第596話
俺はアロとトレントを背に乗せて、森の中を走っていた。
飛んだ方が速いことには間違いないのだが、空中もまた安全ではないとオリジンマターのお陰でよくわかった。
下手に空を飛べば、あいつにまた目をつけられかねない。
それに塔まで距離があるとはいえ、今の俺の速度であればそう何日も掛からないはずであった。
どの道、塔に辿り着くまでにある程度レベルは上げておきたい。
できればトレントを進化させておきたいんだが……できるかな? できるよな?
俺はちらりと背後を確認する。
トレントは木霊状態で、俺をじっと見つめていた。
『主殿……あんなに言い切ってくださったのに、不安なのですか?』
こ、これだから〖念話〗持ちは……!
『ちっ、違う! そんなに不安じゃないぞ!』
俺はブンブンと首を振った。
「そんなに……?」
アロが俺の言葉を繰り返し、首を傾げていた。
し、しまった!
俺はトレントの方を見ないようにしつつ、前へと向き直った。
と、とにかく、塔に何かしらの現状を打開できるヒントがあるとしても、オリジンマターにさえ勝てなかった俺が、今の状態で元の世界に戻るわけにはいかないのだ。
神の声の〖スピリット・サーヴァント〗はオリジンマターよりも遥かに強かったはずだ。
俺は〖気配感知〗で魔物の気配を拾えば、なるべく大回りして避けることにしていた。
強い魔物であっても、アロとトレントのレベル上げにはあまり美味しくないからだ。
美味しい魔物は、それなりの魔物がいっぱいいることだ。
ケサランパサランのちょっと下くらいのが、いっぱいいるのがありがたい。
んな都合のいいことはなかなか起きないかもしれねぇが、それに近い条件の状況を見つけることは、きっとできるはずだ。
今は俺のレベルよりも、アロのレベリングとトレントの進化、そして元の世界への帰還方法、俺の進化上限を取り払う術を抑えることが先決だと考えている。
俺のレベル上げ自体は、オリジンマターと再戦して勝つことさえできれば、大きく進めることができる。
伝説級モンスターが他にもいるのであれば、レベル上げの手段には困らねぇし、時間もそこまで掛からないはずだ。
……もっとも、勝てるかどうかは別の話になる。
ただ、手段と時間に困らないならば、今はそれだけで優先順位は低い。
何せ〖狂神〗と元の世界の状態という、不明瞭な時間制限があるのだ。
手段も見つからず、時間もどれだけ掛かるかわかったもんじゃねえ他の目的と比べれば、甘っちょろいもんだ。
……しかし、ここでそれなりの強さの魔物の群れなんて、やっぱりそんな都合のいいものは見つけられねぇかもしれないな。
拾う気配、拾う気配、単発のものばかりだった。
甘い考えは捨てて、単独の敵を突破して経験値を集めていくしかないか。
だが、そうなると、トレントのレベル上げはもう、ぶっちゃけ不可能なのだ。
トレントのステータスは格上狩りに向いていない。
逆に機動力と身を守る手段さえ確保できればいくらでも格上狩りができるアロとは、あまりに対照的であった。
だからこそ、トレントのステータスが恐ろしくレベリングに向いていないことが、俺はこれまでも散々にわかっていた。
何ならもう、この世界の仕様にトレントが向いていないとまでいえてしまうかもしれない。
『主殿……』
トレントの寂しげな〖念話〗が聞こえた。
俺は思考を無にして走った。
俺が半ば諦めかけていたとき、〖気配感知〗に無数の気配が引っ掛かった。
俺は口角が緩んだ。
数体いれば美味しいくらいに思っていたが、これはかなり多い。
まだ確認できちゃあいないが、トレントにとってレベリングのしやすい相手になるかもしれない。
い、いや、安心するな、俺!
そんな美味しいことがあるものか。
期待しすぎるな、注意していけ。
こういう油断したときこそ、大外れを引かされる前兆だったりするのだ。
「グォッ!」
気配が近づいてきたところで、俺の前足が地面にめり込んだ。
俺は一度動きを止めた。
俺は先の地面を睨む。
俺が今立っている場所よりもぬかるんでいるように思う。
どうやら、この辺りが沼地のようになっているようだった。
『アロ、トレント、気をつけろ! どうやら、この辺りは敵さんの本拠地らしいぜ』
すぐ近くに気配があった。
迫ってきている。
隠れて接近しているつもりらしいが、俺にはお見通しだ。
そこまで隠匿に長けた相手ではないらしい。
「ギバァッ!」
沼地を突き破り、巨大な頭部が二つ、俺を挟むように出てきた。
俺は沼地を蹴り、強引に空中へと逃れた。
二つの頭部は、口を閉じて宙を喰らった。
青黒い、三つ目の蛇だった。
額にも、縦向きの奇怪な瞳がついている。
頭しか見えていないが、あの大きさだと全長八メートル前後はありそうだった。
そこまで大したことなさそうな奴だが、油断はできない。
まずは、ステータスを確認……!
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:デスキャリー
状態:狂神
Lv :64/100
HP :632/632
MP :453/453
攻撃力:552
防御力:361
魔法力:522
素早さ:660
ランク:A-
特性スキル:
〖HP自動回復:Lv7〗〖熱感知:Lv7〗
〖忍び足:Lv6〗〖石化の魔眼:Lv8〗〖狂神:Lv--〗
耐性スキル:
〖物理耐性:Lv6〗〖魔法耐性:Lv6〗〖石化耐性:Lv8〗
〖毒耐性:Lv5〗〖麻痺耐性:Lv5〗〖呪い耐性:Lv5〗
通常スキル:
〖クレイ:Lv7〗〖病魔の息:Lv7〗〖カース:Lv7〗
〖グラビティ:Lv7〗〖呪焔球:Lv6〗〖忌み噛み:Lv6〗
〖自己再生:Lv6〗〖穢れの舌:Lv6〗〖仲間を呼ぶ:Lv5〗
称号スキル:
〖元魔獣王の下僕:Lv--〗〖最終進化者:Lv--〗〖死を運ぶ大蛇:Lv--〗
〖森に囚われた者:Lv--〗〖呪術師:Lv7〗
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「グォオオオオオオオオオ!」
俺は喜びのあまり、咆哮を上げた。
二体のデスキャリーが、びくっと身体を震わせた。
『あ、主殿、どういたしましたか?』
『来たぞ! 本当に丁度いい敵だ! マジで、こんなことがあるか!』
これまで上手く行きそうな雰囲気のときは、大抵何かしらの落とし穴があるものだった。
だが、デスキャリーは、かなり相手取りやすい魔物だった。
HPが高いわけでもなく、攻撃に特化しているわけでもなく、素早さが長けているわけでもなく、魔法が強力なわけでもない。
バランス型という名の器用貧乏タイプであった。
ぶっちゃけ進化先としてはあまり美味しくない類の魔物だが、敵に回すとこれだけ楽な相手はいない。
ランクもA-という、一番俺の求めていたランクであった。
『喜べトレント! 進化までは怪しいが、結構がっつりレベルを上げられるはずだ!』
デスキャリーが俺の様子を見て身体をプルプルと震わせた後、大口を開けて俺を威嚇した。
「ギヴァァァァアアアッ!」
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