第632話
ミーアと話し合いを終え、彼女と共にヘカトンケイルのいる天を穿つ巨塔へと出発した。
道中は俺ではなく、アロやトレントのレベル上げを中心に行うことになった。
「見てもらっただろうけれど、私のレベルは最大だからね。君もレベル139で、最大までは後十一だ。それに、君、経験値倍増スキルを持っているんだろう?」
『ああ』
歩きながら、ミーアと話をする。
ミーアには俺のスキルの一部を明かしてある。
手放しでミーアを信用するつもりじゃないが、経験値の計算まで予定に入ると、話さざるを得ない。
それに、俺はミーアのスキルを〖ステータス閲覧〗で一方的に確認済みなのだ。
「ならば、どうせすぐに最大まで持っていけるよ。あの醜悪な首無しの番人、ヘカトンケイルもいるわけだからね。ここで君のレベルを上げるよりは、アロ君やトレント君のレベルを上げておいた方がいいよ。わかっているだろう? ここから出た、後のことを」
そう……ここを出れば、神の声の奴がばら撒いた〖スピリット・サーヴァント〗を討伐しないといけねぇ。
その後、きっと、神の声と戦うことになる。
俺も伝説級の最大レベルに到達しようとしている。
そろそろ神の声も、俺を処分しないといけない頃合いに達しているはずだ。
何より、このンガイの森自体、神聖スキル持ちの最後のレベル上げの場として神の声が設けた世界なのだろうから。
「急ぎながら……でも、効率的に、歩みを進めないといけないわけだ。神の声の目的は自分より強い魔物を創り出し、レベル最大の〖ラプラス干渉権限〗を取得させてフォーレンを復活させ、この世界を無に帰すことだ。目的の完遂に近づけば近づくほど、奴は反意を向けられたときに命を落とすリスクを得る」
だから限界まで成長途上を見届け、データだけ収集して神聖スキル持ちの処分を繰り返している、という話だった。
俺は処分に出向いてくる神の声を出し抜き……殺し返さなければならない。
ミーアは話しながら、探るように俺をじっと見ていた。
『……なぁ、ミーアの〖地獄道〗は、奴を出し抜く武器になり得ると思うか?』
俺はミーアへそう尋ねた。
オリジンマターの中に逃げ込んだミーアの行動が神の声の意表を突くものであれば、それは奴を殺し返すための大きな武器になるかもしれねぇ。
神の声との敵対に当たり、具体的に〖地獄道〗を持つミーアと手を組めたことがどうプラスに働くのかは俺にはわからねぇが……。
ミーアは瞬きし、それから目を細めて意味深に笑った。
「ああ、なるさ。きっとね」
こ、怖え……。
警戒しすぎているせいか、最早ミーアが普通のことを言っていても、なんだか怖く見えてきてしまう。
アロとトレントも、恐る恐るといったふうにミーアを観察していた。
トレントなんかアロの背に身を寄せ、彼女を盾にミーアから隠れるようにしていた。
……トレント、お前が盾役なんだぞ。
ミーアは唐突にトレントとアロを振り返った。
トレントとアロはびくりと肩を震わせ、その場で足を止める。
警戒する二体に対し、ミーアは目を細め、薄い笑みを向ける。
「フフ、取って食べたりしないよ。イルシア君、君の部下は本当に可愛いね」
ミーアは上機嫌なふうにそう言って前を向き、再び歩き始めた。
び、びっくりした……豹変してブチ切れたりしないだろうかと警戒してしまった。
絶対今、アロとトレントが怖がってるのを分かった上でやりやがったな。
心臓に悪いから突然変な茶目っ気を出さないでほしい。
移動の最中、遠くに巨大な蛇を見つけた。
俺より長い全長を持っており、不気味なことに、頭の部位に大きな目玉がいくつも付いていた。
顔いっぱいに複数の目玉があるわけではない。
頭の場所に、巨大な剥き出しの眼球が、奇妙な果実のようにくっついているのだ。
視神経の塊のようなものも裏に見える。
そいつはンガイの森の黒い大木に身体を巻き付けて昇り、その大きな眼球でこちらをじいっと見つめていた。
……また、とんでもねぇのが出てきやがった。
ここの魔物のグロテスク、もとい個性的な外観にもいい加減慣れたつもりだったが、しかし、やっぱりキツいもんはキツい。
アロとトレントも、眼球蛇の放つ存在感に閉口していた。
「ふむ、こちらに興味津々らしいな」
ミーアが楽しげに零す。
さすがというべきか、一切眼球蛇の容姿に物怖じしていない。
狂神化が進行し始めるまでここにいただけのことはある。
「そろそろ傷や疲れも癒えただろう。どれ、アロ君とトレント君のお手並み拝見といこうか」
トレントが露骨に嫌そうに顔を顰めていた。
俺は〖ステータス閲覧〗で眼球蛇を確認する。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
〖アイビリバ〗
種族:相柳
状態:狂神
Lv :83/140
HP :5478/5478
MP :3524/3524
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
レベル最大からは遠いが、伝説級の魔物だった。
これは、アロとトレントに任せるのはちょっと危険かもしれない。
『俺も出ていいか? アロとトレントを身体に乗せて戦えば、安全にレベル上げをさせてやれるはずだ。【Lv:83】だが、伝説級だ。相柳って魔物らしい』
「ふむ……。危険と貢献度は連動している。それに手を出し過ぎれば、戦い方を覚えられない。私達が見ているのだから、安全に戦えることには違いはない。死闘の経験っていうのは大事だよ。大切なものを教えてくれる」
『だからって無暗にリスクを取っていいわけがねぇだろ。死ぬかもしれねぇんだぞ』
ミーアが目を細める。
「二体いるんだ。何かあっても、片方は残るさ」
『お前……!』
俺は牙を剥き、ミーアを睨んだ。
『わわっ、私も、特に理由なくあんなのと戦うなんてごめんですぞ、ミーア殿!』
トレントがアロから身を乗り出してそう言った。
ミーアが目を向けると、トレントはそっとアロの背に引っ込んだ。
「はっきり言って、君達の強くなれる上限は知れている。レベルを上げきったら、同ランク進化でステータスやスキルを稼ぐか、小手先の技術を磨くかくらいさ。だから君達は、格上との戦い方を身に付けなければならない。どうする? 比較的安全に戦える今挑んで経験を積んでおくか、本番で何もわからない内に圧殺されるのか。そんな覚悟だったら、地上に出たら逃げ出してしまうのも手だよ。私の部下には、そんな奴はいなかったけどね」
ミーアの言葉に、トレントがそっと困ったように俺を振り返った。
「……竜神さま、私、やります」
トレントは呆気に取られたようにアロを見てから、『じゃ、じゃあ、私もやりますぞ!』と遅れて宣言した。
アロ達の言葉に、ミーアが口許を綻ばせた。
「本当に可愛いね、君の部下は」
俺は不安が拭えなかった。
確かに相柳は、速度は遅い方だ。
格上の中でも動きが自身より遥かに速い魔物を相手取るのは自殺行為に近いが、これならば食い下がれる可能性はある。
スキルも概要を見るに単純なものが多い。
ただ、見たことのないスキルがあるのが引っ掛かるが……。
「大丈夫だよ。死んでもどちらかだとは言ったが、私と君がいるんだ。まず心配はいらないさ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます