第27話 火炎窟攻略1日目3:最初のフロアボス
第5階層のセーフティー・エリアを後にした俺とシンシアは、途中二回の休憩を挟みながら、ダンジョンを駆け抜けた。
『火炎窟』は最初のダンジョンということもあり、第1階層や第2階層は分かれ道も少ない簡単な構造をしている。
しかし、階層が深くなるに連れ、その構造は複雑化し、迷路のような作りになっていく。
それゆえ、攻略するには何回も挑戦し、少しずつ踏破領域を広げていくしかない。
しかし、それは普通の冒険者の場合だ。
俺もシンシアも星持ち。
すなわち、このダンジョンをクリア済みなのだ。
俺にとっては三年間もこもり続けた馴染みの場所だし、それはシンシアにとっても同様だ。
最短ルートは熟知しているし、道中のモンスターも妨げにはならない。
俺たちは最短ルートを駆け抜け、ものの数時間でここまでたどり着くことができたのだ。
「本当にここまで来ちゃったわね」
「ああ、俺もここまで早いとは思わなかった」
俺とシンシアがいるのはファースト・ダンジョン『火炎窟』の第10階層――最奥の間の入り口前だ。
目の前には見上げるほどの大きな扉。
そして、その奥に控えているのは――通称ボス部屋。
俺たちがダンジョンに入ってから既に四時間。
ようやく、今日の目標としていた場所までたどり着いた。
今日はこのボスを倒して帰還することを目標にしていたが、思っていた以上にすんなりとここまで来ることが出来た。
『無窮の翼』で挑戦した時は、ここまで来るのに1年近くかかったなあ、と感慨深い思いがする。
【精霊統】になっていなければ、この短時間でここまで到達することは出来なかっただろう。
俺は強くなったんだ――その実感を確かめるように俺は拳を強く握りしめる。
「じゃあ、行きましょうか」
「ああ、行こう」
念の為、バフをかけ直し、シンシアの『リカバリー』で疲労を回復する。
準備が整うと、俺は石扉に向かって右手を伸ばす。
分厚く巨大な石扉。
普通に考えれば、これだけの重量の扉を開けるには、数人掛かりだろう。
しかし――。
右手の掌が石扉に触れると、その部分が淡く光る。
そして――石扉はズズズと音を立てながら勝手に動き出し、完全に開ききって止まった。
俺たちがボス部屋に足を踏み入れると、左右の壁に設置された篝火(かがりび)が灯り、部屋の中が明るくなる。
自動で開く扉といい、この篝火といい、不思議でしょうがないが、「ダンジョンとはそういうものだ」と割り切るしかない。
ダンジョン内はチェックポイント等、これ以外にもいろいろと外の世界とは異なる法則に支配されているのだ。
篝火がついたおかげで、室内の様子が明らかになる。
部屋の広さは20メートル四方。高さは5メートルほどだろうか。
これまでの道中と同じく石造りの部屋だが、気温が少し下がり、より一層肌寒く感じる。
そして、この部屋の主は部屋の最奥に位置し、その先の階段を塞ぐように立っている。
「ウォォォぉぉぉぉ!!!」
威嚇するように大声を上げたのはこの部屋の主――フレイム・オーガだ。
オーガ族は身長2メートルを超える人型モンスターで頭部にツノがあるのが特徴だ。
知性は低いが身体能力は高く、物理特化のモンスターだ。
オーガ族には様々な亜種が存在する。
『火炎窟』の第8階層から第10階層でも、通常種も含めた数種類のオーガが出現する。
そして、このフレイム・オーガもその一種だ。
体格は通常種のオーガをふた回りほど大きくしたもので、身長は3メートル超、頭部には三本のツノを生やしている。
オーガ族はツノの数が強さに比例する。
フレイム・オーガはオーガ族では中々の強さだ。
身に着けているのは粗末な腰ミノだけ。
そして、その手には炎を纏った2メートル近くある金棒が握りしめられている。
巨大な身体から打ち下ろされる鉄の塊。
その速さと重さは並のモンスターの攻撃の比ではない。
そして、金棒をガード出来たとしても、纏う炎によってダメージを受ける戦いにくい相手だ。
高い攻撃力としぶとい耐久力を持つ反面、素早さは大したことがないし、攻撃も大振りで単調だ。
金棒による攻撃を見切れるようになれば――時間はかかるかもしれないが――それほど苦戦せずに倒せる相手だ。
とはいえ、ここまでの道中で出会うオーガ族とは一線を画した強敵だ。
オーガ族に慣れたつもりの冒険者が同じような気持ちで挑めば、痛い目を見ることになる。
フレイム・オーガはダンジョン攻略を始めた冒険者たちに立ち向かう最初のボスモンスターだ。
その討伐成功率は八割。
二割の新人冒険者たちが、こいつを倒せずに命を散らすか、引退するのだ。
この部屋は最初のボス部屋ということで、ピンチになったら入り口から退却することが可能だ。
ボス部屋によっては戦闘が始まると入り口の扉が締まり、ボスを倒すまで開かないものもある。
もし、そうであったら、ここの討伐成功率は五割を切るかもしれない。
「予定通り、ここは俺一人で行く」
「大丈夫?」
「ああ、問題ない。道中で手応えはしっかりと感じた」
「ラーズがそう言うなら大丈夫と思うけど、気をつけてね」
「ああ、安心してそこで待っててくれ」
道中で精霊術の威力を試し、問題ないようならフレイム・オーガにはソロで挑む。
最初からその予定だった。
試した結果は俺の想像以上。
どんな敵も瞬殺だった。
俺の精霊術は思っていたより、遥かに強力だ。
これなら、フレイム・オーガにソロで挑んでも問題ないだろう。
フレイム・オーガがこちらに向かって歩み寄ってくる。
巨体をフラフラと揺らし、その歩みは鈍重だ。
俺もフレイム・オーガに向かって駈け出した。
フレイム・オーガのノロマな動きと対象的に、風精霊の加護で加速した俺の動きは文字通り、風のように疾(はや)い。
瞬く間に、その距離が縮まる――。
急接近する俺に驚いたフレイム・オーガは、慌てて燃え盛る金棒を振り上げ、力任せに振り下ろす――が、そんな大振りの攻撃が当たるわけがない。
金棒が床を叩きつけ、その衝撃で破片が飛び散った時には、俺は既にフレイム・オーガの股をくぐり抜け、後ろに回り込んでいた。
俺を見失ったフレイム・オーガは狼狽(うろた)えて辺りをキョロキョロと見回す。
「どこ見てるんだ?」
俺は両足で強く踏ん張り、急ブレーキをかける。
『水の精霊よ、凍てつく剣となれ――【氷剣(アイス・ソード)】』
俺の手の中に氷の長剣が具象する。
それを確認した俺は、膝を曲げて反動をつけ――フレイム・オーガに向かって飛び上った。
自分の身長を超えるほど高く跳躍した俺は、無防備な背中に向かって横薙ぎに氷剣を払う――。
フレイム・オーガは強敵だ。
何度も挑戦して、命からがら逃げ帰り、戦力を強化し、何度も作戦を練り直し、その末に勝てる相手だ。
『無窮の翼』時代は討伐に二週間以上もかかった(それでも早い方だ)。
しかし、サード・ダンジョンまで到達している上、ジョブランク3に至った俺の敵ではなかった。
――真横に振り抜いた氷剣は巨木の幹ほどの太さのフレイム・オーガの胴体を真っ二つに切り裂いた。
俺が着地するのと同じタイミングで、滑り落ちたフレイム・オーガの上半身が床に叩きつけられ、大きな音を立てる。
そして、下半身も同じように倒れ、ドシンと床を鳴らす。
「本当にあっさりだったわね」
「ああ」
シンシアがこちらに歩み寄って来た。
俺も水精霊に声をかけ、氷剣を消し去る。
俺とシンシアの前にあるのは、その身体を両断され、真っ二つになったフレイム・オーガの死体。
楽勝な相手だとは思っていたけど、まさか、一撃で両断できるほどだとは思ってもいなかった。
ジョブランクアップして強くなったとはいえ、まだ日も浅く使いこなしているとは到底言えない状態だ。
それでも、この力量。
もし、このチカラを使いこなせるようになったら、どれくらい強くなるのか。
それを想像すると、身体が震えるのだった――。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
フレイム・オーガ「俺の出番、短くね?」
次回――『勇者パーティー8:ストーンゴーレム戦3』
いよいよ、決着!
勝つのはどっちだ? (すっとぼけ)
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