第631話

 オリジンマター戦で得た経験値を調べるため、トレント、アロのレベルを確認した。

 トレントは【Lv:91/130】から【Lv:99/130】へと上がっていた。

 アロは【Lv:94/130】から【Lv:97/130】へと上がっていた。


 教えてやると、トレントはぴょんぴょんと跳ねながら喜んでいた。


「わ、私も、もっと頑張らないと……」


 アロはトレントに一気に追い抜かされたのが不安なのか、少し複雑そうな表情を浮かべていた。


『やりましたぞ! 主殿、ついにアロ殿のレベルを超えましたぞ! アトラナート殿も、きっとこの私のことを見直すに違いありません!』


 ……トレント、アロがすっごい複雑な顔してるから、そこを強調するのを止めてやってくれ。

 俺が目でチラチラと合図すると、トレントはアロを振り返り、少し身体を窄めた。

 燥いでいただけで悪気はないのだろう。


 しかし、俺もまさか、トレントがアロのレベルを追い抜く時が来るとは思っていなかった。

 今の進化形態であるこのワールドトレント……もしかしなくても、A+級の中では滅茶苦茶強いのではなかろうか。


 いや、ワールドトレントは能動的な攻撃能力には欠ける。

 逃げようとする相手を追い詰めることは決してできないともいえる。

 この世界において、それが致命的なマイナスであることは、これまでのトレントを見ていて散々認識させられてきたことでもあった。


 多く魔物を狩るだとか、一対一で相手を打ち倒すだとか、そういった面ではアロのワルプルギスに軍配が上がるだろう。

 ただ、ワールドトレントは主戦力にはなれない代わりに、それらのマイナスを完全に補える戦闘補佐能力を持っている。


 今回のオリジンマター戦で大量の経験値を獲得したのもそのお陰だ。

 実際、トレントが敵の攻撃をいくらか肩代わりしてくれ、〖ダークレイ〗を〖妖精の呪言〗でお返しして大ダメージを与えてくれたのは本当に助かった。

 アロが分身して魔法攻撃の連打でダメージを稼いでくれたのも勿論助かったのだが、この戦いの最大の功労者を挙げるとなれば、それは間違いなくトレントになる。


 ……つーか、レベルも九十台となるとかなり上がり幅が厳しくなってくるはずなんだが、結構がっつりと上がったな。

 勿論俺の〖魔王の恩恵〗の経験値倍増スキルがあるので、アロとトレントは、一般的な魔物よりも遥かにレベルが上がりやすい。

 ただ、それでも俺の実質四倍経験値よりは遅いはずだ。


 それだけオリジンマターの経験値が膨大だった、ということだろう。

 俺に入った分だけでも七万七千と、ルインの四万二千、リリクシーラの五万九千を大きく上回る経験値であった。

 アロ達にも充分な量の経験値が配分されていたことを思えば、元の経験値量は十万越えだったのではなかろうか。


 さすが、伝説級蔓延るこの異様な地の中でも、頭一つ抜けていたことはある。

 ルインやリリクシーラの数値は、神聖スキルが抜けて弱体化したことにより多少減衰していたのかもしれないが、それでも十万越えの経験値は高い。

 改めて、オリジンマターが強敵であったことを再認識した。


『主殿、見ていてくだされ! この調子で、一気に私も伝説級になって見せますぞ!』


『う、う~ん……それは止めた方がいいかもしれねぇな……』


『なっ、何故ですか! 私は、主殿と肩を並べて戦えるようになりたいですぞ!』


 トレントがぱたぱたと、木霊状態の翼を羽搏かせる。


「はっは、可愛げのある部下達で羨ましいよ。私の部下は、ちょっとばかり外観と性格の尖っている子が多くてね。まあ、根はいい子達ばかりだったんだけれど」


 ミーアは口許に手を当てて笑った。

 俺はその様子を、ついまじまじと見てしまう。

 先入観のせいだろうか。

 どうしてもミーアの表情が、俺には人工的な嘘臭いものに思えてならないのだ。


「どうしたのかな、イルシア君?」


『い、いや、なんでもねぇ』


「ん? そうかい」


 あまりミーアの部下達について、ミーアと話したくはなかった。

 ミーアは気味の悪いくらい、俺がミーアの部下の生き残りを討伐したことを気にしていない。

 ただ、だからこそ不気味だった。少しくらい複雑そうな様子が見えた方が、まだ安心できたくらいだ。

 何かが切っ掛けとなって爆発するのではなかろうかと、そういった危惧が俺の中にあった。


「トレント君だったね。私から説明してあげよう。神聖スキル持ち以外は、伝説級には絶対になれないんだ。まだ進化上限扱いにはなっていないという話だったけれど、仮に進化しても同ランクの別モンスターになるだけだよ」


『そ、そうなのですか……』


 トレントが落ち込んだように目線を下げる。


「まあ、進化しない方がマシってわけじゃない。スキルも大半は引き継げるし、ステータスも進化回数が多い方が若干高くなる傾向にあるらしい。ただ、レベルがリセットされることを思えば、メリットとデメリットが釣り合っているとはあまり思えないのだけれどもね。時間がある状況ならいざ知らず……」


『なるほど……』


 さすが、ミーアは俺よりこうした事情に明るいようだ。

 本格的に神の声討伐を検討して、三度も奴に剣を向けたというだけはある。

 

「一応、特例がないわけじゃないけれど。強引に進化できても、崩神っていう特異な状態異常が発生するんだ。そうなったら最後、絶対に助からないよ。じわじわと最大HPが減っていって、身体が崩壊するんだ。覚えておくといい」


 トレントはごくりと唾を呑み、こくこくと頷いた。

 崩神は知っている。

 確か、スライムの奴がなった状態だ……。


 ミーアも知っていたのか。

 部下の一人がそうなったのか、或いは前代の神聖スキル持ちの中からも崩神持ちが出て来たのか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る