第590話
俺はオリジンマターの周囲を飛び、〖ダークレイ〗から逃げる。
黒い光の線が、俺の尾を掠めた。
俺は息を呑んだ。
威力、射程、連射性能の全てが高いぶっ壊れスキルだ。
だが、一番ヤバイのは、撃っている量に反してオリジンマターのMPがさほど減っていないことだった。
こんな奴相手にするのは無謀すぎる。
オリジンマターの模様の流れがまた変わった。
俺は一気にその場から急上昇する。
俺の足の下に、大きな斬撃が走った。
オリジンマターの〖次元斬〗だ。
今のはどうにか避けられたが、こんなの続けていたらいつかブチ当たるに決まっている。
〖ダークレイ〗による高火力範囲攻撃の乱打に加えて、〖次元斬〗を用いて俺の隙を突いてくる。
とんでもなく嫌な攻撃だ。
一番最悪なのが、これでオリジンマターの本分が遠距離攻撃ではなくその耐久力にあるということだ。
HPが馬鹿高い上に、防御力がぶっちぎりで過去最強レベルだ。
こいつを倒すには、どうにか一方的に攻撃できる手段を見つけるか、近接スキルが薄い弱点を突いて正面から殴りまくってゴリ押しするしかない。
現状、一方的に攻撃できるような手段は見つかりそうにない。
ゴリ押しするにも相手がまだまだスキルを見せていない上に、そもそもステータスで劣るためあまりに不利だ。
『アロ、トレント、撤退するぞ!』
無理にオリジンマターと戦う理由はない。
奴は俺に素早さで大きく劣る。
相手が遠距離持ちなのは怖いが、戦うよりも逃げる方が分があることに違いはない。
俺は〖ダークレイ〗から逃れるためにオリジンマターを中心に円を描くように飛び回っていたが、黒の光線の弾幕が薄くなった瞬間を狙って大きく外へと逃れ、一気に地上を目指した。
『……オリジンマター、俺がもっと強くなったら、またお前をこの森から解放しに来てやるよ』
俺は背後へ目を向ける。
オリジンマターは〖ダークレイ〗を連射しながら俺を追ってきている。
『やっぱし、素直に逃がしちゃくれねえか!』
俺は左右上下に飛び回り、〖ダークレイ〗を掻い潜る。
俺は地上に目を落とす。
地上に落ちた黒い光が、巨大な木々を薙ぎ倒しているのが見えた。
射程距離がどう考えてもヤバすぎる。
こいつ一人で元の世界が吹き飛びかねない。
こいつよりヤバいのが、四体もあっちには送られてるのかよ……。
一刻も早く、オリジンマターを倒せるだけの力を身に着けて、向こうの世界に帰らなければならない。
しかし、直線で逃げていればいずれは〖ダークレイ〗をぶち当てられかねない。
俺は斜めに軌道を変え、迫りくる〖ダークレイ〗を振り切った。
俺は背後へと目をやった。
距離は順調に開けてきている。
離れれば離れるほど〖ダークレイ〗に対応するのに必要な反応時間が長くなり、対応が楽になってきていた。
よ、よし、この調子ならばどうにかなりそうだ。
幸い、オリジンマター自体の速度はそこまで速くない。
この調子ならばいずれは逃げ切れるはずだ。
……そう考えていると、唐突にオリジンマターの〖ダークレイ〗の連射が途絶えた。
もしや諦めてくれたのだろうか。
そんな甘いことを考えていると、オリジンマターの模様の動きが、また大きく変化したのが目についた。
こ、今度は、何をやるつもりだ……?
オリジンマターを中心に、黒い光が広がった。
俺の飛行が、止まった。
オリジンマターに引っ張られている。
俺が前に進もうとする力を打ち消すかのように、オリジンマターから強大な引力が発せられている。
【通常スキル〖ブラックホール〗】
【自身を起点に、強大な引力を放つ重力魔法。】
〖グラビティ〗の、自分に引っ張る版とでもいったところか!
近距離には大して自信がなさそうなステータスのくせに、とんでもねえスキルを持っていやがる!
ただ、拘束力が強い代わりに、使用中はオリジンマター本体もまともに動けないようだ。
「きゃっ!」
『あ、主殿ぉっ!』
アロとトレントが、俺の背から離れた。
俺は慌てて〖竜の鏡〗で〖ウロボロス〗の姿へと自分を変化させ、同時に一瞬で反転した。
首をせいいっぱいに伸ばし、アロとトレントを別々の口で捕まえた。
『よっよし、確保!』
だが、そのせいで俺の飛行移動が完全に止まった。
俺の身体はオリジンマターへと引き付けられていく。
な、なんつー強力な引力だ!
こんなもんあったら、たとえ相手がどれだけ遅くても逃げられる気がしねぇ!
……こうなったら、勝負に出るしかねえか。
〖ブラックホール〗は相手を吸い寄せる代わりに、むしろ弱点を晒すことになるはずだ。
発動中はまともに動けねぇみたいだし、こんな大技さすがにMP消耗も激しいに決まっている。
それにオリジンマターは、相手と密着してもどうせ〖ダークレイ〗と〖次元斬〗くらいしかできないはずだ。
ヤバそうな近接スキルは、特には見つからない……。
【特性スキル〖冥凍獄〗】
【黒い光の渦に敵を取り込み、封印する。】
【対象は時の流れから見捨てられる。】
【光の奥では時間が動かないため、対象は逃げ出そうと試みること自体ができない。】
オ、オリジンマターに取り込まれたら終わりだ!
俺は素早く身体を翻し、翼を羽搏かせた。
段々と吸い込まれる速度を落としていくことには成功したが、かなりオリジンマターにまた近づいちまった。
俺は背後に前足を伸ばして〖次元爪〗を放った。
飛行が乱れてまたオリジンマターに吸い寄せられた。
一方オリジンマターは、俺の爪撃を受けてもピンピンしていやがる。
体表の光が微かに崩れたが、すぐにまた再生していくのだ。
痩せ我慢しやがって!
そう何発も受けられねぇだろうがよ!
俺は続けざまに二度、大振りを放った。
オリジンマターの体表に、大きな二つの傷が走った。
俺の態勢が乱れ、一気にオリジンマターに吸い寄せられる。
だが、そのとき、周囲の黒い光が消滅した。
オリジンマターが〖ブラックホール〗を解除したらしい。
よ、よし、〖ブラックホール〗は強力だが、そこまで万能じゃねえ。
対抗しながら遠距離攻撃を撃てばいいだけだ。
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