第772話
俺の様子を見たアイノスが、ニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
『イルシア……まさか、ここまでキミに追い詰められるなんて、本当に思いもしなかったよ。せっかくボクが五百年前、死に損ないのエルディアを生きながらえさせて、竜王の息子なんていう血統書をお膳立てしてやったのに、まさか魔王の証をノラのスライムに持っていかれたときには、びっくりしたもんだけどね』
アイノスが言葉を投げかけてくる。
なんだ……コイツ、今更ペラペラ話しかけてきやがって、何のつもりだ?
『とんだマヌケもいたもんだと思ったけど、フフ、ハハハハ! まさかそれが神聖スキル戦争を制し、ンガイの森を脱し、ボクの〚スピリット・サーヴァント〛を打ち滅ぼし、ラプラスに魅入られて神話級へ成り上がり、ボクの前に立ち塞がり、ボクのイデアへの帰還計画の最大の障壁になるなんてね!』
……余裕振って、想い出トークか?
この決着目前で、何終わったみてぇな空気出してやがる。
俺もジリ貧だがな、ここまで散々神様振っといて、俺如きに追い詰められてんのはテメェも同じだろうが。
『いや、終わったんだよ。ここまで追い詰められるとは考えてなかったし、散々キミ達の奇策に出し抜かれたのは認めよう。いや、見事だった。キミの戦闘センスは対面してみれば想像を遥かに超えるものだったし、ボクの精神汚染を身体の主導権を移して躱すなんて考えもしなかったし、受けきって耐えられたのだって初めてのことだ。サービスで認めてあげるよ。理想郷イデアについても、当たらずとも遠からずって奴だ』
アイノスが竜の首を振り、わざとらしく俺へと述べる。
その後、アイノスの周囲に、一瞬だけ分厚い光の壁が走った。
管理者ご用達、〚大賢者の盾〛だ。
見せびらかすためだけに発動するとは、大した余裕じゃねぇか。
『これまでのキミとの実戦闘で充分に理解した。キミのHP、MPは既に十分の一以下……互いにぶつかっての消耗戦になれば、キミはどう足掻いても、ボクのステータスを削り切る前に死ぬんだよ。ハハ、HPとMPの最大値に差があり過ぎたね』
……この期に及んで、ペラペラと喋りやがる。
ただ、アイノスの言葉は事実でもある。
奴のMPは一万以上残ってる。
アイツが丁寧に戦ってこまめな回復に徹すれば、先にバテるのはこちらの方だ。
『ここでキミの勝ち筋は、大技の連発を当てて一気にHPを削っての奇跡の大逆転! そんなんに当たってやるつもりはないけど……まぁ、万が一ってこともある。でも、終盤の大詰めでここまでMPに開きがあったら、ボクは常時〚大賢者の盾〛を展開して確実に攻撃を防いで戦えば、絶対に大きな隙を晒す心配はない。キミの勝ち筋は完全に途絶えるんだよ』
アイノスが憎たらしい声で笑う。
散々取り乱してやがった癖に、安全圏に逃げ切ったと確信した途端、一気に余裕振りやがって。
しかし、奴の作戦は残念ながら正しい。
〚大賢者の盾〛は消耗が激しいとはいえ、俺と奴のMPの開きが大き過ぎる。
俺を殺し切るまで〚大賢者の盾〛をずっと展開し続けておくことも不可能ではないだろう。
だったら、コイツはどうだって話だ!
俺は〚竜の鏡〛で身体を作り変える。
前脚の指を長くし、その腕を天へと掲げる。
『〚アイディアルウェポン〛!』
俺の手に、一本の大剣が現れた。
【〖神叛のラグナロク〗:価値G(神話級)】
【〖攻撃力:+10000〗】
【その魔剣はただの一振りで世界を終わらせる。】
【神聖スキル持ちへのダメージを大幅に強化する。】
や、やべぇ……!
神話級の魔物になったんだから前より多少は強い剣が出てくるんじゃねえかと思ったけど、これ一本で俺が来るまで史上最強だったバアルさんと同じくらいの威力があるぞ。
しかも特攻スキルも今の状況に持ってこい過ぎるだろ。
いや、そもそも種族説明が『神話に幕を引く多頭竜』だった。
神聖スキル持ち特攻は、テュポーンの特権の方か。
全然新しいスキルが生えなかったときはラプラスがしくじりやがったかと思ったけど、コイツはアイノスメタのドラゴンだったわけか。
ここまで強いなら、端から使っとくべきだったぜ。
『意表を突いたつもりかい? そう来ると思っていたよ』
アイノスが肩を竦める。
『ここでキミが狙っているのは〖闇払う一閃〗によって、〚大賢者の盾〛を無効化してボク本体に大ダメージを入れること。フフ、確かにあのスキルなら、あらゆるダメージを殺す〚大賢者の盾〛も作用せず、薄氷同然と化すだろうよ』
……アイノスの見落としであることを期待していたが、わかってやがったか。
【通常スキル〖闇払う一閃〗】
【剣に聖なる光を込め、敵を斬る。】
【この一閃の前では、あらゆるまやかしは意味をなさない。】
【耐性スキル・特性スキル・通常スキル・特殊状態によるダメージ軽減・無効を無視した大ダメージを与える。】
このスキルなら、アイノスが〚大賢者の盾〛に引き篭もっても、お構いなしにダメージを叩き込める。
『そのスキルは高密度な魔力が質量を伴い、それによって剣そのものが重くなる……つまりは、大振りでとても遅い攻撃になる。他の攻撃をまともに通せない状態で、ボクの隙をどうやって作るつもりなんだい? 万が一通ったとして、ただの一振りじゃボクを倒せない。ボクは一撃受ければ、その刹那、他の魔法スキルを大量展開して、何が何でもその場を逃れる。フフ、か細い道なんてもんじゃないねぇ。キミはさ、完全に詰んでるんだよ』
そう、何をどうフェントとして用いようが、最後は〖闇払う一閃〗で攻撃する必要がある。
あまりに遅く、動作が大き過ぎる。
ステータスで満遍なく俺を上回るアイノスに対して、そのデメリットはあまりに致命的だ。
『くっ、ふふ、アハハハハハ! どんな気分だい。ねぇ、ねぇ! ようやく、キミの最大の怨敵であり、かつこれまで圧倒的に雲の上の存在……文字通り神そのものだったボクに手が届きそうになって、最後の最後で、それが断たれた気分はさ! ハハハハハ!』
『確かに絶望的だな。実際、何の策も思いつかねえよ』
俺は〚念話〛を発しながら、〖神叛のラグナロク〗の先をアイノスへと向ける。
『でもよ、その程度の絶望、俺は今まで何回も乗り越えてきたんだよ! 他人の苦労を天上から見下して嘲笑ってた、テメェには想像もつかねぇ程の数をな!』
俺は叫びながら、アイノスへと突撃した。
MPが全然足りなくて詰んでる?
今更だからなんだっつうんだ。
馬鹿みてぇなコードで嬲られてるときのが百倍絶望的だったつうの!
『テメェのくだらねぇ支配を、俺が終わらせてやるよアイノス!』
俺が折れずに向かってきた様を見て、アイノスが苛立ったように笑みを消す。
『無策、無謀! バカが! 順当に殺してあげるよ!』
〚念話〛は言葉じゃなくて、思念のやり取りだ。
だから、相手の感情や思考の一部も流れ込んでくる。
俺とアイノスは、互いに確信していた。
決着は、すぐそこだと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます