第606話

 その後、トレントには〖クレイスフィア〗でちょっかいをかけてもらい、アロに仕留めてもらう堅実な戦法がしばらく続いた。

 どうにかある程度まではトレントのレベルを上げることができた。


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種族:ワールドトレント

状態:呪い・木霊化:Lv6

Lv :36/130

HP :1275/2483

MP :7/764

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 ……初期ステよりは遥かに高くなっているが、MPの限界が近づいていた。

 進化してもレベルが上がってもMPは回復しないので、レベリング前から残MP量は危なかった。

 

『主殿……私にも、魔力を分けてくだされ……』


『ああ、好きに持って行ってくれ。ちょっと一旦距離を置いて休憩しよう』


 俺はノロイの木の枝の、高い位置へと逃れる。

 トレントは木霊の身体から木の根を伸ばし、俺の背中へと張り付いた。

 前からあったスキル〖根を張る〗だ。


 お前、木霊の姿でもそんなことができたのか……初めて知ったぞ。


『しかし……本当に防御力は高いな』


 俺はトレントのステータスを確認しながら、そう呟いた。

 他のステータスはそこまでだが、既に【防御力:1120】に到達している。

 ここまで飛びぬけて防御力の高い魔物はあまり見たことがない。


 そろそろB級上位の疫病蝦蟇の攻撃でさえまともにダメージを負わなくなってくるところだ。

 これまでのなんちゃって耐久型じゃねぇ、防御力がずば抜けて高い。

 まだ【Lv:36/130】だから、これからもどんどん伸びていくはずだ。


 まあ……その反面、未だに【攻撃力:309】なんだけどな。

 A+級なのに……とはいえ、物理攻撃力に頼らなければいいだけの話なのだが。

 これ仮にワールドトレント同士で戦ったら、恐ろしい泥仕合になりそうだ。

 決着がつくのに二百年くらいかかるんじゃなかろうか。


『よ、よし、そろそろ回復してきましたぞ……』


 トレントがそう口にしたとき、下から何かが飛び跳ねてきた。

 疫病蝦蟇である。


 俺は身体を背後へ反らす。

 疫病蝦蟇が口から毒煙を吐き出したが、アロが〖ゲール〗で吹き飛ばしてくれた。


「ンゲェッ!」


 疫病蝦蟇もそのまま風で煽られ、地面へと落下していく。

 どうやら〖ハイジャンプ〗で枝を登ってきたらしい。

 ここぞとばかりにカエル感を主張してきやがった。


 見れば、他の個体もぴょんぴょん跳んで向かってきている。

 木の下に疫病蝦蟇がわらわらと集まってきていた。

 こいつら……かなり量が多いな。

 今トレントを落とせば、それなりに纏まった数の疫病蝦蟇が一撃で狩れるかもしれない。


『……トレント、やるか? 最低でも四体は吹き飛ばせるはずだ。一気にレベルを上げられるぞ!』


『はいっ! 任せてくだされ!』


 俺は一気に高度を上げた。

 ワールドトレントが大きすぎて、どこから落とせばいいのかわからないのだ。

 オリジンマターに見つからない程度の高さで……かつ、ユミルに見つからないようにさっと終わらせたい。

 森の木の二倍ほどの高さまで来たところで、空中からトレントを放り投げた。


『いけっ! トレント!』


 一気にワールドトレントの姿に戻った。

 この身体での〖メテオスタンプ〗は初めてになる。

 巨大なトレントが一気に下へと落下していった。


 轟音と共に金属化したトレントが落下していく。

 地面に落ちると大きな地響きを鳴らし、五、六体の疫病蝦蟇を叩き落とした。

 あまりの爆音に、俺は前脚で耳を押さえた。


『……強いけど、やっぱりこれ、ここでは使えねぇな』


「……そうですね」


 アロが下の惨状を眺めながら、俺に同調した。

 こんなもん何発も撃ってたら、絶対やばい魔物がゴロゴロ寄ってくるに決まっている。


 何なら元の世界でも使えねぇ。

 少なくとも、人のいる大陸で使っちまったら、その度に大事件になっちまうことだろう。


『う、動けませぬぞ……』


 トレントは無防備に下部を地面に埋めていた。

 地面がボコボコと崩れ、下から新たに疫病蝦蟇が這い出てくる。

 今の大きさのトレントを落とすためにそれなりに上まで飛んでしまったため、俺達は地面まで大きく距離が開いている。


『っと、急いでトレントを回収しねぇと!』


 俺はそう思い、慌てて下へと向かった。

 だが、トレントは疫病蝦蟇に噛まれたり、舌で殴られたりしていたが、ほとんどダメージを負っていないようだった。

 どうやらほぼ疫病蝦蟇の攻撃を完封できるところまで防御力が上昇したようだった。


『これなら、行けますぞ……!』


 トレントは囲まれながら木の枝を振るい、複数の緑の種を飛ばしていた。

 〖死神の種〗だ。


 疫病蝦蟇はしばらくトレントへと飛び掛かった後、急にぴたりと動きを止めた。


「ヴェッ、ヴェッ、ベッ」


 身体がデコボコとした膨張を始める。

 激しく痙攣した後、内側から木の枝のようなものが伸びて、疫病蝦蟇を破壊した。

 周囲に毒の体液と肉片が飛んだ。

 え、えげつねぇ……。


 本体のレベルも上がっている上に、飛行中とは違い距離も近い。

 そのため効果が現れるのがかなり早くなっている。


「グェエッ!」


 飛び掛かってきた疫病蝦蟇の攻撃を、〖樹籠の鎧〗を纏った枝でしっかりと受け止める。


『〖ウッドカウンター〗ですぞ!』


 身体を撓らせ、〖樹籠の鎧〗で質量を増した枝で疫病蝦蟇を叩き潰した。


「オヴェッ!」


 あ、あのトレント、普通に強い……!


『トレント、やるじゃねぇか!』


『見てくだされ、主殿! やりましたぞっ!』


 トレントが大燥ぎしている。

 B級上位複数相手にここまで一方的に圧倒できるだなんて、今までのトレントでは有り得なかったことだ。

 ついにトレントが開花した瞬間であった。


『ここの蝦蟇共の相手は、このまま私にお任せくだされ!』


 トレントが幹を大きく伸ばしながらそう言った。

 

「私ももう少しレベル上げたい……」


 アロが呟く。


 俺が苦笑しながらトレントを見守っていると、ドシン、ドシンと、音が聞こえてきた。

 最初は気に留めていなかったが、どんどん音の間隔が狭く、大きくなってきている。

 俺が音の方に目を向けると、二つの口を大きく開けて歓喜しているユミルが、遠くからこちらに向かって走ってきていた。


 か、かなり距離を開けたはずだったのに、追いついてきやがった!

 やっぱり〖メテオスタンプ〗がまずかったのだ。


『ふっふ、今の私に怖いものなどありませぬ! このままアロ殿のレベルを超えてしまうかもしれませぬな!』


 トレントはまだ嬉しそうに蝦蟇と戯れていた。


『トレントー! 逃げるぞおおお! ユミルだっ! ユミルが来てやがるんだよ!』


『ほっ、本当ですか!? 主殿ォー! 引き上げてくだされー!』


『早く〖木霊化〗で抜けろ! ワールドトレントを担いで逃げる余裕はねぇぞ!』


 俺は大慌てで木霊トレントを回収し、再び〖転がる〗でその場から逃走した。

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