第643話
ヘカトンケイルの太い腕が砕け、地面に落ちる。
彫像の身体に入った剣傷は、これまでの戦いで与えたどの攻撃よりも深い。
入った……!
ヘカトンケイルに、〖闇払う一閃〗の一撃!
一対一ではとても当てられる気がしなかった。
だが、アロが〖影演舞〗を潰してくれたお陰だった。
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〖ヘカトンケイル〗
種族:ヘカトンケイル
状態:狂神、〖死神の種〗
Lv :140/140(MAX)
HP :6754/10000
MP :7672/10000
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やった、これまでにない大ダメージが入っている!
やはり〖闇払う一閃〗の耐性無視攻撃は、ヘカトンケイルに対しての大きなメタになっている。
〖オネイロスライゼム〗から〖闇払う一閃〗の光は消えていたが、俺は追撃の刃を振るった。
アロは、ヘカトンケイルの砕けた部位を狙って〖ダークスフィア〗を放っている。
ミーアもヘカトンケイルの全身を華麗に飛び回りながら、剣の攻撃を当てている。
前回、俺が単騎で挑んだ際、ヘカトンケイルのMPは二割程度しか削れなかった。
だが、今は二割五分削って、俺のMPはほぼ万全の状態を保てている。
かなり順調だ。
ヘカトンケイルには隠しているとっておきのスキルもなさそうだ。
このままやれば勝てる!
『ソ、ノ、スキル……オレ、ノ……』
微かに、ヘカトンケイルから思念のようなものを感じた。
俺の〖念話〗のスキルで拾えたようだ。
前回にも、似たようなことがあった。
ヘカトンケイルには、微かに自我の片鱗が残ってんのか……?
だが、自分のスキルとはどういうことだ?
少し考えて、もしかしたら〖闇払う一閃〗のことかもしれないと気が付いた。
ヘカトンケイルは元勇者である。
過去には〖闇払う一閃〗を所有していたはずだ。
『何故……何故、オマエ、ガ……』
それを最後に、ヘカトンケイルの思念が途切れた。
大剣を振るい、自身から離れようとするミーアを突き飛ばし、俺の刃を防いだ。
……ヘカトンケイルの中では、まだ自分が神聖スキル持ちのつもりなのかもしれねぇ。
自我も、思考能力も、残っているのは本当に小さな断片だけなのだ。
ヘカトンケイルはその後、トレントへの攻撃へと動き方を切り替えた。
俺やミーアには牽制程度に大剣を振るい、〖ハイジャンプ〗で飛び上がって変則的に暴れ、トレントへ斬り掛かる。
どうやらヘカトンケイルは、トレントを無視していては自身が不利になると考え、優先して排除することにしたらしい。
俺とミーアは、ヘカトンケイルの動きを予測しつつ、どうにか挟み込んで有利な状況を継続し、攻撃を通していった。
『トレント、耐えられるか! マズいと思ったら〖木霊化〗で逃げるんだぞ!』
『大丈夫ですぞ! ヘカトンケイルもあまり私に連撃を繰り出す余裕はありません。それに、いざとなれば〖不死再生〗があります!』
『ならいいが、〖木霊化〗で逃げるのを忘れるなよ! 小さくなったら、俺が口で回収するからな!』
『……それは撤退するな、という脅しですかな主殿』
い、一番それが安全だと思ったんだが……。
トレント的にはなしだったらしい。
しかし、ヘカトンケイルがわかりやすくトレントを攻め始めてくれたのはありがたい。
確かにこの状況、ヘカトンケイルとしては、トレントに一方向潰され続け、俺とミーアに囲まれるのは美味しくないはずだ。
だが、ヘカトンケイルがトレントを狙ってくれるのならば、その隙をこっちは殴り放題になる。
俺達としてもどっちでもよかったが、トレントを素直に殴ってくれる方が、動き方がわかりやすくてやりやすい。
俺とミーアの刃、そしてアロの〖ダークスフィア〗がヘカトンケイルの身体を破壊していく。
すぐに壊れた傍から再生していくが、MPはどんどん消耗していく。
トレントも攻撃はダメージを稼げないと踏んで、ひたすら〖樹籠の鎧〗を応用した拘束を試みている。
成功すれば、〖影演舞〗を撃たせて消耗させることができる。
そして〖影演舞〗は発動タイミングを予期できれば、アロの〖ダークスフィア〗で発動を潰せる。
どれだけ攻撃されても、ヘカトンケイルの動きに疲労はない。
だが、MPは着実に減少していっていた。
またアロのダークスフィアが、ヘカトンケイルが沈んだ直後の影へと炸裂した。
地面が爆ぜ、ヘカトンケイルが再び姿を現す。
「竜神さまっ! やりました!」
『よくやったアロォ!』
そこを、俺の〖闇払う一閃〗が斬った。
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〖ヘカトンケイル〗
種族:ヘカトンケイル
状態:狂神、〖死神の種〗
Lv :140/140(MAX)
HP :3584/10000
MP :1023/10000
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とんでもなくタフな奴だったが、さすがに終わりが近づいていた。
ヘカトンケイルが、お返しとばかりに俺へ刃を振るう。
俺は身体を逸らして避け、地面を蹴って宙へと逃れる。
『ミーア! ついに、奴の残りMPが一割を切るぞ!』
俺もミーアもまだ余力を残せていた。
トレントもまだ〖不死再生〗発動に追い込まれていない。
アロは長時間、最大威力の魔法攻撃を撃ち続けていたのでかなり疲労が来ているようだったが、ダメージを負ったわけではない。
序盤は不安が多かったが、蓋を開けてみれば快勝となりそうだ。
トレントの妨害効果が予測していた数倍の効力を発揮したのが大きい。
「一気に終わらせようか!」
ミーアが〖神速の一閃〗で塔を蹴り、トレントを蹴る。
ヘカトンケイルの背後を取り、大剣を掲げた。
が、ヘカトンケイルは素早く振り返り、同時に大剣を振るっていた。
ミーアの、あの変則的で素早い動きをわかっていたようだった。
〖次元斬〗がミーアの頭に放たれた。
ミーアは首を横に倒して回避していたが、体勢が崩れていた。
そこに、ヘカトンケイルが踏み込みながら二発目の大剣を振るう。
ミーアは大剣の刃を盾のように構え、どうにか防ぐ。
「……あれだけ偉そうに語っていた私が油断しただなんて、言い訳もできないね」
ミーアの身体を、ヘカトンケイルの巨大な足が蹴飛ばした。
ミーアは地面に叩きつけられ、そのまま地表を抉りながら転がっていった。
ヘカトンケイルの攻撃力は伝説級としては最低クラスだが、それでも伝説級相手に殴り合いができるくらいにはある。
そして、ミーアは人化状態であるため、極端に身体が脆い。
今の直撃は重かったはずだ。
ステータスは変わっていないはずだ。
だが、ヘカトンケイルの動きが、今までと全然違う!
〖神速の一閃〗の攻撃は単調になりやすいので、動きを読める余地は確かにある。
だが、だからこそミーアは塔とトレントを蹴って、背後へ回ったのだ。
それをヘカトンケイルは完全に読んでいた。
来るかもしれない、ではない。絶対にミーアがそうするとわかっていたようだった。
ミーアは油断と言ったが、それは違う。
さっきまでのヘカトンケイルであれば、絶対に今の動きはまともに反応できなかったはずだ。
急にスイッチが入ったようだった。
『オ、オレニハ、使命ガ、アル……。マダ、倒レルワケニハ……!』
これまでよりも明白な、強い思念を感じた。
手にした大剣を俺へと向け、俺へと向かってきた。
ミーアへの追撃でも、トレントの排除でもなく、俺を真っ先に倒すつもりらしい。
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