第696話
ヨルネスの〖グラビディメンション〗が来やがった……!
さっきみたいに拘束からのアポカリプスの攻撃力をコピーした連打が飛んで来やがったら、とてもじゃないが俺のMPが持たない。
仮に生き延びても、MPがなければ物理完全反射のアバドン状態のヨルネスを絶対に倒せなくなる。
ここで対処を誤ったら終わりだ。
だが、同時に、ここはチャンスでもあった。
ヨルネスとてMPはもうほぼ底を尽きかけている。
ここさえ凌げば、もう〖グラビディメンション〗は撃てなくなる上に、消耗の激しい〖天使の鏡〗の維持もできなくなる。
完全にこの〖グラビディメンション〗に対処できるかどうかが勝敗を分ける。
〖ワームホール〗は間に合わねえ。
座標を指定してゲートを作るのに時間が掛かり過ぎる。
元よりヨルネスに追われている一ヵ所に留まれない状態でゲートを準備するのは無理だった。
〖竜の鏡〗で小さくなったり大きくなったりしても、あの空間の歪みから逃れるのは不可能だ。
一度受けたからこそ断言できる。
存在を消してやり過ごすことはできるが、あのスキルを長時間持続させるととんでもない消耗を強いられる。
MPを削られまくった今そんな手段を取れば、この後もジリ貧になっちまうだろう。
とはいえ〖グラビディメンション〗からの連撃を受けるよりは遥かにマシなので、他に手がなければそうするしかないのだが……。
〖グラビティ〗を使って急降下しても、とてもじゃないが〖グラビディメンション〗の範囲から逃れられそうにねぇ。
〖アイディアルウェポン〗は対応力が高いが、さすがにこの状況を打破してくれるような装備はない。
避けられないなら〖グラビディメンション〗で拘束されてから、突っ込んでくるヨルネスを返り討ちにする?
無理だ。
体勢的にどう足掻いても圧倒的に不利になる上に、状態異常のマイナス分身体能力で後れを取り、挙げ句の果てにあの石の身体の打たれ強さまである。
魔法スキルで返り討ちにするにも〖レジスト〗と〖ミラーカウンター〗がある。
拘束されてから悪足搔きで放っても確実に対応される。
〖竜の鏡〗でやり過ごすしかねぇか……?
ふと、そのとき……天啓が降りてきた。
いける……この状況、この瞬間に限り、ヨルネスの思惑を崩して大ダメージを与える方法がある。
俺が先に力尽きねぇか、ヨルネスを倒せるかどうかは半々ってところだが、ここまで追い込まれた状態でそれだけ勝算が取れるなら上出来だ。
「グゥォオオオッ!」
俺は〖グラビティ〗を発動して急降下しつつ、捕らえられにくいように側転して軌道をズラし、変則的な動きで回避を試みた。
だが、前回より〖グラビディメンション〗の規模が大きい。
逃れられず、巨大な空間の歪みが俺を捕まえた。
……恐らく〖魔法規模拡大〗に用いるMPを増やして出力を上げていやがる。
全く同じスキルを連打しても対処されると考え、変化の余地を残しているんだな。
相手に安易に自分のスキルに慣れさせない、上手い使い方だ。
だが、こんなので逃げられるなんて元より期待はしていなかった。
問題はここからだ。
〖グラビディメンション〗の拘束の維持はかなりのMPを消耗する。
そのためヨルネスは無防備に俺へと、最短経路で突っ込んでこざるを得ない。
特にヨルネスは、ここの攻撃を失敗すればもう後がないのだ。
多少不審な点があっても、立ち止まらずに近接攻撃を仕掛けざるを得ない。
さっきと今は、同じようで状況が大きく違う。
ヨルネスにMP的余裕が少ないため、〖詠唱返し〗を警戒する必要がないのだ。
特に消耗の激しい大技こそコピーされちまっても構わない。
飛び込んで来い、ヨルネス。
俺は黒い魔法陣を展開する。
ヨルネスが俺の魔法陣に反応する。
〖レジスト〗か〖ミラーカウンター〗、こちらの出方を見てどちらを発動するか考えているようだ。
俺はギリギリまでヨルネスを引き付ける。
まだだ……ヨルネスが俺への攻撃のため、爪を振り上げるその瞬間まで溜める。
タイミングが重要だ。
刹那の狂いが、勝敗を決する。
〖レジスト〗と〖ミラーカウンター〗。
無効か反射、ほぼ同じようで使用用途が少し異なる。
俺が見るに、〖レジスト〗の利点は発動の速さだ。
迫って来る魔法を近距離で咄嗟に打ち消すことができる。
ただ、あまり規模の大きい魔法を消しきれるようには見えない。
たとえばミーアの〖エクリプス〗のようなスキルは、消しても消してもそれが追い付くとはとても思えない。
対して〖ミラーカウンター〗の利点は即効性に若干欠ける分数秒程度前以て発動できる点と、指向性を持ったスキルにめっぽう強い点だ。
〖レジスト〗と違い、大規模なスキルにも対応しているといえる。
全体を打ち消さなくても自分の身体だけ守ればいい。
だが、〖レジスト〗と〖ミラーカウンター〗による魔法対策には弱点がある。
規模が大きく、指向性を持たないスキルに対して効果が薄い点だ。
『〖ヘルゲート〗ォ!』
黒い魔法陣が広がり、俺を中心に周囲一帯が黒炎に包まれる。
突然展開された地獄の業火が、俺とヨルネスを同時に包み込む。
【通常スキル〖ヘルゲート〗】
【空間魔法の一種。今は亡き魔界の一部を呼び出し、悪魔の業火で敵を焼き払う。】
【悪魔の業火は術者には届かない。】
【最大規模はスキルLvに大きく依存する。】
【威力は高いが、相応の対価を要する。】
この規模の魔法であれば、俺が動けなくても関係ない。
使用者に炎のダメージは通らないため、自分ごと巻き込んで扱えるのが幸いした。
〖ヘルゲート〗は発動が遅い上にHPとMP双方を消耗するためコストとリスクの高すぎるスキルではあるが、ヨルネスの方が突っ込んでこざるを得ない状態であれば強烈なカウンターとして機能する。
指向性を持たず、その空間丸ごとを攻撃対象とする〖ヘルゲート〗を前に、一方向からの魔法攻撃を遮る〖ミラーカウンター〗は無意味だ。
〖レジスト〗を使って目前の黒炎を消したところで、別の方面から黒炎が襲い来る。
「グゥッ……!」
ヨルネスは身を引こうとしたが、既に俺に対して爪を振るっている。
もう止まれない。
俺は減速した爪の一撃を敢えて胸部で受け止め、すかさずその前脚へと爪と牙を立てた。
『捕まえたぞ……!』
黒い炎が、巨大な骸の巨人の群れを象り、ヨルネスを囲んでいく。
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