第611話
俺は〖オネイロスマレット〗を振り回しながら、ヘカトンケイルへと向かう。
相手の剣の間合いまで入り、大鎚で身体を殴り飛ばす。
ヘカトンケイルが衝撃で、先ほどまでより大きく退いた。
よし!
素手に比べりゃ、遥かにマシそうだ。
ヘカトンケイルが大剣を盾のように構える。
俺はその上からぶん殴った。
ヘカトンケイルの大剣を握る腕を後方に弾けた。
うしっ!
ガードでも堪え切れてねぇ、リーチもある!
ヘカトンケイル相手でも一方的に殴れそうだ。
これならさすがにスタミナ負けはしない。
「グゥオオッ!」
俺は掛け声と共に、大振りの一撃をお見舞いする。
ヘカトンケイルの腹部にまともにぶち当たった。
これは入ったかと思ったが、大槌に重みを感じた。
ヘカトンケイルの多腕が大槌に絡みついていた。
引き離せねぇと思ったら、ガッチリ掴んでやがったのか!
どこまでも面倒な奴だ!
ヘカトンケイルの大剣の刃が、俺の首をまともにぶっ叩いた。
ちいっ!
俺は敢えて受けた衝撃に流されるよう、背後へと飛んだ。
ダメージを押さえつつ、一旦離れて仕切りなおす。
大剣のガードが間に合わなかったのかと思ったが、身体と腕で受けて確実に捕まえるためだったのか!
向こうにダメージは多少通せただろうが、嫌なところに反撃を受けちまった。
意地でも俺を捕まえて、HPの削り合いに持ち込むつもりだ。
俺は〖自己再生〗で首を治癒していく。
ヘカトンケイルの身体ステータスは大したことがないが、それは伝説級の中に限った話である。
気を抜いた瞬間にHPをゼロにされちまうような破壊力はない。
だが、俺でも回復を挟まずに直撃を数回受ければ、あっという間に殺されちまいかねない。
しかし、今までで一番手応えがあるのは〖オネイロスマレット〗、それは間違いないはずだった。
この殴り合いで突破口が見えなければ、絶対にヘカトンケイルには勝てねぇ。
手札が完全にないわけではないが、一発の大技じゃヘカトンケイルは沈めきれない。
そういう意味で、勝ち筋を作れるのは俺の中では〖オネイロスマレット〗だけなのだ。
「グォオオオッ!」
咆哮と共に、二度勢いよく殴りつけてやった。
またヘカトンケイルの巨刃が俺の首狙いで放たれた。
さすがに二度も急所で受けるわけにはいかねぇ。
〖オネイロスマレット〗を片手持ちに切り替え、腕でガードをした。
受ける前から〖自己再生〗でくらう準備をしていたが、部位への直撃を受けるには重い攻撃だった。
身体に腕を付け、衝撃を流す。
逆側に抜けた大剣が素早く切り返され、俺の腹部を穿った。
鱗が裂かれ、血が舞った。
こいつ、剣の動きに無駄がねぇ!
さすが、こんな異形になっても、元は歴代最強格の勇者様だっただけのことはある。
大鎚の重さで動きが遅れたことはあるが、それ以上に技量で負けている。
強引でも、押し切るしかねぇ!
俺は自分の体勢を無視して大鎚でぶん殴る。
ヘカトンケイルのお返しが俺の身体を抉る。
だが、わざわざのけ反ってちゃ追撃を受ける。
俺は痛みを堪え、更に一撃を入れてやった。
またヘカトンケイルは反撃の刃を振るう。
さすがに俺は背後へ逃げた。
その場で堪えれば、威力が受け流せず余計なダメージを負う。
その上で連続で攻撃を受ければ、俺のHPでも簡単に空になっちまう。
ヘカトンケイルは攻撃力が低いとはいえ、やっぱりHP一万との意地の張り合いは苦しい。
この作戦でも、定期的にこちらから引いて回復の機会を作る必要がある。
ヘカトンケイルは追撃に出てこなかった。
俺は安心して〖自己再生〗を行う。
ヘカトンケイルは徹底して攻勢に出てこない。
こちらの攻め方は限定されるが、安全に回復を挟みやすいので悪いことばかりではない。
もっとも、一度〖影演舞〗での追撃に出てきたので、確実に攻撃を通せると判断されればさすがに攻めては来るだろうが、無理をして深追いしてくることはあまりないというのは、覚えておくべきだろう。
しかし、あれだけぶん殴ってやったんだ。
これで二割でも削れていてくれれば、勝ち筋がないわけじゃねぇが……。
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〖ヘカトンケイル〗
種族:ヘカトンケイル
状態:狂神
Lv :140/140(MAX)
HP :9821/10000
MP :9703/10000
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さすがにこれは、洒落になってねぇな……。
俺だって決して軽くないダメージを負っている。
それでたった五パーセントも削れてねえっていうのは、いくらなんでもキツすぎる。
もうちょっとは削れている自信があったが、どうにも回復スキルの効率がこいつは良すぎるらしい。
厄介なのは防御力と体力だけじゃねぇ、一番面倒なのは回復スキルかもしれない。
今のペースだったら、死ぬ気で戦っても三割削るのが限界だ。
こいつ、頑丈ってレベルじゃねぇぞ。
ようやく気が付いた。
俺は今の今まで、ヘカトンケイルを甘く見ていた。
基礎パラメーターの数値が低く、派手なスキルもないからだ。
こんなの倒しようがねぇと思いながらも、頑張ればどうにかなるんじゃねぇか、どうせ機会はいくらでもあるんだから今までの死線と比べりゃ大した相手じゃねぇと、そう思っちまっていた。
伝説級で、レベル最大で、それでこんな甘っちょろい攻撃力であることを、俺はもっと恐れるべきだったのだ。
戦えば戦うほど、ヘカトンケイルが大きくなっていくかのような錯覚さえ覚えていた。
……いや、諦めるんじゃねえ!
まだだ、まだやれることはあるはずだ。
「グゥオオオオオオオッ!」
俺の身体が光に包まれ、巨大化していく。
〖竜の鏡〗である。
スキルによる巨大化を維持するのはMPの燃費が悪く、耐久型のヘカトンケイル相手には自殺行為だ。
だが、ヘカトンケイルにダメージを通すには、攻撃力を根本から引き上げるしかない。
巨大化に従い、体表が紫の鱗に覆われていく。
牙が、爪が、より太くなっていく。
俺はディアボロスの姿になった。
身体に合わせ、〖アイディアルウェポン〗で〖オネイロスマレット〗も大きくする。
この姿であれば、三割近い攻撃力の補正を得ることができる。
MPを一気に使い切るつもりで攻め続けてやる!
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