第588話
一体目のケサランパサランを倒した俺達は、続いて二体目のケサランパサランの討伐に掛かっていた。
俺の上では、三人に分身したままのアロが、ケサランパサラン目掛けて〖ダークスフィア〗を撃ち続けている。
低レベル帯を抜けたアロの魔法攻撃は一層強力になっている。
既に【魔法力:888】から【魔法力:1538】へと上がっている。
レベル上の相手とはいえ、ランクは同じA+だ。
俺が補佐して一方的に攻撃できる機会を作れば、このままあっさりアロだけでも仕留め切れちまいそうな勢いだ。
『……すげぇな、アロは。分身して撃ってるだけで、同ステータス程度の相手なら手出しのしようがないんじゃないのか?』
「維持にも魔力を使っているみたいですし……あまり、私ほど速くは動けないみたいです。一対一だと、下手に使うと魔力を捨てるだけになるかも……」
アロは三人掛かりで〖マナドレイン〗を用いて俺の魔力を吸い上げながら、そう言った。
……確かに、俺も予想以上に魔力をアロに持っていかれてちょっとびっくりしている。
あまり燃費はよくないかもしれない。
分身体を回収できなければ魔力が大損になる、という説明も確かあったはずだ。
『〖熱光線〗ンンンッ!』
トレントも隙あらば〖熱光線〗でケサランパサランを攻撃している。
だが、ケサランパサランもアロの〖ダークスフィア〗は警戒し、俺とアロの動きを読んで避け始めているのにも関わず、〖熱光線〗はさっきから完全に無視で当たりまくってくれている。
『トレントッ! 〖ガードロスト〗に専念してくれ! 多分そっちの方が経験値が入るぞ!』
『しかし主殿っ! 〖ガードロスト〗だけではあまり経験値が入らないのです! やはりダメージを与えねば!』
『でも〖ガードロスト〗の方が経験値が入るんだ! わかってくれ!』
……アロに進化の先を越され、ばかりかアロがぐいぐいとレベルを上げていくためか、トレントは迷走しつつあった。
悪いが、トレントの〖熱光線〗ではケサランパサランにまともにダメージが通っていないのだ。
この世界は耐久型が弱いとは言わないが、色々な面で不遇すぎる。
『私も心ではわかっているのです! しかし……しかし……! 主殿、私はどうすればいいのですか!?』
『〖ガードロスト〗を撃ってくれ!』
『それはわかっているのです!』
「……わかってるなら、竜神さまに従って」
アロが呆れ気味に口にした。
トレントのステータスが悪いわけじゃあないんだ。
もっと単純に、多分、俺達の状況とトレントのステータスが致命的に噛み合っていないんだ。
トレントは最大火力が低いので、レベル上の相手に挑むのに向いていない。
俺がそれを上手く補ってやれるスキルも持っていない。
『あ、主殿、私をもっと上空へ連れて行ってくだされ! 〖メテオスタンプ〗をお見舞いしてやります!』
『無謀だ! この高さだぞ!? お前っ、ここから落ちたら助からないって散々言ってただろ!』
『わ、私も、木霊状態なら一応飛べますぞ! 空中でさっと解除して、落下の衝撃を和らげられれば……!』
その必死さは一体どこから来るのか……。
『どの道、空飛びまわる相手にアレぶつけるのは不可能だ! 無駄に地面に突き刺さるぞ! 今回は諦めて、地上の相手にやろう、な?』
『いいことを思いつきましたぞ! 私は〖スタチュー〗で鋼鉄化するので、主殿はそれで奴らを引っ叩いてください!』
……本当にそれはいいことなのか?
トレントは俺と問答をしている間も、諦め悪く〖熱光線〗を撃ち続けていた。
「えいっ!」
アロの三連〖ダークスフィア〗を、ケサランパサランは側部でまともに受け止めた。
ケサランパサランの体液が飛び散り、動きが鈍くなってきた。
そろそろ二体目のケサランパサランも倒せそうだ。
『いいぞ、アロ、後一撃……!』
そのときトレントの〖熱光線〗が、ケサランパサランの体表が剥がれているところへと綺麗に入っていった。
ケサランパサランの傷口から体液が一層激しく溢れ、白い綿を散らして地上へと落ちていった。
『や、やった! トドメを刺せましたぞ! あ、主殿、見ましたか? 今っ、私の〖熱光線〗が! これでちょっとは多く経験値が入ったのでは!』
喜ぶトレントに反し、三人のアロは複雑そうな表情で、落下していくケサランパサランを眺めていた。
「私がほとんど減らしたのに……」
……まあ、なんにせよ、アロの〖ワルプルギス〗での初狩りが手頃な相手でよかった。
この調子なら残ったもう一体も楽に狩れるはずだ。
トレントのレベルだってちょっとは上がるだろう。
それに、ここがどういう場所なのかっつうことや、出てくるのがせいぜいA+だということがわかったのはありがたかった。
ここは神の声が余った強力な魔物を閉じ込めておくための異空間だ。
目的は恐らく、俺みたいな奴のレベル上げ用だ。
そして神の声も、伝説級の魔物は簡単には用意できない。
後生大事に〖スピリット・サーヴァント〗で保管してる歴代最強の四体が、恐らく奴が自由にできる唯一の伝説級の魔物だ。
さすがにそうぽんぽんと〖ルイン〗や〖ホーリーナーガ〗級の化け物が出てこないとわかって俺は安心した。
そのとき、嫌な予感がした。
遥か空の上から、何かの視線のようなものを感じたのだ。
ケサランパサランの放つ気配より遥かに強大であった。
次の瞬間、天より黒い光線が放たれてきた。
〖熱光線〗に似ているが、あれより細かく、何よりも数が多い。
俺達へと雨の如く降り注いで来ていた。
『あ、あああああ、主殿ォッ! これはまずいですぞ!』
『しっかり捕まれよ!』
俺は飛行速度を上げ、黒い光線の嵐から逃れる。
回避しきれなかったケサランパサランは黒い光に貫かれ、球体の身体を膨張させて破裂した。
緑の体液が飛び散っていた。
俺は視界の隅でその光景を捉え、開いた口が塞がらなかった。
あ、あんな範囲攻撃で、A+級の魔物をたった一撃で!?
明らかに相手は伝説級だ。
俺は空を見上げた。
大きな黒い球体があった。
ケサランパサランの倍近い全長がある。
体表には細かく光の線のようなものが渦を巻いており、それらは流動的に変化している。
見ても、どういう生き物なのかさえさっぱりわからなかった。
ただ、明らかにヤベェ奴だと肌で感じた。
案外簡単にここを脱出できるかもしれないと、そう思った直後にこんな化け物が出てくるとは思わなかった。
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