第599話
俺は沼地を低空飛行しながら〖気配感知〗で探る。
あの得体の知れない赤いヒョロヒョロは、確かに大した速度だった。
だが、来るとわかっていれば対応できねぇほどではない。
攻撃力もそこそこだが、リリクシーラと比べれば全然軽い方だ。
「ギヴァァァァッ!」
デスキャリーの群れが俺へと〖呪焔球〗を放ってくる。
紫の炎の球が俺の背を掠めていく。
「〖ゲール〗!」
アロが暴風を巻き起こし、デスキャリーを吹き飛ばす。
同時に沼地の泥が大きく跳ね上げられる。
紫に輝く鱗を持つ、巨大な蛇が沼の奥に隠れていた。
デスキャリー達と同じく、三つの目を持っている。
コブラの様に胸部が大きく膨らんでおり、エジプト王の棺に似た、黄金の装飾を身に着けていた。
背中からは、蝙蝠に似た大きな翼が広がっている。
『な、なんだアイツ……』
赤いヒョロヒョロとは別か……?
そう考えたとき、紫の蛇が口を開けた。
牙の奥に、不気味に笑う赤紫の顔が見えた。
『まさか、舌に顔があるのか!?』
ぞっとした。
腕がなく、胴体が異様に長く、奇怪な姿だとは思った。
アレは顔のついた舌だったのだ。
しかし、位置は分かった。
俺は空中で動きを止めて身を翻し、前脚を振るう。
〖次元爪〗の一閃でボス蛇がいた周囲を狙った。
沼に大きな窪みが生じ、泥水が舞う。
手応えはなかった。
……姿を晒した以上、そら同じ場所には留まらねぇか。
デスキャリーの群れが放った〖呪焔球〗が五つほど、俺目掛けて飛んで来た。
俺は身を屈めて回避する。
そのとき、沼の表面を突き破り、ボス蛇の舌、赤紫色の人間が飛び掛かってきた。
速いが、すぐに仕掛けてくると思っていた。
今度こそステータスを確認する!
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〖メルホテプ〗
種族:アポピス
状態:狂神
Lv :130/130(MAX)
HP :2154/2154
MP :1765/1765
攻撃力:1842
防御力:1369
魔法力:1756
素早さ:2058
ランク:A+
神聖スキル:
〖畜生道|(レプリカ):Lv--〗
特性スキル:
〖蛇王の鱗:Lv8〗〖グリシャ言語:Lv2〗〖人面舌:Lv--〗
〖HP自動回復:Lv8〗〖MP自動回復:Lv6〗〖熱感知:LvMAX〗
〖忍び足:Lv9〗〖石化の魔眼:Lv9〗〖飛行:Lv6〗〖狂神:Lv--〗
耐性スキル:
〖物理耐性:Lv7〗〖魔法耐性:Lv7〗〖石化耐性:Lv9〗
〖毒耐性:Lv6〗〖麻痺耐性:Lv6〗〖呪い耐性:Lv6〗
〖落下耐性:Lv6〗〖飢餓耐性:Lv6〗〖恐怖耐性:Lv5〗
〖即死耐性:Lv5〗〖混乱耐性:Lv5〗
通常スキル:
〖クレイ:Lv8〗〖病魔の息:Lv8〗〖カース:Lv7〗
〖グラビティ:Lv8〗〖忌み噛み:Lv7〗〖自己再生:Lv7〗
〖穢れの舌:Lv6〗〖ワイドクイック:Lv6〗〖ワイドバーサーク:Lv6〗
称号スキル:
〖最終進化者:Lv--〗〖蛇の王:Lv--〗
〖元魔獣王:Lv--〗〖呪術師:Lv9〗
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
A級上位!
こいつ、元神聖スキル持ちか!
しかし、伝説級じゃなくて助かった。
ここでオリジンマターと同格の奴があっさりと出てきたら、今後ンガイの森での歩き方を考え直さねぇといけないところだった。
A級上位、最大レベルは厄介だ。
おまけにアポピスはデスキャリー共とは違い、速度と攻撃力に長けたアタッカータイプだ。
速さだけなら今の俺に匹敵する。
しかし、攻撃性能に特化している分、打たれ弱い。
ステータス差を活かして一撃で仕留めるのが理想だ。
一対一ならば一瞬で決着をつけられていた相手だ。
だが、アポピスは沼とデスキャリーに隠れて〖人面舌〗で俺を狙ってくる算段らしい。
俺は向かってくる舌に〖次元爪〗を放とうと前脚を構えたが、動きを止めた。
あの舌を切り飛ばしても大したダメージになるとは思えなかった。
致命打を取っても、倒しきれなければおいしくはない。
あんな舌を殴らされてちゃダメだ、本体を直接攻撃する機会を探らねぇと。
「ヴエ!」
アポピスから伸びる〖人面舌〗が口を開いた。
〖人面舌〗の口の奥から黒い煙が広がり、俺の視界を塗り潰した。
これは〖病魔の息〗か!
この〖人面舌〗、ブレス攻撃までできるのかよ!
けったいな身体の構造しやがって!
アポピスの呪いには掛からねぇだろうが、視界が潰されるのは厄介だ。
相手もそれが狙いだろう。
「〖ゲール〗!」
俺の背に立つアロが、俺の顔の先で小さな竜巻を起こした。
竜巻の威力は控えめだ。
ダメージを与えることより、〖病魔の息〗の煙を散らすことが目的だったようだ。
〖病魔の息〗が薄れて、〖人面舌〗の動きが見える。
〖人面舌〗は、左側から俺の身体を回り込もうとしていた。
俺は翼を前に回して、〖人面舌〗の突進を受け止める。
俺の翼に〖人面舌〗が噛みついてきた。
翼が痛い。
〖人面舌〗の歯から、俺の身体に毒が送り込まれていくのがわかる。
俺は毒で痺れる身体を気力で動かし、〖人面舌〗へと前脚の爪を突き立てた。
「ヴッ!」
〖人面舌〗が悲鳴を漏らす。
『捕まえたぜ!』
俺はしっかりと突き立てた爪を喰い込ませ、力任せに振り回した。
最初から俺の狙いはここにあった。
遠距離攻撃を捨てたのは、〖人面舌〗を引っ張って本体を釣り上げるためだ。
一気に〖人面舌〗が重くなった。
ぴんと身体を真っ直ぐに張って、〖人面舌〗は苦悶の顔を浮かべている。
アポピスが頑張って堪えているらしい。
『悪いが、力じゃ俺に圧倒的に分があるぜ!』
俺は前脚に更に力を込めた。
沼地を突き破り、アポピスの巨体が姿を現した。
三つの目を見開き、俺を睨んでいた。
ここまで力に差があるとは思っていなかったらしい。
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