第37話 火炎窟攻略2日目6:フレイム・バット戦リザルト
「終わったよ〜」
「お疲れ〜。身体は大丈夫?」
「うん。ちょっとした火傷くらい。すぐ治せるよ」
シンシアの言う通り、負傷といったら、火の粉がかかった手足数カ所の火傷くらい。どれも軽症だ。
戦乙女舞闘装(バトルドレス)に至っては焦げ跡一つすらついていない。
自らに回復魔法をかけると、赤みを帯びていたシンシアの肌は綺麗な純白の姿を取り戻した。
その間、俺はドロップ品を回収する。
「なにか、良いもの出た?」
「いや、イレギュラーなし」
「そっかぁ、残念〜」
第10階層のときと同じく、レアドロップはなかった。
ドロップ品はボスを倒すと必ず落とす定番アイテム2つだけだ。
俺たちに必要のない物だから、これは売り払おう。
昔と相場が変わってなければ両方売り払って18,000ゴル程度。
フレイム・オーガの6倍くらいの収入だ。
「さーて、ステータスは、っと――」
シンシアが冒険者タグに表示されるステータスを確認する。
一般に、モンスターを倒すと『経験値』というものが得られ、それがある程度貯まると【レベル】、【スキルレベル】が上がると言われている。
ただ、『経験値』というのは目に見えないもので、便宜上そう呼ばれているだけだ。
たしかに、モンスターを倒し続けることによって、【レベル】などが上昇するのは事実なので、真偽はともかく、みな『経験値』という何かの存在を認めているというのが現状だ。
ちなみに、ジョブのランクアップに関してはその条件が明らかになっていない。
【レベル】などと同じで『経験値』を貯めればランクアップ出来るという説。
ダンジョン踏破が引き金になるという説。
両者が主流であるが、現実には――。
――ダンジョン制覇時にジョブランクが上がる場合が多い。
――しかし、必ずしもランクアップするわけではない。
――また、ダンジョン制覇時以外でもランクアップする場合がある。
というわけで、どちらの説も決定打に欠ける状態。
ジョブランクアップの条件は未だに解明されていないのだ。
ボスモンスターというのは通常モンスターに比べ大量の経験値を保有している。
昨日の第10階層ボス、フレイム・オーガ討伐時は【レベル】、【スキルレベル】ともに上昇しなかったが、今回はどうだろうか?
俺は自分の冒険者タグを握りしめ、ステータスを開くように念じる――。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
【名前】 ラーズ
【年齢】 20歳
【人種】 普人種
【性別】 男
【レベル】205
【ジョブ】精霊統(せいれいとう)
【ジョブランク】 3
【スキル】
・索敵 レベル4
・罠対応 レベル4
・解錠 レベル4
・体術 レベル2
・短剣術 レベル2
・精霊使役 レベル10
・精霊纏 レベル1
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
全く成長なしだ……。
レベルはともかく、【精霊統】になって覚えた【精霊纏】のスキルレベルくらいは上がっていないか期待していたけど、残念ながらレベル1のままだった。
――まあ、こんなものか。
道中のモンスターはほぼ無視してきたし、そもそもファースト・ダンジョンで得られる『経験値』なんて高が知れている。
対するシンシアはどうだったのか?
「やった〜、レベルアップしたよ〜!」
言いながら、俺に冒険者タグを押し付けてくる。
普通は他人に見せるものじゃないんだが…………。
まあ、俺とシンシアの関係なら問題ないだろう。
一蓮托生と誓ったからには、むしろ、パートナーの力量は出来るだけ把握しておきたい。
俺は彼女の冒険者タグを握り、ステータスを覗き込む。
本人が望んでいれば、他人でもステータスを見ることが出来るのだ。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
【名前】 シンシア
【年齢】 24歳
【人種】 普人種
【性別】 女
【レベル】231→232
【ジョブ】回復闘士(かいふくとうし)
【ジョブランク】 2
【ジョブレベル】 6
【スキル】
・索敵 レベル2
・罠対応 レベル1
・体術 レベル7
・棍棒術 レベル8
・回復魔法 レベル11
・支援魔法 レベル10
・精霊視
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
「おお、おめでとう〜」
「ありがと〜」
レベルがひとつ上がったようだ。
本人も喜んでいる。
ここ最近「レベルが上がらない〜」って気にしていたから喜びもひとしおだろう。
笑顔満面なシンシアと拳をぶつけ、喜びを分かち合う。
仲間のステータスアップは自分のことのように嬉しい。
俺もシンシアに笑顔を向ける。
二人のステータスを見比べれば分かることだが、シンシアは俺よりも二十以上もレベルが高い。
これには二つ理由がある。
まず第一に、シンシアの方が冒険者歴が長いこと。
そして第二に、『無窮の翼』がレベルアップよりも先に進むことを優先してきたことだ。生き急いでいたとも言える。
ちなみに、各ダンジョンのクリアレベル目安はダンジョンの番号✕100だ。
ファースト・ダンジョンならレベル100,セカンド・ダンジョンなら200。
『無窮の翼』はみなレベル200そこそこだった。
このレベル帯でサード・ダンジョン第15階層に挑んだ結果、攻略が行き詰まった。
今日出会った『月詠の狩人』が第20階層ボスで初めて行き詰まったのと同様に。
『無窮の翼』にとって初めての挫折だった。
これまで立ち止まることなく、最速でダンジョンを駆け抜けて来た。
はじめての経験に、どうしたらいいのか、分からなくなってしまったんだ。
クリストフやバートンはなにも考えず、「次こそは突破できる」と根拠のない自信だけで思考停止。
ウルもクウカも意見を述べなかったが、否定もしなかった。
異を唱えたのは俺だけだった。
第15階層でレベル200そこそこというのは低すぎる。
俺はもっと浅い階層に戻り、きっちりとレベルを上げてから再戦すべきだと、何度も訴えたのだ。
しかし、それはクリストフのプライドが許さなかった。
俺の意見は無視され、俺は疎んじられ、挙句の果てには追放された――。
俺たちはもっと早い段階で挫折を知っておくべきだったのだ。
ジョブやスキルが強すぎたせいで、挫折を知らずにサード・ダンジョンに挑むことになった。
そのこと自体が間違いだったのだ。
俺が過保護過ぎたというのもある。
やりようはいくつもあったはずだ。
精霊の付与なしでモンスターと戦わせたり。
ソロでのボス討伐に挑ませたり。
そういった縛りプレイをしてでも、ピンチを体験させ、勝ち目の薄い格上相手との戦いを経験させるべきだったし、俺自身も経験すべきだった。
今となっては、もう遅いことだが……。
「じゃあ、帰ろうよ」
「ああ、そうだな」
俺は頭を振って、過去を断ち切る。
「でも、その前に寄る所がある――」
◇◆◇◆◇◆◇
――第20階層ボス討伐後、俺たちは一度第21階層に降り、チェックポイント登録を済ませた。
そして、そのチェックポイントからすぐに別の場所へ転移した。
転移先は――第16階層。隠し部屋から最短のチェックポイントだ。
このために、隠し部屋から出た直後に、近くのチェックポイントを登録しておいたのだ。
第16階層に降り立ったが、近くに人もモンスターも気配がない。
やはり、ここは不人気地帯だ。
俺たちは5分ほどかけて隠し部屋があった袋小路まで移動する。
行き止まりには穴なんかなかったように元通りの壁が待っていた。
ダンジョンには二種類の壁が存在する。
ダンジョンを構成する、破壊不能な壁。
そして、隠し通路や隠し部屋を隠すための壊れる壁。
壊れる壁には、ひとつ特徴があり、一度壊されたとしても、時間がたてば元に戻るのだ。
だから、俺たちがぶち抜いた穴も綺麗サッパリ元通りになっているのだ。
「こうやって見ると、普通の壁ね」
「ああ、知らなきゃ見落とすな。だけど――」
目で見る限りではなんの変哲もない普通のダンジョン壁だ。
壊すことはおろか、傷一つつけるのが不可能な。
しかし、問題なのは――この場所だ。
「なんで今まで誰も見つけられなかったんだ?」
「確かにそうね」
「普通の冒険者だったら、行き止まりの壁は絶対に調べるはずだ」
「そうよね……」
ファースト・ダンジョンは全てのフロアがほぼ完全に踏破され、宝箱の場所や隠し部屋などはほとんど完全に把握されている。
『無窮の翼』のときは最短を目指したので、メインルートから外れた場所の探索はほとんどしなかった。
しかし、フロア中をくまなく探索する冒険者たちも多いし、この袋小路だって当然調べつくされているだろう。
――それなのに、誰も隠し部屋を発見できなかった。
「誰も発見していないなんて、そんなことありえるか?」
「不思議よね」
「強いて言えば、精霊か」
俺達だけが壁を壊せた理由――思いつくのはそれくらいしかない。
「まあ、後でロッテさんに確認してみよう」
「ええ」
「じゃあ、入ろうか?」
「うん」
午前中と同じように金剛鎚で壁に大穴を開け、隠し部屋に入ってみる。
「宝箱は消えてるな」
「ええ」
「一度きりか」
宝箱の中身やドロップアイテムには四つの種類がある。
――まず、誰がそれを取れるか?
ほとんどの宝箱の中身やドロップアイテムは誰でも取ることが出来る。
しかし、極一部の宝箱の中身やドロップ品は、最初に宝箱を開けるなり、最初にそのモンスターを倒した人しか取得できない。
――何度取れるか?
中には一度きりしか取れないものもある。
例えばボスの初回撃破ボーナスのドロップ品は一度きりだ。宝箱でもそのようなものが存在する。
しかし、多くの場合は何度でも取ることができる。
ただ、その場合でも、通常はリポップタイムというのが設定されており、しばらく時間を置かないと再取得できないようになっている。
リポップタイムは短ければ一時間。長いと数日から数週間というものまである。
――それでは、今回の隠し部屋の宝箱はどの種類なのか?
最初に見つけた俺たち専用なのかどうか、それは俺たちだけでは知り得ない。
他の冒険者に調査してもらわないと、明らかにならない。
では、一度きりかどうか。
それはすでに判明した。
俺たちがここに来たのは二回目だ。
そして、宝箱は消えている。
もし、再取得可能な場合はここに宝箱が現れるからだ。
リポップタイム前なら空っぽの宝箱が、リポップタイム後であれば中身が入った宝箱があるのだ。
つまり、この宝箱は一度きりということになる。
「謎石が何回もとれたら便利だったんだけどな……」
「まあ、しょうがないよ。他にもあるかもしれないし……」
しかし、今日精霊たちが導いてくれた場所はここだけだった。
つまり、第20階層までには、他に謎石を入手する方法がないってことだ。
「まあ、それだけ貴重品なんだろうな。第21階層以降に期待するか」
「うん、きっと見つかるよ」
「おう」
「帰ろっか」
「ああ」
根拠はないのだが、シンシアの言葉と笑顔のおかげで、見つかるような気もしてきたし、今日の疲れも吹っ飛んだ。
やっぱり、仲間っていいな――。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
ドロップ運がないことに定評のあるラーズ。
次こそは!
宝箱:2x2=4種類(念の為)
次回――『勇者パーティー10:潰走の後で』
あんだけボロ負けしたんだから、ちゃんと反省会するよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます