第642話
俺、ミーア、そして大木トレントで、ヘカトンケイルを挟み込むことに成功した。
このままトレントは前面に立ち続けてヘカトンケイルの攻撃を受け止める。
そして、俺、ミーア、アロで一気に攻撃を仕掛ける!
『さあ、私が相手をして差し上げますぞ!』
トレントが腕のような枝を前に押し出し、宙を殴った。
ヘカトンケイルはトレントを大回りし、俺の方へ来ようとする。
『なっ、何故!』
……まぁ、そうなるか。
ヘカトンケイルだって馬鹿じゃねぇ。
トレントを相手にしてたら、他の攻撃に対して無防備になることはわかりきっている。
『無視はいただけませんぞ!』
トレントが大きな枝を振り下ろし、ヘカトンケイルへ打ち付けようとする。
ヘカトンケイルは避けもしなかった。
直撃するが、全くダメージを与えられていねぇ。
身体から伸びる無数の腕で枝を押し退け、減速せずに突破する。
トレントが悔しげに口を歪めた。
だが、ヘカトンケイルが動きづらくなったのはありがてぇ。
ヘカトンケイルの背後が丁度トレントの枝に防がれたところへ、俺とミーアが同時に攻撃に出た。
トレントを強引に避けようとするがあまり、隙だらけになっている。
俺がヘカトンケイルの背へ尾の一撃をぶち当て、同時にミーアが大剣で腹部を斬りつけた。
遅れてアロの〖ダークスフィア〗が直撃する。
ヘカトンケイルの姿が影に沈む。
また〖影演舞〗だ。
いける……!
〖影演舞〗の間隔がどんどん短くなっていく。
トレントが出てきてヘカトンケイルの動き回れる余地が一気に減り、奴にとって不利にしか働かない場面が増えている証拠だ。
やっぱり今のトレント、相性が嵌ったら滅茶苦茶強い。
ミーアは推奨していたようだったが、相柳戦では味方の火力と敵の体力の力関係で、トレント盾作戦で挑むのは危険過ぎたと思う。
ただ、今回はアロに加えて、俺にミーアがいる。
いくらヘカトンケイルといえども、トレントに攻撃を割いている余裕がないのだ。
今回はこの作戦で行けるとは思っていた。
しかし、ここまでトレントの盾に効果があるとは予想していなかった。
明らかに俺達が優勢だ。
ヘカトンケイルが姿を現したとき、その頭上にミーアが跳んでいた。
「ここまで行動を制限できれば、〖影演舞〗の移動先を追うのは難しくない」
ヘカトンケイルが素早く大剣で身を守る。
ヘカトケイルとミーアの刃が打ち合う。
だが、三手目でミーアが懐に飛び込み、またヘカトンケイルへ一撃を入れた。
『〖アイディアルウェポン〗!』
俺もスキルで武器を造り出し、〖竜の鏡〗で前脚を腕に変える。
今度取り出したのは〖オネイロスマレット〗ではなく、大剣であった。
【〖オネイロスライゼム〗:価値L(伝説級)】
【〖攻撃力:+240〗】
【青紫に仄かに輝く大剣。】
【夢の世界を司るとされる〖夢幻竜〗の牙を用いて作られた。】
【この刃に斬られた者は、現実と虚構が曖昧になり、やがては夢の世界に導かれるという。】
【斬りつけた相手の〖幻影耐性〗を一時的に減少させる。】
少しでも高いダメージを通せるのは〖オネイロスマレット〗だが、ちょっと考えがあり、敢えて〖オネイロスライゼム〗を生み出したのだ。
俺は即座にヘカトンケイルへと刺突を放つ。
ヘカトンケイルの刃が、俺の刃を妨げる。
刃がかち合っている間に、トレントの大きな枝がヘカトンケイルを押さえた。
『〖樹籠の鎧〗……!』
トレントの枝に細かい枝が走り、ヘカトンケイルの身体を縛り上げていく。
『捕らえましたぞぉっ!』
ヘカトンケイルの身体が影へと沈む。
また〖影演舞〗だった。
しかし、これでまたMPを削れるので無駄ではない。
「〖ダークスフィア〗!」
アロの放った黒い光球が、ヘカトンケイルの逃げた影を穿つ。
爆発で地面が抉れ、ヘカトンケイルが姿を現した。
肩の部分に新しい罅が入っていた。
「竜神さま! 影に入って無効化できるのは物理攻撃だけかもしれません! 魔法は、少なくとも〖ダークスフィア〗は当たります!」
少し俺が考えていたことだった。
検証する余裕はなかったが、アロがやってくれた。
影に入ると高速で移動するので魔法を直撃させるのは難しいかもしれないが、アロはタイミングを見計らい、移動する一瞬前を叩いてくれたのだ。
出てきたところをミーアが即座に〖衝撃波〗で叩き、剣での追撃に出た。
俺も上空より〖オネイロスライゼム〗の一撃を放つ。
迫り来るトレントの大きな枝を、ヘカトンケイルは横に飛んで回避し、その際に派手に斬りつけた。
トレントの腕枝が落ちる。
『トレント、大丈夫か!』
『これくらい余裕ですぞ! 思ったより全然攻撃されないので不安なくらいですな。じゃんじゃん仕掛けていきますぞ!』
『ああ、その調子で捕らえて、奴に〖影演舞〗を使わさせろ!』
トレントが滅茶苦茶心強く見える。
トレントは〖不死再生〗でガードしてMPがなくなれば退場となるかと考えていたが、〖不死再生〗さえ必要ない空気だった。
完全にヘカトンケイルは手数が足りていない。
ヘカトンケイルは自身を妨害するトレントに対し、攻撃に出る余裕がないのだ。
「イルシア君、あまり今の立ち位置を崩さない方がいい。ヘカトンケイルは、どうにも塔の扉から大きく離れられないらしい。そういう制約を感じる。つまり、トレント君で妨害してヘカトンケイルの動きを制限すれば、奴は私とイルシア君で挟み撃ちにしているこの状況を打開する術がない」
『わかった、ミーア!』
俺とミーアの振るう刃が、交互にヘカトンケイルの身体を崩す。
ヘカトンケイルは体勢を立て直そうとしたのか、また影の中へと沈んでいく。
それを、アロの〖ダークスフィア〗が撃ち抜いた。
影が崩れ、すぐにヘカトンケイルが実体を現す。
「ずっと、影に逃げるのを待ってました!」
アロが得意げに口にする。
『でかした、アロ!』
俺は〖オネイロスライゼム〗を大振りしていた。
刃から青白い、神々しさを感じさせる光が放たれていた。
【通常スキル〖闇払う一閃〗】
【剣に聖なる光を込め、敵を斬る。】
【この一閃の前では、あらゆるまやかしは意味をなさない。】
【耐性スキル・特性スキル・通常スキル・特殊状態によるダメージ軽減・無効を無視した大ダメージを与える。】
〖闇払う一閃〗は、ヘカトンケイルの最大の強みである〖物理耐性〗やら〖物理半減〗の耐性スキルを無視した大ダメージを叩き込める。
このスキルを当てるために、ヘカトンケイルが出てくる前から準備していた。
アロならきっと、またヘカトンケイルの〖影演舞〗を潰してくれると思っていたのだ。
『くらいやがれ、ヘカトンケイル!』
無防備な奴の身体に、〖闇払う一閃〗の刃が走った。
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