第8話 勇者パーティー2:新規メンバー勧誘『疾風怒濤』

 ラーズを追放した翌日。

 昨日の深酒がたたり、【勇者】クリストフが起き出したのは昼前だった。

 彼は二日酔いの頭痛に顔をしかめながら、拠点のリビングに顔を出す。


「おはよ」

「おっせーよ」

「おっ、おはようございます」


 不機嫌そうに文句を垂れる【剣聖】バートン。

 立ち上がり、ぺこりと頭を下げる【聖女】クウカ。


 リビングでクリストフを迎えたのはこのニ人だけだった。

 ニ人は大きなテーブルを挟んで向かい合って座っていた。

 もう一人のメンバーである【賢者】ウルはいない。

 ウルが「明日は買い出しに行く」と昨晩言っていたことをクリストフは思い出した。


 置かれた椅子は五脚。

 クリストフがクウカの隣に腰を下ろすと、空いた椅子はニ脚。

 昨日まで居たもう一人は、もうここには居ない。

 そう思うと、クリストフは暗い喜びで満たされた。


「頭痛がひどい。クウカ、治してくれ」

「はっ、はい」


 クウカの魔法で二日酔いは消え去り、頭がスッキリしたクリストフはいつもの調子を取り戻した。


「腹減ったな。クウカ、なんか用意してくれ」

「はっ、はい」

「おいっ! 散々待たせたんだぞっ! のん気にメシなんか喰ってねえで、とっとと行くぞ」


 今日は新メンバーの勧誘に行く予定になっていた。

 昨晩が遅かったので待ち合わせ時刻は午前十時とゆっくりだったが、それでも一時間以上の遅刻。

 いつもと同じく、クリストフは寝坊した。

 クウカが起こしに行ったのだが、「後少し」の言葉とともに二度寝を決め込んだのだ。


 粗野な言動が目立つバートンであるが、時間には几帳面という一面も持ち合わせているので、クリストフの寝坊にかなりイラついてきた。


 それに対してクリストフは時間にルーズだ。

 大物は細かいことにこだわらず鷹揚でいるべきで、勇者である自分にはそのような態度が相応しい――本人は心の底からそう思い込んでいるのだ。

 実際には、単にだらしないだけなのだが、それを注意してくれる人間はもうここにはいなかった。


「まあまあ、腹が減ったままじゃあ、まとまる話もまとまらないだろ? 別に相手は逃げるわけじゃないし、腹ごしらえしてからでも十分だろ?」

「チッ……」


 言ってもムダだと悟ったバートンが吐き捨てるように舌打ちする。


「どっ、どうぞこれを」

「おっ、美味そうだな。ありがとう」


 クウカがマジック・バッグから差し出したのは、クリストフの大好物である有名店『豚貴族』のカツサンドだった。

 笑顔をほころばせ、クリストフはサンドイッチにかぶり付く。

 クリストフのそんな姿にクウカも笑みを浮かべる。


「お茶もどうぞ」

「おお、やっぱクウカは気が利くな。どっかの役立たずのアホタレとは違うなあ」

「いっ、いえ。ありがとうございます」


 今まで『無窮の翼』での食事の準備はラーズの仕事だった。

 ラーズがいなくなった今、食事は自分たちで調達せねばならない。

 早起きしたクウカはみんなの朝食の買い出しに出て、そのときに行列に並んでクリストフの好物であるカツサンドも買っておいたのだ。


 ラーズがいなくなって、やらなければいけない雑事は増えたが、こうしてクリストフの世話が出来ることはクウカにとっては喜ばしいことだった。

 嬉しそうにカツサンドを頬張るクリストフを眺め、クウカは幸せな気持ちになる。


「そういえば、アイツの部屋はどうなってた?」

「ガラクタしか残ってませんでした」


 サンドイッチを美味しそうにパクつきながら、クリストフがクウカに尋ねる。

 追放したラーズが使っていた部屋のことだ。


「まあ、目ぼしいものは貰っておいたからな」

「ガハハ、ひでえ野郎だぜ」

「オマエもノリノリだったじゃないか」

「ああ、アイツの吠え面を想像したら笑えてくるぜ」

「マナポーションは?」

「それもそのままだったぜ。ヤツにもプライドがあるんだろ。薄っぺらプライドだけどな」

「ははは。やっぱりな。相当怒っていたことだろうな」


 クリストフたちは昨日、一週間に渡るダンジョン遠征から帰還した。

 いつもなら冒険者ギルドでの精算手続きはラーズの仕事だ。

 だが、今回はクリストフとバートンが代わりを務めた。


 ラーズたち三人には先に酒場に向かわせ、その間にラーズの部屋から価値のある品々を根こそぎ奪うためだ。

 そして、当てつけのように一本のマナポーションを置いておいた。

 「オマエの報酬はこれで十分だろ?」と言わんばかりに。


「よしっ、じゃあ、行くか」


 のんびりとマイペースでカツサンドを食べ終え、お茶まで飲み干してから、クリストフは立ち上がった。

 つられて二人も立ち上がる。

 三人は一緒に冒険者ギルドへ向かった。


 冒険者ギルドを訪れた目的は三つ。


 ――まずは最初に簡単な用事から済ませよう。


 クリストフは嬉しさを隠し切れないまま、ギルドの受付嬢の元へ向かう。バートンとクウカはその後に従った。


「クリストフさん、おはようございます。本日はどういったご用件でしょうか?」

「昨日の報酬の受け取りだ」

「今日はラーズさんじゃないんですね」

「ああ、これからは他のメンバーが担当する」

「…………。はいっ、すぐお持ちします」


 席を立った受付嬢は嫌な予感がした。

 今のクリストフの言葉と、早番の人からの申し送り――ラーズさんが「今まで世話になった」と伝えていたこと。


 ――もしかすると、ラーズさんはもう……。


 カウンターを離れた受付嬢は事務処理を済ませ、書類と小袋を手に戻って来た。

 彼女の胸の中で不安が広がるが、営業モードに気持ちを切り替え、クリストフに応対する。


「では、こちらが報酬になります。ご確認の上、問題ないようでしたら、こちらの魔道具に冒険者タグを合わせて下さい」


 手渡された小袋はずっしりと重たかった。

 『無窮の翼』が一週間ダンジョンにこもり、稼いだ報酬だ。

 金額も想定した通り。それを確認したクリストフは魔道具に冒険者タグを押し付ける。

 すると、魔道具が光を放ち――それで取引は完了だ。


「受領書類を仕上げますので、少々お待ち下さい」


 受付嬢が事務作業に打ち込んでいる間、クリストフが驚いたような声を上げる。


「あっ!」

「どうした?」

「どっ、どうしました?」

「いや、今回の遠征報酬、うっかりラーズに取り分を渡すの忘れてた」

「ワザとだろ。白々しい」

「いやあ、俺としてはちゃんとラーズに渡したかったんだよ。でも、忘れてたんだから、しょうがないよな」

「嘘つけ。最初からそのつもりだろ」


 受付嬢の作業が終わった。


「お待たせしました。こちらが受領証になります。どうぞ、お納め下さい」


 クリストフは受領証を受け取り、マジック・バッグに無造作に突っ込んだ。


「他にもなにか、ご用でしょうか?」


 次は――。


「メンバー変更をお願いできるかな」

「へっ!? メンバー変更ですか?」


 受付嬢の嫌な予感が当たった。

 予想していたとは言え、衝撃的な発言に、つい、大声を上げてしまう。

 その声に周囲の冒険者の視線が集まる。


「ああ、役立たずのラーズを追放した」

「そうですか……」


 彼女はこの半年間、何度もラーズと接する機会があった。

 彼女を含め、ギルド職員内でラーズの評価は高かった。


 穏やかで誠実な人柄で、他人にきちんと敬意を払って接する。

 実力を過信しがちな冒険者の中にあって、増長することなく自分たちの実力を理解し、情報収集と事前準備を疎かにしない。

 他のジョブランク3のメンバーたちに隠れてしまいがちだが、『無窮の翼』がこれまで異例の速度でダンジョンを踏破できたのは彼の働きが大きい。

 これがギルド職員内での共通認識であった。


 ――この調子に乗った男は、そんなことも分かっていないのか。今までジョブにあぐらをかいてきた冒険者はみな挫折してきた。コイツもそのうちの一人か。


 受付嬢はクリストフへの怒りが湧き上がる。

 それとともに、ラーズを名残惜しく思う気持ちと彼を案ずる気持ちが湧き上がってきた。


「彼はいまどこに?」


 しかし、クリストフから返ってきた言葉は、元メンバーへの気遣いなど皆無であった。


「さあ。拠点からも追い出したから、どっかでくたばってんじゃない?」

「…………」

「それより手続き頼むよ」


 受付嬢は呆れ果てて、言葉に詰まった。

 しかし、彼女は自分が受付嬢であることを直ぐに思い出す。

 受付嬢は特定の個人に肩入れすることは出来ない。

 彼女はやりきれない思いを必死で押さえつけ、淡々と業務に打ち込むことでやり過ごすことに決めた。


「…………。分かりました。パーティー脱退のためには本人の意思か、メンバー過半数の同意が必要です。バートンさんとクウカさんも同意見ということでよろしいでしょうか?」

「ああ」「はっ、はい」

「承知致しました。過半数の同意が確認できました。それではこの書類をご確認の上、問題がなければ、こちらの魔道具に冒険者タグを当てて下さい」


 書類にはギルドの正式な書式で「ラーズが『無窮の翼』から脱退する」旨が記載されていた。


「ああ、問題ない」

「だな」「ありません」


 3人は書類を確認すると、10センチ四方のプレート状の魔道具に首から下げた冒険者タグを押し当てる。

 すると、魔道具はチカチカチカと三回点滅――。


「はい。これでラーズさんの脱退手続きが完了致しました。新規メンバーを追加する際には、また届け出をお願いします」

「ああ。またすぐに来るよ」


 これでラーズは正式に『無窮の翼』のメンバーではなくなった。

 クリストフの中で、喜びが爆発する。

 喜びを隠し切れないまま、クリストフは受付嬢に話しかける。

 浮かれている彼は、冷め切った彼女の視線にまったく気づかなかった。


「それでもうひとつ聞きたいことがあるのだが」

「なんでしょうか?」

「『疾風怒濤』の今日の予定は?」

「引き抜きですか?」

「ああ、あんな役立たずじゃなくて、まともなメンバーを入れたら、俺たちはもっと強くなるからな」


 受付嬢は自分の心が凍てついていくのを感じる。

 彼女は確信する――誰に引き抜きを持ちかけるつもりなのか知らないが、『疾風怒濤』のメンバーがそれに応じるのはありえないということに。


「『疾風怒涛』の皆さんはしばらくお休みなので、拠点(ホーム)にいると思いますよ」


 新メンバーの第一候補は『疾風怒濤』のロンだ。

 前衛アタッカーで、ジョブランク3の【アサシン】。

 クリストフらは彼に会うために、『疾風怒涛』の拠点を訪ねることにした――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 『疾風怒涛』の拠点は『無窮の翼』の拠点と同じく、街の西側に位置する高級住宅街にあった。

 しかし、同じ地区にあっても、『無窮の翼』よりも立地が良く、建物も大きく豪華だ。


 ――ちっ、すぐに追い越してやるからな。


 劣等感を刺激されたクリストフは、建物を睨みつける。


「ほら、さっさと行こうぜ」

「ああ」

「はっ、はい」


 バートンに促され、クリストフを先頭に、三人は玄関へ向かった。


「これはこれは『無窮の翼』の皆様、どういったご用でしょうか?」


 クリストフが呼び鈴を鳴らすと、一人の女性が出て来た。

 普段着のラフな格好をしているが、彼女も『疾風怒濤』の一員。

 ジョブランク3でレアジョブの【盾乙女】。

 燃えるような赤い長髪――通称『焔姫』のサシャ。

 どこかのお姫様じゃないかと噂されているが、本人は否定も肯定もしておらず、真相は闇の中だ。


 サシャも前衛職だが、アタッカーではなく、ディフェンダーだ。

 今回求めているのはアタッカーであり、彼女は勧誘の対象外。


 しかし、サシャは女性としての魅力に溢れている。

 メリハリの利いた彼女のしなやかな肢体を、クリストフもバートンも舐め回すように凝視し、だらしなく口元を緩めた。

 サシャはその不躾な視線に気付いていたが、眉ひとつ動かさなかった。


「いや、ちょっと、ロンに用事があってな?」

「どのようなご用件でしょうか?」

「それは本人に直接話すよ。彼はいるかい?」


 先輩冒険者に対する敬意の欠けたクリストフの口調であったが、サシャはそれを咎めることもなく事務的に応対する。


「でしたら、応接室にご案内いたしますので、そこでしばらくお待ち下さい」


 クリストフたちは立派な応接室に案内された。


「では、呼んで参りますので、しばしお待ちを」


 サシャが退出すると、バートンが口を開いた。


「イイ女だけど、愛想がねえな」

「ああ、ありゃ気の強いじゃじゃ馬だな」

「まあ、ああいう女を力で組み伏せるのが楽しいんだがな」


 バートンがガハハと下品な笑い声を上げる。

 女性を下に見ているバートンは、対等なパートナーこそいないものの、根っからの女好き。

 休みの度に娼館を訪れ、金に物を言わせ女を乱暴に抱いている。

 その粗暴な態度ゆえに相手からは忌み嫌われているのだが、本人はそれに気付いていない。


「俺はもっと気立ての良い女性が好みだな。クウカみたいなね」

「あぅ……」


 クリストフの言葉に、クウカが顔を赤くする。


 クウカは彼に恋心を抱いている。

 その理由は、彼の顔立ちがドンピシャでクウカの好みだからだ。

 彼を一目見たときから、クウカは恋に落ちた。


 クリストフの性格や言動は時々疑問に感じるが、彼女にとって完璧と言えるクリストフの容姿の前では、些細な問題に過ぎない。

 引っ込み思案な性格ゆえ、これまで一歩を踏み出せずにいるが、クウカはずっと彼を慕い続けている。


 そして、クウカの恋心をクリストフは知っている。

 知っていて、利用している。

 彼女を恋愛の対象として見ることはない。


 彼にとっては自分以外は信頼できず、利用するだけの価値しかない。

 役に立てば重宝するし、自分の邪魔をするラーズのようなヤツは切り捨てる。それだけだ。


 クウカはクリストフにとって都合の良い相手だった。

 時には甘い言葉をかけ、時には突き放す態度を取る。

 そうやって、彼女を支配してきたのだ。

 自分の言うことを聞く駒であり、【聖女】であるという事実。それだけが、クリストフにとってクウカの存在価値であった。


 惚れた者の弱みで、クウカは今まで自分の気持ちよりもクリストフの言葉を優先させてきた。

 だから、今回の追放劇もそれほど乗り気ではなかったが、クリストフに従う方が遥かに大切であったのだ。


「つーか、遅えな」

「まあ、いきなり訪れたのはこっちだ。大らかな気持ちで待ってあげようじゃないか」

「俺は待つのは嫌いなんだよ」

「ははっ、そんな短気じゃあ、大成しないよ。俺たちは歴史に名を残す冒険者になるんだ。それなりの振る舞いというのが要求されるんだよ」

「ふんっ」


 いつものごとく、クリストフが大物ぶった尊大な振る舞いをするが、バートンにはそれが鼻についた。

 しかし、突っ込んでもどうせ耳を貸さないことは知っているので、バートンは相手にしなかった。


 その後も、クリストフのひとり語りが続く。

 辟易したバートンは相槌すら打たなかったが、クウカはひとり語りに耳を傾けた。

 いや、傾けている振りをした。

 話に合わせて、相槌を打ってはいたが、話の内容は適当に聞き流している。

 クリストフのことは大好きだけど、彼のこういった話は正直苦手だった。

 だが、そこは恋する乙女。

 それがバレないように演技することには、もう慣れきっていた。


 そして、クリストフのひとり語りが一段落した頃、ドアが開き二人の男が入ってきた。

 先頭はロンではなく『疾風怒濤』のリーダーにしてジョブランク3の【魔道士】マクガニー。

 クリストフが【賢者】ウルの劣化版と評したジョブの一人だ。

 目当てのロンは、その後ろに従っている。


 二人ともラフな普段着姿であるが、マクガニーはワンドを、ロンは短剣を腰に差していた。

 マクガニーは魔法職であり、筋肉のついていない薄い身体つきながらも、パーティーリーダーらしいどっしりとした貫禄を備えているし、ロンは【アサシン】らしい剥き出しの刃物のような、ヒリヒリとした隙のない気配を漂わせている。


 マクガニーもロンも二十代半ば、全員二十歳になったばかりの『無窮の翼』からしたら年上の先輩。

 年齢だけではない、ダンジョン攻略でも遥か先を行く先達だ。


 明らかに格上の強者である二人の登場はこの場を支配し、その威圧感にクリストフたちは気圧され、たじろいだ。

 二人が向かいのソファーに腰を下ろすと、リーダーであるマクガニーが口を開く。


「やあ、お待たせしたね。それで、今日は何の話だい?」


 マクガニーは作り物めいた笑顔を貼り付けているが、その目は笑っていなかった。


 ――大丈夫、俺は【勇者】だ。俺の方がエラいんだ。コイツら相手にビビる必要なんかない。


 マクガニーの圧に呑まれかけたクリストフは、自分を叱咤し、口を開いた。


「話があるのはアンタじゃない。隣のロンだ」

「ほう。そう言っているが、ロンはどう思う?」

「俺はコイツらに用はない。痛くもない腹を探られたくないから、リーダーに同席してもらうだけだ。それで都合が悪いなら、お引き取り願おう」

「当人はこう言ってるけど?」

「ふっ。そっちがそう言うなら、こっちはそれで構わないぜ。そもそも、ロンだけに話をしようと思ったのは、アンタに恥をかかせないためだしな。こっちの善意を無視したんだから、後悔しても知らないぞ」

「ほう。恥をかくねえ。それはそっちじゃないの?」


 クリストフが睨みつけるが、マクガニーは柳に風だ。


「で用件は?」

「では、率直に言おう。ロン、うちのパーティーに入らないか? 丁度、うちは空きが出来たところだ。こんなチャンス、今を逃したら次はないぞ」

「断る」


 即答だった。


「はっ? なんでだ? 頭オカしいのか? 【勇者】である俺が誘ってやってるんだぞ? たしかに、今は『疾風怒濤』の方が進んでいるが、実力は『無窮の翼』の方が勝っている。すぐに追い抜かすぞ。そうなってから『入れてくれ』って懇願しても遅いんだぞ」

「だから、断ると言っている」

「はああああああ??? バッカじゃねーの???」


 まさか断られるとは思っていなかったクリストフが大声を上げる。


「バカはそっちだろ、勇者サマ」

「なんだとっ!?」


 横からマクガニーが冷め切った、感情のない口調でクリストフを煽る。

 煽られたクリストフは激高して立ち上がり、テーブルを殴りつけた。

 そんなクリストフにゴミを見るような視線を向け、マクガニーが言葉を続ける。


「オマエら、ラーズを追い出したんだってなあ」

「ああ、無能の役立たずだから追放してやったんだよ」

「それがバカだってんだよ」

「はあ!?」

「なんだと、おいっ!」


 今まで我慢していたバートンも虚仮(こけ)にされた怒りのあまり、勢い良く立ち上がる。

 それだけでなく、テーブル越しにマクガニーに掴みかかろうとし――喉元に短剣を突き付けられる。


「座れ」


 短剣を突きつけたロンは、威圧を込めて静かに命令する。


「あっ、ああ……」


 バートンはロンの動きがまったく見えなかった。

 恐怖に包まれながらも、なんとかロンに視線を向ける。

 少しでもムダな動きをすれば刺す――深い闇のようなロンの視線がそう告げていた。

 背中に流れる冷たい汗を感じながら、バートンはおとなしく言うことを聞いて、ソファーに座り込む。


「お前もだ」

「チッ……」


 ロンが今度はクリストフに命じる。

 クリストフは短剣を一瞥すると、舌打ちしながら従った。


「そもそも、ともに死線をくぐり抜けて来たメンバーを簡単に追放するようなリーダーに誰がついていくんだい?」

「くっ……」

「それに、誰がどう見たって『無窮の翼』の要はラーズだよ? うちに空きがあったら、頭下げてでも入ってもらいたいくらいだ。そんなことも分かってないのかなあ?」

「違うっ! アイツは役立たずの能なしだっ!」

「そう思いたいんなら、勝手に思っていればいいよ。すぐに思い知ることになる」

「そんなわけがないっ!! アイツはジョブランク2、しかも、使えない【精霊術士】なんだぞっ!」

「それが? ジョブが良ければ優秀な冒険者だとでも思ってるのかい?」

「ああ、そうだ。クズジョブを追放して、まともなジョブランク3を入れれば、俺たちはさらに強くなる。オマエたちなんか、あっという間に追い抜かしてみせるっ!!!」

「おお、威勢がいいねえ。だが、吠えるだけなら仔犬でも出来る。冒険者だったら結果で示せよ」

「ああ、やってやるよっ! そんときになって、吠え面かくんじゃねえぞっ!」


 もう一度、クリストフはテーブルに拳を打ち付ける。


「じゃあ、お引き取り願おうか」

「チッ、行くぞ」

「おう」

「はっ、はい」


 『無窮の翼』の面々は、来た時とは正反対の不機嫌な態度で『疾風怒濤』の拠点を後にした――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 ざまぁ第1弾でした。

 いかがでしょう?

 次話も続けて、ざまぁ2弾です。


 次回――『勇者パーティー3:新規メンバー勧誘『闇の狂犬』』


 『闇の狂犬』相手の勧誘。上手くいくといいですね(すっとぼけ)。

 狂犬さんの暴れっぷりをお楽しみに!


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