2-5 襲撃

帰り道、普段通りのルートを通って私たちは帰っていた。

時間は夕方で、カラスがカァカァと夕暮れ時を伝えるかのように鳴いていた。

いつもと変わらない。いつも通りの帰り道のはずだった…。


「でさー、そこで沙羅が宿題教えてくれて〜」

「はぁ…琴音は1人で勉強できるようにしな…って、誰?」


目の前には、黒服をまとってサングラスを掛けたザ・マフィアと言わんばかりの男と女が居た。片手にはサブマシンガンを持っており、下手なことをすれば発砲する気なのだろう。

引き返すことも考えた。だが、ここは完全な一本道。他のルートを通ることなんて出来ない。


(どーしよ…私たち狙ってるよね…絶対)


思考をめぐらせ、なんとか逃げ切る道を探そうと必死に考える。すると、相手が急に無線で話し始めた。

「ボス、ターゲットと遭遇しました。」

『よし、紅薔薇琴音を捕獲しろ。連れは殺しても構わん。』

「了解。」


そういい無線を切った。

その瞬間、奴らの目の前で発煙弾が炸裂した。奴らが無線で話している際に、こっそり作っておいたのだ。その瞬間に、私たちは元来た道を引き返した。学園の近くにある繁華街に出るのだ。そうすれば、相手は銃を打ってこないと考えた。


だが、それは悪手だった。元来た道を引き返したところには、車が囲うように停車されており、目の前には黒服と外套を羽織った女が待っていた。黒服を引き連れているところを見るに、こいつがリーダーなのだろう。


「通して貰えませんか?」

強く相手に睨みつけるように言い放つ。

「これはこれは。あかばらと、その連れさま。すみませんが、ボスからの命令なので。大人しく捕まってもらいましょうかねぇ!」

次の瞬間、周囲から荊棘が出現し拘束されてしまった。

「は、離せ!」

「動くと棘が刺さるぞ?あははは!」

そう呑気に高笑いしながら、紅薔薇達のことを眺める。

次の瞬間、外套を羽織った女の頭に何かが当たった。


「なんだ?」

そう疑問に思い、頭を触ると白いなにかが付いていた。上空ではカラスが鳴いている。

(まさか…!)女の直感は正しかった。頭に付いたのはカラスの糞だった。

もはや、ギャグ漫画くらいでしか見られない状況である。女はブチ切れ、上を向いてカラスを荊棘で貫こうとした。

「異能力…『荊棘地獄』!」

女が腕を上に振り上げると、ビルの屋上から荊棘が伸びて、カラスを追いかけていく。

「絶対許さねぇからなぁ!待てコラァ!」

そう苛立ちながら、カラスを追いかけるように移動し執拗に荊棘を仕向ける。


数分後、荊棘はカラスを貫きカラスは地面に落ちていった。

「はぁ…はぁ…ざまぁみやがれ!あはは!」

その後、女が戻ってくると、さっきまでそこにいた黒服がその場に倒れていた。

「…は?どういうことだ?!周囲に人は居ないし…。まさか!」


そして、荊棘で拘束していた2人がどうなったか確認するために振り向くと、そこにはさっきまで近くにいたはずの黒服が拘束されていた。

「…チッ」

舌打ちをした後、黒服2人の胸を荊棘で貫き、倒れている黒服をも踏みつけてその場を後にした。


紅薔薇達はというと…異世界「ジャッジメント・カジノ」に居た。

「ジャッジメント・カジノ」は、紅薔薇琴音の異能力である「ジャッジメント・ギャンブル」によって生成されたカジノの中を扮した異世界である。

拘束され、女がカラスに構って視線を逸らしていた時、琴葉の異能力「チェンジ」で適当な黒服と位置を入れ替わり一気にボコボコにして、「ジャッジメント・ギャンブル」で異世界に隠れる。

ちなみに、カラスの糞に関しては琴葉の持っているアンラッキーハッピーを使って引き起こした。その影響で、この世界に来た時に頭から落っこちるということになったが。


「…疲れた」「琴音…私の方が疲れたよ…」

床に寝っ転がり、ここで休んでから家に帰宅することとした。




その頃、デットキング本拠地━━━━

デットキングの本拠地は、ビル群の近くにある高層ビルである。詳細は誰も知らず、入口や中には見張りが存在している。


「…黎鍼くろばり。お前はなぜ来なかった?」

外套を羽織った女が、廊下で黎鍼くろばりという自身より背の高い男に話しかけている。

「姉さんが来なくていいと言ったのでしょ。結果がこれですよ。ボスにどんな顔をすればいいのやら…。」

「おやおや、お二人さん。まぁた任務失敗ですかぁ?これだから新米は、困っちゃいますねぇ。」


煽り口調で話しかけてきたのは、フードを被った女。パソコン片手に何かを行っている。

「黙れ。お前の方が新米だろうに。たったの半年で組織の柱である、四幹部になれたからと言って調子に乗っているのか?応えろ、サリ。」

「まさかぁ。調子に乗って我が身滅ぼすはゴメンなんですよ。」

そうニヤニヤと、サリと呼ばれる女はパソコンを操作し続けている。


「貴様ら、何をしているのだ。ボスがお待ちだぞ、早くしろ。」

そう声をかけたのは、中年で渋い雰囲気を醸し出している男だった。恐らく、この中では1番年上だろう。

3人とも話すのをやめ、ボスの居る部屋へと向かった。


「失礼します。四幹部、ただいま参りました。」

「遅い!私が招集を掛けたのは1時間前だぞ。ここには18:00ピッタリと言っていたはずだ。すでに30分以上オーバーしているが、何をしていた?」

そう苛立った口調で話す。ボスの服装は、赤を基調としたコートを着ており、黒い手袋、皮のブーツ。髪はポニーテールであり、雰囲気は威厳があり女王のように思えてしまう。

「申し訳ありません。他の3人が言い争いをしており遅れてしまい。」

「はぁ?何その私たちが悪いみたいな言い方、あんたも大概でしょ?」

「うるさいぞ、サイギル。それに茨。お前に関しては、紅薔薇琴音の確保に失敗しているんだぞ?どうするつもりだ?」

中年の男はサイギル、姉さんと呼ばれていた女は茨と呼ばれている。

ボスは、鋭い目付きで4人全員を睨む。緊張感が走る。さらに、ヘビに睨まれた蛙のように動けなくなってしまった。


「はぁ…おい、サリ。はどうなっている?」

「は、はい!じ、順調に進んでいます!」

「そうか。はぁ…ならもう良い。もう出て行っていいぞ。」

ため息を付いて、早く出ていくように伝える。

だが、4人とも納得が行かない様子で。


「な、そういう訳には!」

と、サイギルが言い放ったと思うと

「あまり使いたくないのだが…『女王が命じる!今すぐここから立ち去れ!』」

そう言った瞬間、全員黙り込み一礼をして立ち去っていった。

その後、机に3枚の紙を広げる。その紙は紅薔薇、終夜、琴葉のことが記された生徒個票だった。

「…まずは、こいつを処理してからか。はぁ…めんどくさい能力持ちやがって。」

そう言い、琴葉の生徒個票に「処理対象」と記す。

「まぁ、私の能力と比べたら大したことは無いけどなぁ!くく…あはははは!」

部屋の中に、ボスの高笑う声が響き渡る。

彼女の目は、もはや獲物を刈りとる獣のようであった。

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