第662話

 ピュートーン……ヌン……アジ・ダハーカ……アポカリプス……クロノス……。

 ここに来て、五つも進化先が出てきやがった。


 何を選ぶのかが重要過ぎる。

 選択肢は少ない方が、こっちの精神的には楽なんだが……。


 最優先は、神の声を殺し切れる奴だ。

 強ければ強い方がいい。

 ただ、神の声に何か弱点らしい弱点があるとはとても思えない。


 聖女の限定スキルであるはずの〖スピリット・サーヴァント〗さえ、本来の制約を完全に無視した行使が可能なのだ。

 二体までの制限を破って四体同時に操っている。

 アレを使って世界を滅茶苦茶にすると豪語していた以上、恐らくリリクシーラにはあった、〖スピリット・サーヴァント〗の移動制限もなくなっているはずだと仮定できる。


 どんなスキルを使えたっておかしくはねぇ。

 そう仮定しておくべきだ。

 だとすると、相手のスキル次第では無効化されかねないスキル構成は避けるべきだ。


 とはいえ、まずは実物を見てみねぇと何ともいえねぇが……。


【〖ピュートーン:ランクL+(伝説級上位)〗】

【大地の化身と称されるドラゴン。】

【ピュートーンのスキルによってこの世界の地は創られたとされている。】

【怒りによって地割れを引き起こし、国一つを奈落の底に落としたと言い伝えられている。】

【泥から魔物の軍勢を生み出したり、自身の分身体を造り出したりすることができる。】

【凶悪なステータスとスキルを誇るが、速度に欠ける。】


 伝説級上位……か。

 ピュートーンは地面に関するスキルが中心で、機動力に欠ける代わりに範囲攻撃のパワーで敵を押し潰すタイプらしい。


 逸話は正直判断材料にする必要がねぇ。

 これまでの経験から言ってもそれは間違いない。

 重要なのは、範囲攻撃に分身と、汎用性の高いスキルに恵まれている可能性が高くて、ステータスも悪くない分、速度に欠けるってところだな。

 後は地属性ってところか。


 他の利点は大きそうだが、速度は最重要といっても間違いないステータスだ。


【〖ヌン:ランクL+(伝説級上位)〗】

【生命の始まりの起源とされているドラゴン。】

【ヌンの操る水より、全ての存在が生まれたとされている。】

【人間では決して到達できない規模の白魔法を操る。】

【流れる涙の一滴さえ、若返りの霊薬となる。】

【その肉を食したものは、不老不死になると言い伝えられている。】

【回復能力に長けるが、攻撃方面の能力は弱い。】


 ヌン……回復能力特化型、か。

 神の声は、力頼みでどうにかなる相手だとは思えねえ。

 持久戦に持ち込んで、敵の情報を集められるのはありがたい。

 ただ、如何せん攻撃方面が弱いのがネックだといえる。


【かつて自身の手によって生み出した生命の醜悪さに絶望し、一度世界を洪水で無に帰したという。】


 ……攻撃方面の能力は弱い?

 い、いや、まぁ、元の世界の規模がわからねぇし、弱いといっても伝説級上位での範囲内の話なのだろう。

 そもそも逸話はそんなに信用ならねぇ。

 回復能力特化型だと、そこだけ覚えておけば充分だろう。

 それ以上の情報は、進化してみねぇとわからない。


【〖アジ・ダハーカ:ランクL+(伝説級上位)〗】

【三つ首の邪竜。】

【それぞれの頭部が、痛み、苦しみ、そして死を司っているとされている。】

【三つの頭によって大規模攻撃魔法の連続行使を行える他、凶悪な毒を有している。】

【アジ・ダハーカの血が地に落ちれば、先の千年はあらゆる魔物が近づけない毒沼となるだろう。】


 これまた、物騒な奴が出てきたもんだ……。

 どうやら多頭竜タイプかつ、魔法、そして毒タイプらしい。

 搦め手で戦う、という点ではオネイロスに近いものがある。

 ただ、オネイロスよりもその傾向が強そうだ。

 ただ、神の声相手に、スキルの搦め手や毒が通用するのかという疑問は残る。


 ……多頭竜と聞くと、どうしても相方を思い出しちまう。

 ただ、進化して多頭竜になっても、相方は戻ってこないことは前回確認済みだ。

 そうなると、正直この進化先は避けたいと思っちまう。


 他の人格が二つも生えてくるのは、正直デメリットの方が大きいだろう。

 俺もあんまし好んでこのドラゴンに進化したいとは思えない。

 相方はいい奴だったからよかったが、他の人格が身体に同居するなんてちっと想像もしたくねぇ。

 必要とあれば受け止めるが、他の進化先と比べて大きな利点があるとは思えない。


【〖アポカリプス:ランクL+(伝説級上位)〗】

【聖神教の預言書の最後の一行にて、世界の終わりに現れるとされているドラゴン。】

【赤黒い大いなる災禍が、一夜の間に世界を飛び回り、地獄の炎で地上の全てを焼き払うだろう、と。】

【だが、真に恐ろしいのはその牙と爪である。】


 今更だが、本当にとんでもねぇ進化先しかねぇな……。

 聖神教はリリクシーラのところだったな。

 こんなもん進化したら絶対人里に降りられねぇぞ……と思ったが、まぁ、それはどれに進化しても、今更同じことか。


 世界の終わりは不吉だが、そこはあまり考えなくてもいいのではなかろうか。

 ただ、そうなると情報量が少ない。

 物騒なドラゴンではあるが、変わったスキルはあまり期待できないかもしれない。


【〖クロノス:ランクL(伝説級)〗】

【〖時空神〗と呼ばれる、時間と空間を操る黄金のドラゴン。】

【文字通り時間を戻すことができる他、空間を歪めることで疑似的に分身したり、防御力を完全に無視した貫通攻撃を放つことができる。】

【ただし、身体能力は決して高くない。】

【かつてクロノスを見た人間は、このドラゴンこそが神であると信じた。】


 時間を戻せる……か。

 どの程度のものかはわからねぇが、本当にとんでもないスキルだ。


 ただ、身体能力は高くはないようだ。

 そこがネックだ。

 おまけにランクも一つ低い。

 どうやら同ランク内での進化になるらしい。


 正直、この進化の扱いは今一つわからねぇ。

 クロノスに進化した後にもう一段階進化できる余地が残るのか、結局ここで打ち止めなのか。

 そもそももう一度進化できるだけの経験値量を溜められる猶予があるのかどうかも怪しいところだ。


 〖天道〗が手に入るまで進化しない、という方法もある。

 ただ、その場合、今のステータスのまま地上の奴らとやり合う必要がある。

 おまけに〖天道〗自体が存在が不確かなスキルだ。

 ここで決めるには情報が少なすぎるが、今決断するしかない。


 せめて、頼れる先輩であるミーアにアドバイスくらいはもらいたかったところだ。

 下手をすれば、ミーアのタナトスみたいに精神状態に悪影響を及ぼす進化先もあるかもしれねぇんだ。

 それも進化先の決定打にするかどうかはおいておいて、判断材料には入れておかなければならない。

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