第664話
ひとまず、トレントとアロズのお陰で進化先の候補を絞ることができた。
トレントが推していたピュートーンは、残念ながら速度が遅いのが怖いので候補としては一つ落ちる。
頑丈でパワ―がある点は評価できるが、俺の経験上、やはり速度がないとその強みも活かしきれない。
速度のない魔物は、格上相手より、格下相手に安定的に勝つ能力に長けている印象がある。
大規模スキルも魅力的ではあるが、他の進化先を選んだ際の利点と比較すると今一つ劣る。
そしてアロ三号の推していたアジ・ダハーカも、強みと弱みはあるが、他の候補先を差し置いて敢えて選ぶ理由は薄そうな印象だ。
俺もあまり多頭竜は能動的に選ぶ気にはなれない。
変わったスキルに期待したいという点では、他の進化先であるクロノスに大きく劣る。
残ったのは、回復能力に長けたヌン、近接戦に長けたアポカリプス、凶悪なスキルを有するが低ランク、低ステータスであるクロノス。
この三つが有力候補だといえる。
ただ、回復能力はウロボロスのスキルがそのまま残っているので、再び回復型のヌンへ進化するメリットは実は薄いのだ。
別に〖ハイレスト〗、〖自己再生〗、〖ワイドレスト〗に〖リグネ〗、そして自動回復スキルがあるので、充分回復スキルは揃っているといえる。
実際、今でもこの辺りのスキルは多用している。
伝説級上位の回復型なので、これらのスキルよりも強い回復特化のスキルも新しく得られることだとは思うが、最低限揃っているというのは、充分後回しにする理由がある。
今一つ信用できねぇが〖胡蝶の夢〗が発動すれば無条件完全回復もできる。
充分回復能力は揃っている。そう考えても悪くはねぇだろう。
『そう考えると、アポカリプスかクロノスなんだよな……』
クロノスの時間操作スキルを取りに行くか、アポカリプスの高ステータスを重視するか。
「クロノス……クロノスにしましょう! 竜神さま! きっと神の声の意表を突けるスキルがあるはずです!」
クロノス派のアロが、必死に俺へと訴える。
「竜神さま、冷静に考えてください。スキル一つで覆る戦況は確かにありますが、そういう場面では、最初からもう少しステータスがあれば安定して勝てる状況です。ステータスが全く追い付いていない相手には、奇策だって通しようがないことだってあります」
アポカリプス派のアロが、どこか俺を責めるような口調で、理路整然とそう捲し立てる。
『……俺は、アポカリプスにしようと思う』
アポカリプス派のアロの意見がもっともなものだった、というのもある。
それに加えて、アポカリプスがフィジカルに秀でている可能性が高いのであれば、安定した攻撃性能は勿論、体力面にも期待ができるためだ。
ヌンのような新しい回復スキルは得られないが、ウロボロスの回復スキルにアポカリプスのフィジカル面のステータスがあれば、充分なタフさが得られるだろうと、俺はそう考えている。
やはり速さとダメージソース、そして持久力は欠かせない。
攻撃スキルもオネイロスのお陰で便利なものが揃っている。
アポカリプスで得られる新スキルもあるだろうし、そちらよりもステータス面を優先するべきではないかと考えたのだ。
ミーアのタナトスのような、精神面の悪影響があるのではないかという点もやや不安が残るのだが、アポカリプスにタナトスのような精神面の悪影響を仄めかす文言はない。
それにミーアがタナトスに進化した際に精神面の悪影響を受けたのは神の声への憎悪に付け込まれる形になったからだと本人も口にしていたし、最大の元凶は狂神であった。
これを理由にアポカリプスを避けるなら、他の進化先も怪しくなってくる。
この一点に囚われすぎるべきではないと判断した。
クロノス派のアロが、がっくりと肩を落とした。
「う、うう……」
アポカリプス派のアロは腕を組んで、クロノス派のアロへと得意げな顔を向けていた。
正直、さっきアポカリプス派のアロに言われた『第一、竜神さま、別にオネイロスのスキル自体、単純なのしか使ってない』が効いていた。
だ、だが、幻影スキルには耐性のある奴が多すぎるし、〖ヘルゲート〗は反動がデカい上に発動も遅いから、使える場面が限られちまうのは仕方ねえと思うんだけどな……。
〖ワームホール〗さんに至っては、発動が遅すぎる上に移動先の座標がバレちまうから、使い道らしい使い道が本当にわからねぇ。
いや、確かにオリジンマターは活用してたが、あれはオリジンマター本体がほとんど動かなくて、長射程で高威力かつ連発できる〖ダークレイ〗を持っていたからこそできた戦法だ。
俺が真似をするには、〖ワームホール〗の発動を待つのと、その後の自身の移動を制限するのが痛すぎる。
だ、だから、仕方ねえかなとも思うんだが……。
アポカリプス派のアロが、俺の思考を見抜いているかのように、ジトっとした目で俺のことを見つめていた。
『うぐっ……!』
ね、〖念話〗は持ってねぇはずなんだがな……。
すぐにアポカリプス派のアロの背へと、クロノス派のアロが抱き着いた。
「ごめんなさい竜神さま、この子、すぐに仕舞いますから……!」
「ちょ、ちょっと! あの、私、まだあなたと竜神さまに言いたいことが……!」
アポカリプス派のアロの輪郭が崩れて黒い光となり、クロノス派のアロの身体へと入り込んでいく。
こうしてアロが元の一人へと戻った。
『アロ……その、言いたいことがあるのなら、普段から我慢しなくていいんだぜ?』
「違います! 違います! あんな子、私じゃありません!」
アロがぶんぶんと首を左右へ振った。
アロは嫌がってるみたいだが、あの子の意見は普通に参考になるから、俺としてはまた出してほしいんだがな……。
俺は目を閉じる。
次の進化はアポカリプスだ。
必要に迫られるまで取っておく……という考え方もあるのだが、ここンガイの森で最低限のレベル上げを行ってから地上へ向かいたい。
そう考えると、さっさとここで進化を済ませておくべきだろう。
【〖アポカリプス:ランクL+(伝説級上位)〗】
【聖神教の預言書の最後の一行にて、世界の終わりに現れるとされているドラゴン。】
【赤黒い大いなる災禍が、一夜の間に世界を飛び回り、地獄の炎で地上の全てを焼き払うだろう、と。】
【だが、真に恐ろしいのはその牙と爪である。】
進化を決意した途端、身体中に熱が走った。
自身の体表が硬くなり、全身が縮小していく。
圧迫されるに従い、体内の温度が高まっていく。
血が、肉が、骨が、ドロドロに溶かされていく。
だが、不思議と痛みや不快感はない。
その後、一気に身体が膨張するのを感じた。
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