第14話 勇者パーティー4:ジェイソン加入

 双剣を用いる前衛職ながら強力な光魔法を使いこなし、最強ジョブと謳(うた)われる【勇者】クリストフ。


 身の丈ほどの大剣を振り回し、モンスターをまとめて薙ぎ払う剛剣の【剣聖】バートン。


 膨大な魔力を持ち、全属性魔法を使いこなす【賢者】ウル。


 強力な回復魔法の使い手で、パーティーの守護者である【聖女】クウカ。


 新進気鋭で、「いずれ五大ダンジョン制覇するのでは」と期待が高い『無窮の翼』――それを構成する四人のメンバーたちだ。


 四人ともがジョブランク3であり、しかも、強力なユニークジョブ。クリストフの【勇者】に至っては数十年に一人しか現れないユニークジョブだ。


 そんな錚々そうそうたる顔ぶれの中に自分が入って上手くやっていけるんだろうか――ジェイソンは不安を感じていた。


 『破断の斧』の元リーダー【戦斧闘士】ジェイソン。

 クリストフから勧誘を受けた時は、「憧れの『無窮の翼』に自分が入れるなんて!」と天にも上る思いで、加入を即決した。

 『無窮の翼』の一員になれるのであれば、今まで自分が率いてきたパーティーのことも、その仲間たちのことも、どうでもよくなってしまった。

 しかし、実際に加入が決まり、いざ彼らとともにダンジョンに潜る段になってみると、急に不安になったのだ。


 ジェイソンのジョブ【戦斧闘士】はジョブランク3。

 その点では、彼らと同じなのだが、ジョブのレアリティが全然違う。

 【戦斧闘士】は比較的多い、言い換えれば、ありふれたジョブランク3だ。

 それに比べて、彼らのジョブは極めてレアで、そして、途轍もなく強い。


 ジェイソンは彼らの戦闘シーンを何度か見たことがあるが、明らかに自分たちよりワンランク上だと感じた。

 自分たちのパーティー全員がかりで倒すようなモンスターを、彼らは一人で倒してしまう。

 あの戦闘に自分が交ざれるのか、それが不安だった……。


 今日はジェイソン加入後初のダンジョン攻略だ。

 彼の実力が試される場でもある。

 その時を目前に、ジェイソンは不安と緊張を抱えていた。


 ジェイソンが現在いるのは『無窮の翼』の拠点である借家のリビング。

 そこにはクリストフを除く、『無窮の翼』のメンバー全員が揃っていた。

 場の空気は最悪で、ジェイソンは今にも逃げ出したい気持ちだ。


 バートンは神経質そうに貧乏揺すりをしながら、大剣の柄(つか)を握り、カチカチと鳴らしている。

 不機嫌さを隠そうともしない表情だ。


 クウカはそんなバートンをチラチラ見ては視線をそらすのを繰り返している。

 気にはなっているのだが、話しかけるのはためらわれる、そういった感じで、抱えた錫杖をギュッと握りしめている。


 そして、ウルは我関せずと、広げた分厚い魔道書を読みふけっている。


 誰もジェイソンを気遣うどころか、話しかけすらしてこない。

 昨日、顔合わせの夕食でみんなと出会った時も同様だった。最初に紹介されたきりで、後はほったらかし。

 クリストフとバートンが話し、クウカが相槌を打つばかり。ウルは今と同様、魔道書に夢中で顔も上げなかった。

 肩身の狭い思いをしながら過ごしていたジェイソンが、勇気を振り絞って話を振ってみても、「ああ」とか「そうだな」とか簡単に流されるだけだった。


 ――俺はまだ仲間と認められていない。ダンジョン攻略で自分の力を証明して認めてもらうしかない。


 疎外感を感じながら、ジェイソンは固く決意する。


「チッ、相変わらず、アイツは遅えなあ」


 集合時間を過ぎても来ていないクリストフに対して、バートンが文句をつぶやいた。

 バートンは苛ついていた。

 遅刻しているクリストフに対してもだが、それよりも一昨日の出来事に怒りが収まらないでいた。


 『疾風怒濤』、そして、『闇の狂犬』。

 二つの格上パーティーから、散々にバカにされた。

 そのときはビビってなにも言えなかった臆病なバートンであるが、プライドだけはクリストフに負けず人一倍高い。

 こうしてなにもせずに時間を過ごしていると、どうしてもその怒りが湧き上がってしまうのだった。


 バートンの怒りも知らず、当のクリストフがようやくやって来た。


「よう。みんな準備いいか?」


 悪びれた様子もない。


「遅えよ」

「わりいわりい」


 ちっとも反省していない様子のクリストフだった。

 一昨日の出来事がなかったかのように、いつも通り飄々とした態度だ。


 だけど、クウカだけは知っていた。

 クリストフの内心は荒れ狂っていることを。

 ラーズのときもそうだった。

 いくら怒っていても、憎んでいても、クリストフはそれを顔に出さない。

 ニコニコ顔で相手にそれを気づかせずに、復讐の準備を万全に整えてから、油断している相手に牙を剥く――それがクリストフという男だった。

 そして、そんなクリストフの歪んだ一面も愛おしいとクウカは思っていた。


「チッ、行くぞ」


 言っても無駄だと、舌打ちして立ち上がるバートン。

 クリストフの振る舞いには気に食わないところがあるが、彼の実力と頭の良さはバートンも認めている。

 だから、文句を言いながらも、クリストフには従っているのだ。


 その反面、自分より実力が劣る相手は徹底的に見下す。

 追放したあの精霊術士のように。

 それがバートンという男だった。


 バートンに続いてクウカが席を立ち、ウルも魔道書を閉じる。

 ジェイソンもワンテンポ遅れて立ち上がった。

 こうして、予定より十分ほど遅れて『無窮の翼』はサード・ダンジョンに向けて出発したのだった。


 大通りのど真ん中を堂々と進む『無窮の翼』の面々。

 先頭はクリストフとバートン。

 その後にクウカとウルの女性陣が続く。


 最後尾は新入りのジェイソンだ。

 最初は不安で自信のない足取りの彼だったが、通りを歩いているうちに自信を取り戻してきた。

 その理由は――。


「おい、あれ『無窮の翼』だぞ」

「おお、ホントだ。俺たちもあんな風になりたいよなあ」

「クリストフさん、今日もカッコいいわ」

「バートンさんも豪快で、男らしくって素敵よ」

「クウカちゃんも可愛いよな」

「いや、俺はウルちゃんだ! あの守ってあげたくなる姿がたまらん」

「おまえ、ロリコンかよっ!」

「ロリちゃうわっ! ウルちゃんは普遍的妹なんだよっ! おまえにはそれが分かんないのかっ!」

「分かりたくもねえよ」


 その視線はジェイソンにも向けられる。


「つーか、なんかメンバー変わってない?」

「あ、ホントだ。精霊術使いの人いなくなってる」

「あの地味な人か。あの人だけジョブランク2だったんだよな。やっぱり、ついていけなかったのか」

「勇者パーティーに精霊術使いとか、地味すぎてなんでいるのか理解できなかったもんな」

「なんか、クリストフさんと幼馴染だったらしいよ」

「へえ〜、そのお情けで入れてもらってたんか」

「それで、愛想つかされて、追い出されたと」


 そして、話題はジェイソンに――。


「で、誰なの? あの新入りの人?」

「うーん、わかんない。でも、渋くてちょっとカッコいいかも」

「そうね。私もタイプだわ」

「『破断の斧』のジェイソンだと思うよ」

「ああ、ジョブランク3の斧使いの人か」

「へえ、『無窮の翼』に引きぬかれたのか〜。羨ましいなあ」

「な〜」

「俺と替わって欲しいわ」

「ジョブランク2の俺たちには関係ない話だろ」

「たしかにな」

「「「わははは」」」


 その理由は――他の冒険者たちからの注がれる憧れの視線だ。その視線にジェイソンは快感を覚える。

 今までは憧れる立場だったのが、憧れられる立場になったのだ。

 自分が『無窮の翼』のメンバーに選ばれたことが、なんとも誇らしいジェイソンだった。


 『無窮の翼』の拠点は、ダンジョンから目と鼻の先の好立地。

 ものの数分で到着してしまう。

 ジェイソンは英雄の凱旋パレードに加わったかのような高揚感を覚え、もっとこれが続けばいいのにと名残惜しく思った。


「さあ、行くぞ。今日は何階だっけ?」

「第10階層です」

「それくらい覚えとけよ」

「…………」


 クリストフの問いかけに、クウカが答え、バートンが文句をたれ、ウルは沈黙を保っている。


 新入りのジェイソンは彼らの会話に加われずにいた。

 彼はそのことに一抹の不安を覚えたが、ダンジョン攻略をしているうちに彼らとも打ち解けられるだろうと思うことにした。


 ――足を引っ張らないようにしないとな。


 ジェイソンは気合いを入れ直して、ダンジョンへ臨んだ。





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 Q:コイツら、こんな調子で大丈夫なの?

 A:大丈夫だ問題ない(フラグ)


 次回――『アインスの街』


 始まりの街だよ。

 初心忘るべからずだよ!

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