第589話

 俺は向かってくる黒い球体へと意識を向ける。

 とにかく、アイツの情報を手に入れねぇと始まらない。


【〖オリジンマター〗:L(伝説)ランクモンスター】

【原初の世界にも存在したとされる謎の球体。】

【高次元世界から降りてきたともいわれている。】

【次元や光に関係する強力な魔法を操ることができる。】

【また、球体の奥では時間が止まっており、球内に取り込んで相手を封印することもできる。】


 な、なんだ、この出鱈目な魔物は……。

 高次元世界? 時間が止まってる?


 当たって欲しくはない予想だったが、思った通り伝説級モンスターだった。

 ンガイの森を舐めていた。

 こんな平然と伝説級モンスターまで出てきやがるのか。

 無限に広がる巨大樹の森に天を貫く塔に続き、A+モンスターの群れ、終いにはこんな莫迦げた魔物まで現れやがるとは思わなかった。


 伝説級は神聖スキルがなくても用意できたのか?

 いや、そんなはずがねぇ!

 スライムの奴は神聖スキルなしで伝説級に進化したせいで、〖崩神〗スキルで身体が崩れ落ちて死んだんだ。


 だが、こんなところに追いやられているということは、きっと〖狂神〗状態に陥っているはずだ。

 伝説モンスターであったとしても、神にこのンガイの森に廃棄されたような奴だ。

 さっきの魔法の一発屋で、案外そこまで強くはないのかもしれねぇ。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

〖ドロシー〗

種族:オリジンマター

状態:狂神

Lv :140/140(MAX)

HP :5524/5524

MP :6397/6535

攻撃力:1852

防御力:3245

魔法力:4999

素早さ:1721

ランク:L(伝説級)


神聖スキル:

〖畜生道|(レプリカ):Lv--〗〖餓鬼道|(レプリカ):Lv--〗


特性スキル:

〖グリシャ言語:Lv5〗〖気配感知:LvMAX〗〖MP自動回復:LvMAX〗

〖飛行:LvMAX〗〖冥凍獄:Lv--〗〖狂神:Lv--〗


耐性スキル:

〖物理耐性:LvMAX〗〖魔法耐性:LvMAX〗〖状態異常無効:Lv--〗

〖火属性無効:Lv--〗〖水属性無効:Lv--〗〖土属性無効:Lv--〗


通常スキル:

〖ハイレスト:LvMAX〗〖人化の術:LvMAX〗〖念話:Lv9〗

〖ミラーカウンター:LvMAX〗〖ミラージュ:LvMAX〗〖自己再生:LvMAX〗

〖次元斬:LvMAX〗〖ブラックホール:LvMAX〗〖ダークレイ:LvMAX〗

〖ワームホール:LvMAX〗〖ビッグバン:LvMAX〗


称号スキル:

〖原初の球体:Lv--〗〖最終進化者:Lv--〗

〖元魔獣王:Lv--〗〖元聖女:Lv--〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 俺の願いは、容易く打ち砕かれた。

 この黒球は、明らかに俺よりステータスが上だ。


 俺は【魔法力:4615】だが、オリジンマターは【魔法力:4999】だ。

 こんなもん、俺だって魔法の直撃を回復を挟まずに二度受ければ、一気にHPを削りきられかねない威力だ。


 あのとんでもない魔法の範囲と威力も、これを見れば納得がいく。

 俺はまだ【Lv:125/150】なので、そこの差が大きいのかもしれねぇ。


 得体の知れない不気味なスキルはいくつもあるが……真っ先に気にかかったのは、奴の持っている神聖スキルであった。


【神聖スキル〖畜生道|(レプリカ):Lv--〗】

【〖畜生道〗のレプリカ。】

【このスキルそのものに力はないが、畜生道によって進化させた個体の劣化や崩神化を限定的に妨ぐことができる。】


 ……これを見て、なぜオリジンマターが伝説級のまま存在し続けることができているのかがわかった。

 恐らく神の声が、何らかの手段でラプラスとやらを騙して造りあげたのがこのレプリカスキルなのだろう。


 目的は恐らく、表の世界の経験値が足りなくなったときに俺の様な奴の餌にするためだ。

 オリジンマターのステータスを見るに……こいつは、数千年前の魔獣王だったのだろう。

 レプリカスキルで強引に命を繋ぎとめさせられ、管理しきれないため万が一にも反抗できないように狂神で思考力を削がれているのだ。


 そうしてこいつは、いつ終わるのかわからない狂神の悪夢に苛まれながら、このンガイの森をいつか殺されるためだけに彷徨い続けている。

 ……俺も、アロやトレントも、きっとここを脱出できなければ、同じ目に遭わされるに違いない。


 神の声がとんでもねぇ奴なのはわかっていた。

 だが、奴の痕跡を少しでも知っていく内に、その度にあいつの身勝手さに吐き気がする。


 きっとオリジンマターだけじゃねぇ。

 この森には、オリジンマターと似たような目に遭わされて森を徘徊し続けている奴が、きっとたくさんいるはずだ。


 俺はオリジンマターから距離を保ちながら、最高速で飛び回る。

 オリジンマターから放たれる無数の黒い光が襲い来る。

 俺を掠め、地上へと光が落ちていく。

 

 恐らくこのスキルは〖ダークレイ〗とやらだろう。

 ……距離を保っている間はどうにか避けられるが、全く近づける気がしねぇ。


 アロと同じタイプだ。

 オリジンマターは攻撃力と速さに欠けるが、結局MPがある限りは魔法が万能なのでそれがほとんど弱点になっていない。


「〖ダークスフィア〗ッ!」


 三人のアロが、同時に〖ダークスフィア〗を放った。

 だが、今の俺には移動してアロの攻撃を援護するだけの余裕がない。

 三つの〖ダークスフィア〗はあっさりと回避されていた。


『このっ!』


 俺はその回避に合わせて〖次元爪〗を叩き込んだ。

 指先に、確かに当たった感触があった。


 だが、オネイロスの〖次元爪〗を受けてなお、ほとんど動じていない。

 ダメージが通っていないわけはないが……こいつ、あまりにタフすぎる。

 俺も〖ダークレイ〗を回避しながらなので、いまひとつ力が乗っていないようだ。


 逃げ回りながらどう攻めるべきかと考えていると、オリジンマターの体表の模様の流れが変わった。

 何事かと注視していると、肩に激痛が走った。


 しまった! これはさっきスキルにあった、オリジンマターの〖次元斬〗だ!

 俺は身を翻し、どうにか斬撃を浅く逃れる。


 危なかった……。

 直撃をもらっていれば、それだけで地上へ叩き落とされていたかもしれねぇ。


 オリジンマターの〖次元斬〗は、狙っている箇所が全然わからない。

 おまけにこっちは〖ダークレイ〗の連射のお陰で、ほとんど一か所に留まることができない。


 俺は逃げながら、背のアロ達へとちらりと顔を向けた。

 ……今の俺は、オリジンマターと戦うべきじゃねえ。


 俺のレベルではまだオリジンマターと対等に戦えない。

 勝機がないことはないが、泥仕合に持ち込むしかない。

 そうなると、アロとトレントはまず無事では済まない。

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