第686話
俺は僅かな間ミリアと目を合わせていたが、すぐに顔を逸らした。
そりゃ、会って話をしたいことは山ほどあった。
だが、今の俺はリリクシーラを殺した邪竜で、世界を終わらせると預言されている黙示録の竜だ。
安易に人間相手に関わるべきじゃあねぇ。
それに……第一、今は呑気に昔話に花を咲かせていられるような状況でもない。
都市の中心にある巨像の上に、異様な気配があることに気がついていた。
俺は顔を上げ、巨像の砕けた頭部の……その上に浮かぶ、女へと目を向けた。
厚手の法衣に身を包む、水色髪の美女。
背からは、白く輝く翼が伸びている。
彼女は無機質な冷たい目で俺の方を見ていた。
『主殿、あの方……!』
『ああ、見覚えがある』
あのときは顔が見えなかったが、格好と……そして、彼女の放つオーラでわかる。
神の声の〖スピリット・サーヴァント〗の一体だ。
そして俺は、彼女の名前を知っている。
『私は知略と戦闘の才に長ける。この世界に流れた夥しい年月の中でも名が霞まぬ程の傑物であると自覚している。いずれ私は人格を奪われ、神の声の人形にされることだろう。これを読んだ未来の英雄が私を打ち倒し、この世界を解放してくれることを祈っている』
先の地下聖堂の啓示石にて、トレントの読み上げた言葉だ。
『聖女ヨルネス、テメェを解放しに来たぞ!』
俺の言葉に応じるように、ヨルネスの無機質な顔の口許が、仄かに笑みを湛えた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
〖ヨルネス・リーアルム〗
種族:アバドン
状態:スピリット、人化:LvMAX
Lv :150/150(MAX)
HP :4901/9802
MP :6253/6253
攻撃力:627(1255)
防御力:2673(5347)
魔法力:4704
素早さ:1331(665)
ランク:L(伝説級)
神聖スキル:
〖餓鬼道|(レプリカ):Lv--〗〖修羅道|(レプリカ):Lv--〗
〖人間道|(レプリカ):Lv--〗〖畜生道|(レプリカ):Lv--〗
特性スキル:
〖グリシャ言語:LvMAX〗〖HP自動回復:LvMAX〗〖MP自動回復:LvMAX〗
〖浮遊:LvMAX〗〖光属性:Lv--〗〖天使の鏡:Lv--〗
〖魔術師の才:LvMAX〗〖超再生:LvMAX〗〖女神の盾:LvMAX〗
〖因果の鏡:Lv--〗〖鈍重な身体:Lv--〗〖魔法規模拡大:LvMAX〗
耐性スキル:
〖物理耐性:LvMAX〗〖魔法耐性:LvMAX〗
〖状態異常耐性:LvMAX〗〖七属性耐性:LvMAX〗
通常スキル:
〖ハイレスト:LvMAX〗〖ホーリースフィア:LvMAX〗〖ホーリーウィング:LvMAX〗
〖人化の術:LvMAX〗〖自己再生:LvMAX〗〖不滅の儀式:LvMAX〗
〖デス:LvMAX〗〖念話:LvMAX〗〖
〖ルイン:LvMAX〗〖悪神の霊雨:LvMAX〗〖ワームホール:LvMAX〗
〖グラビティ:LvMAX〗〖グラビドン:LvMAX〗〖グラビディメンション:LvMAX〗
〖レジスト:LvMAX〗〖ミラーカウンター:LvMAX〗〖詠唱返し:LvMAX〗
〖ドッペルペイン:LvMAX〗〖エンパス:LvMAX〗〖バプテスマ:LvMAX〗
〖因果車:LvMAX〗〖サンクチュアリ:LvMAX〗〖ニルヴァーナ:LvMAX〗
称号スキル:
〖最終進化者:Lv--〗〖元聖女:Lv--〗〖元魔王:Lv--〗
〖大天使:LvMAX〗〖岩塊の天使:Lv--〗〖従霊獣:Lv--〗
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
ステータスを確認する。
やはり本人の推測通り、ヨルネスは歴代最強の聖女として神の声に〖スピリット・サーヴァント〗にされていたようだ。
偏ったステータスに、不気味なスキルと不穏な点は多いが……。
『伝説級……! 伝説級上位じゃねぇ!』
アポカリプスよりもランクが一つ下だ。
神の声の〖スピリット・サーヴァント〗は全員伝説級上位だと踏んでいたのだが、どうやらそういうわけではなかったらしい。
最強格の一体であるヨルネスが伝説級ということは、伝説級上位は歴代でも相当珍しいのだろう。
神の声も五つ以上の神聖スキルを受け入れられる魔物を生み出すのはかなり難航しているのかもしれない。
代ごとに調整が進んでいるようなことも仄めかしていたので、ミーアに続いて俺も〖地獄道〗の獲得にまで至ったのは、そうした進歩の表われでもあるのかもしれない。
ヨルネスは他のステータスはなかなかだが、やはり上位ではなくただの伝説級というだけあって、攻撃力と素早さが致命的に低い。
接近戦に持ち込めば一方的に攻撃できる。
これなら即行で叩き潰せるかもしれねぇ。
『ってほど……甘いわけはねぇよな』
ヨルネスの身体がガクガクと震えたかと思えば、体表が薄い青色へと変化し、その身体が膨張していく。
岩肌染みた、堅そうな質感だった。
ンガイの森で散々桁外れな化け物を見てきたんだ。
今更何が出てきても驚かねぇつもりだったが……その姿を見たとき、さすがに俺は度肝を抜かれた。
『んだよ……これ』
ヨルネスの姿は、青白い巨大な石像へと変化した。
いや、石像のような魔物は何体か目にしたことがある。
だが、その姿形があまりにも奇妙で出鱈目なのだ。
巨大な人頭と、大きな鏡がくっ付いている不気味な石像。
そうとしかいいようがなかった。
鏡のレリーフは複数の悪魔が絡み合うようなデザインがなされており、人頭からは大きな石の翼が一枚だけ伸びている。
そして背には、巨大な車輪を背負っていた。
姿を見ただけでわかる。
ランク下だからといって、コイツが戦いやすい相手なわけがねぇ。
【〖アバドン〗:L(伝説)ランクモンスター】
【聖神教において奈落の王、或いは奈落そのものとされる大天使。】
【因果を司り、人の業を裁く。】
【自身へのあらゆる攻撃を跳ね返すため、死という概念を持たない。】
……自身への、あらゆる攻撃を跳ね返す。
初めて見るスキルが並んでいるが……どうにもアバドンの最大の強みは、特性スキルの〖因果の鏡〗のようであった。
【特性スキル〖因果の鏡〗】
【あらゆる物理ダメージを攻撃してきた相手へと返す。】
【〖因果の鏡〗によるダメージは回避することができない。】
さらっといっているが、とんでもねぇ効果だ。
完全物理耐性である。
魔法攻撃に対しても強力なスキルを有している。
魔法スキルを打ち消す〖レジスト〗に、魔力の込められた攻撃を跳ね返す防壁を展開する〖ミラーカウンター〗、そして目にした魔法スキルをコピーする〖詠唱返し〗。
魔法対策もかなり厄介ではあるが、〖因果の鏡〗の方が隙がない。
まずは魔法攻撃で攻めてみるしかねぇだろう。
防御面だけでなく、攻撃面においても危険なスキルがぞろりと揃っている。
アバドンは伝説級だったので神の声にとっても伝説級上位を生み出すのが難しかったのだろうと推測したが、どうやら理由はそれだけじゃねぇかもしれねぇ。
少なくともアバドンは、素のステータスに頼らなくても戦える危険なスキルをいくつも有している。
『な、何やら変わった魔物ですが、怖くはありませんぞ! 主殿、いつも通り奴の攻撃は私が引き受けて……!』
『アロとトレントは、他の人間の救助と、あの歪な姿の魔物の討伐に向かってくれ』
確かに、既に周囲はヨルネスが散々荒らし尽くした後だ。
だが、神の声の目的はあくまで俺に脅しを掛けて急かすことだ。
俺が戻ってくるまでに各地の人間を全滅に追い込むようなことをする気はなかったはずだと考えられる。
実際、ヨルネスの力なら、こんな都市一つ半日で滅ぼせただろう。
手加減をしながら甚振っていたのだ。
しかし、交戦が始まればその手心も消える。
ヨルネスは都市へのお構いなしに攻撃を放ってくるはずだ。
『それに……多分、ヨルネスを相手取るのに、数は意味をなさねぇ。スキルの相性が悪すぎる』
薄っすらと概要を覗いただけだが、ヨルネスの保有スキルはどれも異様すぎる。
アロやトレントでは、目を付けられた瞬間に即死させられかねない。
実物を見なければ何ともいえないが、まともに戦いにさえならない可能性がある。
『あそこの子……ミリア達を連れて、情報を集めてくれ。きっとまだこの都市の生き残りがいるはずだ。アロは一応面識があるから、きっと信じてもらえるはずだ』
「……わかりました、竜神さま」
アロは思うところがあるようだったが、了承してくれた。
背中から黒い翼を伸ばすと、トレントを抱えてミリア達の許へと飛んでいく。
俺も今立っている聖堂の屋根を蹴り、ヨルネスの許へと飛んだ。
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