3-3 『究極の真偽』と『影隠し』

私は走った。そして、新咲蒼空のことを知っていそうな人に声をかけまくった。

しかし、異能を知っている人は誰1人いなかった。しかも、誰にも優しく気さくで面白い人だという話が多かった。


「ほぼ半数から聞いて同じ答え。操られてるんじゃないか?これ。」


壁に寄りかかり、ひと休憩を入れる。通りすがりの人からこっそり盗み聞きしようとしたが、全くそんな話題は出てこない。出るわけも無いか。

そんな時、ある人物を見つけた。木上集字。

私の応援団長とか親衛隊とかを謳っていたやつだ。見た目からして間違いない。


「…教室INか。」


入ったのは、3の1教室。後を追いかけて、話を聞こうと目論む。さらに、会長から貰ったファイルにはAと記載があり警戒人物なのは確か。

念の為、異能も下調べをした。戦闘系であれば、何とかなるかもしれないが周囲に何かしらの影響を及ぼすものであれば難しいとの算段だ。


ドアに耳を押し付けて、室内の会話を聞こうと企む。しかし、ボソボソと話しているのか何を話しているかがまるで分からない。

周囲からの目線が痛い…。このままだと面倒事に発展する。私は諦めた。盗み聞きを辞めて部屋に突撃することにしたのだ。


「話を聞かせてもらおうか、木上集字!」

「べ、紅薔薇琴音!?あ、いや、紅薔薇様!」

「……」


目の前には、集字と女の姿が見えた。そいつが何者かを知ろうとしたのだが、影に逃げるように消えてしまった。

だが、目的の人物は見つかった。内通者候補、木上集字。

先程、私のことをフルネーム呼びしたのは非常におかしい。

何かある。これは、もはや確信に近かった。


「木上集字。お前は内通者だな?」

「紅薔薇様、これは違います!」


私は呆れている。あからさまに嘘しかつかないパターンだ。

それにこいつの異能も割れてるし、異能を使われても特に問題は無い。だが…物は試しだ。こいつの異能を受けてみるか。

確かこいつの異能は…


そんなことを考えていたら、奴がニヤリと笑って耳元で囁く。


「俺の異能力は、『対象を影に隠せる異能力』ですよ。紅薔薇琴音。」

「なっ……」


奴の方を見ようと振り返ったのが不味かった。私の体は、泥沼に入ったかのように沈んでいく。出ようと私はもがく。

しかし、掴まれない。

何故か。

私が居た場所影の中。全身が隠れていた。

私は沈んでいく。あいつの能力を知ろうとする油断を見せたが為に。だが、このトリックはもう分かっている。


「舐めんじゃねぇよ。この私、紅薔薇琴音を。」


そう言葉を残し、私は影の中に沈んだ。

中はただただ闇。抜け出す方法はあるのやら…。影に隠す。

つまりは、箱みたいな解釈でいいのか?

影は箱、中身は私。つまり、影が消えるまで待てってことかぁ?!今夕方だ。つまり、影は消えない。

私は焦ってスマホを取り出す。

しかし、電波がない!

だが、奴の異能は分かってる。これはあいつの異能じゃない。別な誰か!それさえ分かれば…なのだが。


仕方がない。明日の朝になればここから出れる。そう信じるしかない。

私はそこで眠りにつく。変な感覚だった。影の中で眠るというのは。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

『それで?紅薔薇琴音を閉じ込めることには成功したのか』

「はい、私の異能で騙して封じ込めました。」


裏路地で、集字がスマホを使い誰かと会話を行っている。

どうやら声は、機械音声で加工を施されている。盗聴対策だと思われるが。


『対象に真実を嘘、嘘を真実と思い込ませる異能か。』

「はい。それで、私の異能を『影隠し』だと思い込ませました。」

『よくやった。そこだけ褒めてやる。』

「ありがとうございます!しかし…そこだけというのは?」


集字の背後から人影が現れる。それは茨であった。拳銃を持ち、誰かと電話をしているようだった。そしてその銃先を、集字の方に向ける。


「どういうことですか?」

『貴様が内通者だと知られた。』「だから、ここで始末をすることにした。」


茨は、スマホを地面に置いて拳銃で破壊する。それと同時に、集字の着信も切れる。

集字は逃げようと思った。だが、足は動かなかった。

それもそのはず。『荊棘地獄』で足を掴まれており逃げられなかったのだ。


「なぜ私を始末する!私が居なければあの作戦は」

「御託はうんざりだ。あぁ、ボスからの伝言。『お前は捨て駒だ。捨て駒は大人しく消えろ』だそうだ。」

「ふざけやがって…。あのクソ野郎!」


集字も拳銃を取り出す。しかし、その銃から弾が出ることは無かった。出すと同時に脳天を撃たれた。

『荊棘地獄』も解除され、コンクリートに後頭部が直撃する。


「任務完了。バイバイ。『究極の真偽』木上集字。」


拳銃を回収すると、茨は裏路地を後にする。そこに、集字の遺体を残したまま。

これにより、デットキングの情報を聞き出すのを難しくなる。

そういう作戦なのだろう。


「さぁて、紅薔薇琴音。排除作戦を独断決行するかぁ?アハハハ!」

夜の街に、茨の笑い声が響く。その夜の茨の動向は誰も分からないらしい。

デットキングからの情報収集手段が減り敵が着々と動く中、各々はここからどう動くのだろうか。

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