第743話 side:トレント
私は魔獣王と対峙する。
今の私には、魔獣王の情報さえも瞬時に頭に入ってきていた。
【〖ベヒモス〗:ランクL+(伝説級上位)】
【巨大な獣。】
【かつて戦争の果てに文明が後退して世界が飢饉に見舞われた際、ベヒモスはある少女のためにその身を最後の国へと捧げて食糧とした。】
【ベヒモスの血肉は百年に渡って人類の食糧となり、彼らを滅亡の危機から救ったという】
【そのあまりの大きさより伝承を信じられなかった後の時代の者達は、ベヒモスを大地、或いは大地の恵みを神格化したものだと捉えた。】
魔獣王……どうやら正確にはその種族はベヒモスというようであった。
とんでもない逸話であるが、目前のベヒモスは確かにそれだけの重量を誇っているように見えた。
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〖世界喰らい〗
種族:ベヒモス
状態:スピリット、死神の種、暴獣万化
Lv :150/170(Lock)
HP :11494/22811
MP :9248/22811
攻撃力:12317(13686)
防御力:10037
魔法力:6387
素早さ:1631(1255)
ランク:L+(伝説級上位)
神聖スキル:
〖畜生道|(レプリカ):Lv--〗〖人間道|(レプリカ):Lv--〗
〖修羅道|(レプリカ):Lv--〗〖餓鬼道|(レプリカ):Lv--〗
〖地獄道|(レプリカ):Lv--〗
特性スキル:
〖HP自動回復:LvMAX〗〖MP自動回復:LvMAX〗
〖巨獣の剛皮:LvMAX〗〖グリシャ言語:Lv2〗
耐性スキル:
〖物理耐性:LvMAX〗〖魔法耐性:LvMAX〗〖土属性耐性:LVMAX〗
〖火属性耐性:LVMAX〗〖水属性耐性:LVMAX〗〖毒耐性:LvMAX〗
〖麻痺耐性:LvMAX〗〖混乱耐性:LvMAX〗〖石化耐性:LvMAX〗
〖即死耐性:LvMAX〗〖呪い耐性:LvMAX〗〖幻影耐性:LvMAX〗
通常スキル:
〖クレイ:LvMAX〗〖念話:LvMAX〗〖自己再生:LvMAX〗
〖灼熱の息:LvMAX〗〖爪撃波:LvMAX〗
〖巨獣の爪:LvMAX〗〖巨獣の牙:LvMAX〗〖暴獣万化:Lv--〗
〖インハーラ:LvMAX〗〖フレアレイ:LvMAX〗〖森羅転生:LvMAX〗
称号スキル:
〖最終進化者:Lv--〗〖元魔獣王:Lv--〗〖元勇者:Lv--〗
〖巨大獣:LvMAX〗〖大地を支える者:Lv--〗〖従霊獣:Lv--〗
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伝説級上位というだけはあり、ベヒモスは今の私よりも遥かに高いステータスを誇っているようであった。
だが、勝ち目がないわけではないはずである。
ベヒモスはこれまでの〖死神の種〗と〖暴獣万化〗によって、随分と消耗しているようであった。
速度が跳ね上がり、攻撃力がやや落ちているのは、どうやら〖暴獣万化〗によって速度に特化した身体へと作り替えたが故のことのようであった。
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種族:セフィロトの樹竜
状態:崩神
Lv :74/155
HP :8958/10347
MP :672/2801
攻撃力:984
防御力:3811
魔法力:2246
素早さ:954
ランク:L(伝説級)
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ステータスでいえば、今こうして対峙しても、雲泥の差であった。
全てのステータスにおいて、私がひと回りどころか二回り以上の差を付けられて完敗している。
自慢のHPと防御力でさえも倍以上離れていた。
ただ、ベヒモスはステータス面では恵まれている代わりに、こうして見ればスキル自体にそこまで変わったものはないように思えた。
〖森羅転生〗も〖命の天秤〗を持つ私の前では意味をなさない。
『〖不死再生〗ですぞ!』
私の身体の、青い輝きが一層と増した。
【通常スキル〖不死再生〗】
【自身の生命力を爆発的に上昇させる。】
【使用すれば全身に青く輝く苔が生まれ、MPが全体の1%以下になるまで強制的にHPを回復させ続ける。】
【使用中は防御力が大きく上がるが、他のステータスは半減する。】
今の私のHPとMPでも、ベヒモスの攻撃をまともに受ければ簡単にそのまま殺されてしまう。
〖不死再生〗さえ張っていれば、MPが続く限りは耐えられる。
そして私には〖命の天秤〗があるため、対峙しているだけでベヒモスからMPを奪い続けることができる。
無論、〖命の天秤〗のMP回復量よりも〖不死再生〗のMP消耗量の方が激しそうなので、ずっと持たせることはできないだろうが、それでも充分効果の持続時間を引き延ばすことはできるはずである。
『マタアノ回復……長引カサレテ、コレ以上ノ魔力ヲ失ウ訳ニハイカンガ……無暗ニ近ヅクノモ危険カ。ダガ、コノ間合イデアレバ〖爪撃波〗ガ使エル!』
ベヒモスが四つ腕を構えて、素早く宙を引き裂いた。
無数の爪撃が実体を持って私へと飛来してくる。
『〖楽園創造〗』
地面から太い茎や蔦、花の絡まった巨大な植物の群れが急速に伸びて、ベヒモスの〖爪撃波〗を受け止めた。
【通常スキル〖楽園創造〗】
【自身のHPを分け与え、頑強な植物を自在に生やすことができる。】
〖楽園創造〗……HPを対価に、自在に植物を展開することのできるスキルである。
防壁を自在に生み出せるのも強いが、使い方次第では攻撃や敵の拘束にも一役買ってくれそうであった。
加えてどうやらこのスキルは〖命の天秤〗と相性がいいようであった。
【特性スキル〖命の天秤〗】
【周囲の者から生命力と魔力を吸い上げ、自身の糧とする。】
【対象は自身の意思で制御することができる。】
【〖命の天秤〗の威力は、自身の最大HPと現存HPの差に依存する。】
〖楽園創造〗はHPを対価にするため、自身の現存HPを自在に調整することができる。
〖楽園創造〗でHPを適度に吐き出しておけば、〖命の天秤〗の威力を安定的に高めることができるのだ。
ベヒモス相手に私から仕掛ける術が少ない分、恒常発動の〖命の天秤〗の威力を制御できるのは大きい。
『強力ナ技ダガ……植物ノ伸ビル速度ハ、サシテ速クハナイ。我ガ連撃ヲ防ギ切レルカ!』
ベヒモスは私へと距離を詰めながら〖爪撃波〗を放ってくる。
私はベヒモスとの距離を一定に保つように逃げ回りながら、〖楽園創造〗の植物を上手く盾にして〖爪撃波〗を凌いでいった。
植物の防壁で殺し切れなかった衝撃を受けたり、身体に掠めたりはするが、こちらには〖不死再生〗があるため、致命打でさえなければどうとでもリカバリーが利く。
『何故ダ……速サハ我ノ方ガ圧倒的ナハズ……。我ガ、技量デ後レヲ取ッテイルトイウノカ……?』
ベヒモスが私を睨みつける。
確かに動きはベヒモスの方が遥かに速い。
そして私の〖楽園創造〗のスキルの発動よりも、ベヒモスの〖爪撃波〗の方が遥かに速い。
技量であっても、古の争いを勝ち抜いた魔獣王ベヒモスに対して、私が勝っているわけもなかった。
【特性スキル〖因果率の魔眼〗】
【目に魔力を集中することで、数秒先の未来を見ることができる。】
スキル……〖因果率の魔眼〗のお陰である。
私はベヒモスが構えるより一瞬早く、〖爪撃波〗が被弾するであろう先の座標が既に見えているのである。
放たれる瞬間には、既に〖楽園創造〗での防壁の展開を始めている。
ただ、〖因果率の魔眼〗の魔力消耗は、その恩恵相応に激しいものであった。
ただでさえ〖不死再生〗と併用している状態である。
何度も使っていれば、こちらのMPが空になってしまう。
〖命の天秤〗でMPの回復もできているが、MPには回復制限がある。
既にMPの回復量が大幅に減少してきているのを私は感じていた。
〖崩神〗のHPとMPの最大値を減少するデメリットは、セフィロトの樹竜のステータスに対しては控え目であるため、ひとまずこの戦いに対して大きな弱点として機能することはなさそうではあったが、MPの回復制限が大きなネックになっている。
私がベヒモスを圧倒しているようでいて、実際には消耗具合で比較すれば、私の方が厳しいはずである。
現状が続けば、先に力尽きるのは私の方だろう。
しかし、今はこれでいいのだ。
ベヒモスは大分焦っている。
私相手に過度にMPを消耗して、いずれ来る主殿との戦いの大きな負債となることを恐れているようであった。
ベヒモスからしてみれば、私に勝ってもMPの大半を吐き出すことになってしまえば意味がないのだ。
加えてベヒモスには、主殿のようなステータスを確認する力はないようであった。
互いのHPとMPを管理しつつ戦略を立てられるのは、この戦いでは私の特権なのだ。
ベヒモスからしてみれば、耐久戦になった段階でどちらが生き残るのは、蓋を開けてみるまでわからない。
ベヒモスが焦れて、このままでは勝てないかもしれないと考えれば、行動パターンを変えてくるはずである。
そここそが私の狙いであった。
ベヒモスは地面を蹴って大きく跳び上がり、頭上から私へと襲い掛かって来た。
ベヒモスが空中から飛ばしてくる〖爪撃波〗を、私は〖楽園創造〗の植物の防壁で防ぐ。
『遠距離攻撃ハ捌カレル事ガワカッタ! ダガ、直接攻撃ハ防ゲマイ!』
ベヒモスが握り拳を構える。
〖因果律の魔眼〗でベヒモスの動きは見える。
だが、この近距離では、避けたところで軌道修正されるだけである。
この速度の差を覆すことはできない。
〖楽園創造〗で植物を伸ばすが、防壁としてはとても機能しそうになかった。
ベヒモスの大振りの拳が、私の頭部へと放たれた。
全身に大きな衝撃が走った。
意識が持っていかれるかと思ったが、歯を喰いしばって耐えた。
続けて腕を振りかぶったベヒモスの四つ腕を、〖楽園創造〗の植物が素早く拘束した。
ベヒモスの方が遥かに速い。
速いが、私はベヒモスが私を殴った後、どういった体勢を取るのかが、〖因果律の魔眼〗で見えていた。
『コノ植物ノ動キ……最初カラ守リデハナク、我ノ拘束ガ狙イカ! ソウカ貴様……我ノ動キヲ、先読ミシテイタノカ!』
さすがは神聖スキル持ちの争いを勝ち残った魔獣王である。
私のスキルを経験から見抜いたようであった。
明らかに防御に特化した私の能力を見て、安易に近づかずに〖爪撃波〗で攻めようとしていたのも、その際に培った勘だったのだろう。
しかし、防壁を展開しながら逃げ回る私に焦れたベヒモスは、このままでは勝てないと踏んで戦い方を切り替えて、接近戦を挑んできた。
『ダガコノ程度ノ拘束、スグニデモ……』
『あなたが攻撃してきたとき……私の〖因果律の魔眼〗には、既にあなたが倒れている姿が見えていましたぞ』
『何ヲ……!』
私は前脚をベヒモスへと向けた。
『〖アーカシャカウンター〗!』
前脚の先から、虹色の衝撃波が放たれる。
四つの腕を植物に拘束されていたベヒモスは、その衝撃波を無防備に全身で受け止めることになった。
「オオオオオオオオオッ!」
ベヒモスが虹色の衝撃波を受け止めて、全身から血を噴き出した。
衝撃のままに四つ腕を拘束している植物が引き千切れる。
山の巨体が軽々と吹き飛んでいく。
【通常スキル〖アーカシャカウンター〗】
【自身が受けた衝撃に等しい威力を持った衝撃波を発する。】
【衝撃波は物理的な障壁や外皮を貫通するため、相手の防御能力を貫通する。】
【この衝撃波は元の攻撃を行った相手にしか作用しない。】
【また、〖アーカシャカウンター〗を行使するためには、攻撃を受けるより一瞬早くに魔力を全身に行き渡らせる必要がある。】
セフィロトの樹竜のスキルである。
同じくカウンタースキルである〖ウッドカウンター〗に比べて、衝撃波であるため防いだり避けたりすることが難しい他、防御力の高い相手にも通りやすいため威力が高い。
特に桁外れな防御力を誇るベヒモスに対して効果的なスキルであった。
発動前に魔力を全身に漲らせる必要があり、タイミングが難しく、失敗すれば〖アーカシャカウンター〗に用いたMPを無駄にすることになる。
もっとも、セフィロトの樹竜には〖因果律の魔眼〗があるため、相手の攻撃タイミングを読み切ってスキルを発動することは難しくない。
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