第627話

 俺は口の中からアロを出し、木霊化したトレントを交えた三体で顔を突き合わせる。


『しかし、〖冥凍獄〗に封じられていたのはトレントだけなのか?』


『い、いえ、封じられた間のことは憶えていませんので、なんとも……』


 トレントが困ったように答える。

 そういえば〖冥凍獄〗の中では時間の流れが止まっているんだったか。


 そのとき、ジュウゥウ……という音と共に、広がっていたオリジンマターの液体が蒸発を始めていく。

 それに伴い、六体の魔物がずらりと並んで現れた。


 二つの頭を持つ巨大な牛頭の人間やら、大量の瞳の付いた岩塊やら、一目見てヤバそうとわかる奴らばかりだった。

 頭部がない代わりに腹部に顔のある巨大な鬼もいた。

 もしかしたらアダム系列の魔物なのかもしれなかった。

 

 〖冥凍獄〗に囚われていた魔物が一体だけだとは限らない。

 無論、可能性としては考えていたことだった。

 何せ、このオリジンマターも、夥しいほどに永い時間、このンガイの森に囚われ続けてきた奴だ。


 俺はさっと血の気が引いた。

 こいつら……最低でもB級上位以上だろう。

 下手したら伝説級が混じっていてもおかしくはない。


 皆、だらりと涎を垂らしており、生気のない目つきをしている。

 感情が残っているようには窺えなかった。

 こ、こいつら、狂神状態だ!


 今は俺もアロもトレントも限界が近い。

 下手に交戦するのは危険だった。


『いっ、一旦距離を取るぞ!』


 俺がアロとトレントへそう言ったのと同時に、六体の魔物に光速の斬撃が走った。


「〖神速の一閃〗」


 六体の魔物の身体に黒い刃が走る。

 斬られた魔物達は力なく地面に伏せ、黒ずんで動かなくなり、地面の中へと沈んでいった。

 一瞬の出来事だった。


 茫然と見る俺達の前に、一人の女が降り立った。

 彼女の長い髪が、宙を舞う。

 手には、背丈以上の巨大な剣を手にしていた。


 女は俺達を見た後、振り返って周囲を見回す。

 その動きには、他の狂神化した魔物達とは違い、明確な知性が感じられた。

 恐らく彼女は、俺が捜していた、狂神化が進み切っていない、過去の神聖スキル持ちだ。


 女は俺へと向き直り、笑みを浮かべた。


「なるほど、賭けに勝ったらしい。君達は、今代の神聖スキル持ちと、その一派ということでいいのだろう?」


 女は黒い外套を纏っており、何となく人工的な表情を持つ人物だった。

 どこかで見たことのある顔だと思えば、頭に引っ掛かるものがあった。

 ……こいつ、俺がウムカヒメに試練と称して戦わさせられた、クレイブレイブの中身と同じ顔をしていやがる。


「驚いた顔をしているね。狂神化で時間がない中、わざわざこの厄介なオリジンマターを討伐したんだ。てっきり、私に会いたくてそうしたものかと思っていたのだけれど、違ったのかな?」


 女の飄々とした態度に、アロが警戒したように俺の前に立ち、彼女へと身構えた。

 警戒するのも無理はない。

 コイツは何か異様だった。

 話は通じるが、本当に信用していいのかどうか、今一つ疑わしい。


『……アロ、大丈夫だ。俺が話す』


 俺はそう言ってから、女のステータスをまず確認した。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

〖ミーア・ミトレニア〗

種族:タナトス

状態:狂神(小)、呪い、人化LvMAX

Lv :150/150(MAX)

HP :3333/6666

MP :4321/4444

攻撃力:2222(4444)+444

防御力:1106(2212)

魔法力:4444

素早さ:3220

ランク:L(伝説級)


装備:

手:〖黒蠅大刀:L+〗


神聖スキル:

〖地獄道:Lv--〗


特性スキル:

〖グリシャ言語:Lv8〗〖アンデッド:Lv--〗〖不滅の肉鎧:LvMAX〗

〖肉体変形:LvMAX〗〖死者の特権:Lv--〗〖冥府の鏡:Lv--〗

〖HP自動回復:LvMAX〗〖MP自動回復:LvMAX〗〖触手:LvMAX〗

〖飛行:LvMAX〗〖死神のオーラ:Lv--〗〖闇属性:Lv--〗

〖邪竜:Lv--〗〖気配感知:LvMAX〗〖魔術師の才:LvMAX〗

〖剣士の才:LvMAX〗〖隠密:LvMAX〗〖即死の魔眼:LvMAX〗

〖恐怖の魔眼:LvMAX〗〖支配者の魔眼:LvMAX〗〖魅惑の魔眼:LvMAX〗

〖悪しき魔眼:LvMAX〗〖狂神:Lv--〗


耐性スキル:

〖物理耐性:LvMAX〗〖魔法耐性:LvMAX〗〖状態異常無効:Lv--〗

〖闇属性無効:Lv --〗〖光属性耐性:LvMAX〗


通常スキル:

〖衝撃波:LvMAX〗〖残影剣:LvMAX〗〖神速の一閃:LvMAX〗

〖流し身:LvMAX〗〖掬虚月:LvMAX〗〖破魔の刃:LvMAX〗

〖ハイレスト:LvMAX〗〖ホーリースフィア:LvMAX〗〖ディメンション:LvMAX〗

〖クレイ:LvMAX〗〖アルケミー:LvMAX〗〖毒牙:LvMAX〗

〖灼熱の息:LvMAX〗〖病魔の息:LvMAX〗〖人化の術:LvMAX〗

〖自己再生:LvMAX〗〖デス:LvMAX〗〖念話:LvMAX〗

〖ダークスフィア:LvMAX〗〖フェイクライフ:LvMAX〗〖ダークレスト:LvMAX〗

〖腐敗の息:LvMAX〗〖穢れの舌:LvMAX〗〖ライフドレイン:LvMAX〗

〖分離獣:LvMAX〗〖ハイスロウ:LvMAX〗〖エクリプス:LvMAX〗


称号スキル:

〖最終進化者:Lv--〗〖元英雄:Lv--〗〖元魔王:Lv--〗

〖ド根性:LvMAX〗〖執念:LvMAX〗〖大物喰らいジャイアントキリング:LvMAX〗

〖武の神:LvMAX〗〖ラプラス干渉権限:Lv2〗〖死神:Lv--〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 ……色々と不安なところはあるが、仲間としては申し分ないステータスだった。

 こいつ……ウムカヒメの主、前代の勇者ミーアこと、魔王アルキミアだ。

 まさか、生きているとは思わなかった。

 聞いている限りは人格面に難がない相手に思えていたし、全く知らない人物よりは安心できる。


 そうは思うのだが、ミーアはどうにも、対面していて不安になる独特のオーラがあった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る