはある正八面体の無色透明なクリスタルが浮いている。

 部屋にあるのはこのクリスタルだけだ。


「何も変わりないな。懐かしいけど、拍子抜けだ」

「ええ。このまま帰るしかないのかな?」


 中央のクリスタルに冒険者タグを当てると、ダンジョン踏破の印である星がひとつ刻まれ、ダンジョン外に転移する。

 これを持って、ファースト・ダンジョン踏破となる。


 普通であれば大喜びする場面だ。

 しかし、別のゴールを目指していた俺たちはどうしたものかと悩んでいた――。


「「あっ!」」


 一体の火精霊がふわりと跳び上がる。

 精霊石を食べて一回り大きくなっている精霊だ

 火精霊はクリスタルの周りをクルクルと周回すると、そのままクリスタルの中へ吸い込まれるように消えていった。


「「!?!?」」


 俺たちが驚いていると、クリスタルは赤く色づいた。


「こっ、これは……」

「ようやくみたいね」

「ああ……」

「行くしかないわよね」

「行くしかないな」

「私も行けるのかしら」

「さあ、どうだろう? でも、試してみよう」

「ええ、そうね」


 俺とシンシアは同時に冒険者タグを赤く輝くクリスタルに押し付け――。





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 炎魄「俺の出番、短くね?」


 次回――『火炎窟攻略5日目2:火の試練』


 遂に、ラーズが本気を!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る