第587話
俺は空を飛び回り、ケサランパサランの〖熱光線〗を回避し続ける。
動きは見切れる。
後はこいつらをアロとトレントに攻撃させよう。
アロを進化直後の低レベル帯から脱させて……トレントも、さっさと進化まで持っていってやりたい。
「竜神さま……その、何か気になることでもありましたか?」
アロが声を掛けてくる。
……〖狂神〗を見つけた苛立ちが、様子から伝わっちまったのかもしれねぇ。
『……後で話す。今は、こいつらを片付けるぞ』
「はっ、はい!」
レベル上げのために元々そうする予定だったが……ンガイの森の奴らは、〖狂神〗から解放してやらねぇといけない。
『任せてくだされ! わっ、私も、やりますぞ! そろそろこの高さにも慣れてきましたからな!』
背の方に、赤い光が灯ったのを感じた。
俺が目を向けると、トレントが赤い光を帯びていた。
な、なんだかシュール……。
『教えてやりましょう! 〖熱光線〗を使えるのは、あちらだけの特権ではないことを!』
トレントから放たれた赤い光線が、ケサランパサランへと直撃した。
球の上部から下部に掛けて、一列に光が走った。
奇妙な白い綿のようなものが辺りに舞った。
『どうですか主殿!』
俺はちらりとケサランパサランのステータスをチェックする。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:ケサランパサラン
状態:狂神
Lv :94/130
HP :2268/2284
MP :1321/1414
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……あんまりHPは減っていなかった。
け、結構持続して当たってたんだけど、十六ダメージくらいか……そうか……。
まあ、そうだよな。
トレントはランク下だし、レベルでも負けてるし、何より攻撃に特化したタイプじゃないから格上相手に打点を取れないのはいつものことだし……。
『これは入りましたぞ! 手応えがありました』
『ありがとうトレント! 次はもうちょっと近くに行くから、〖ガードロスト〗とか〖アンチパワー〗とか、状態異常スキルを撃ってもらえるか? あれでも経験値は入るはずだ!』
『あ……はい、わかりましたぞ……』
トレントは俺の言葉から察したらしい。
露骨に落ち込んでいるのが〖念話〗から伝わってくる。
……ごめんな、トレント。
でも多分……何回〖熱光線〗放っても、この調子だとまともに経験値は入らねぇからさ……。
「竜神さま! あの……魔力を少し、お借りしても?」
アロの呼びかけに、俺は頷いた。
アロは俺の魔力を吸った直後は、一時的に魔法攻撃力を高めることができる。
アロが両手を俺の背へとつける。
アロの〖マナドレイン〗で、微量ながらに魔力が抜かれていくのを感じる。
俺は自分の背の方をちらりと確認する。
アロが青白い光を纏っていた。
オネイロスの魔力を一時的に得たためだろう。
「〖暗闇万華鏡〗!」
アロが黒い光に包まれて輪郭が朧気になり、三体の姿に分かれた。
あれは〖ワルプルギス〗に進化して得た、分身系統のスキルだ。
三体が同時に腕を掲げる。
手の先には、黒い光が球体を成していた。
〖ダークスフィア〗だ。
「手前の奴狙うね!」
「わかってる!」
アロ同士が掛け声を上げる。
三つの〖ダークスフィア〗が同時に放たれ、宣言していた手前のケサランパサランへと飛んでいく。
一発目、二発目、三発目が続けて白い体表へとヒットする。
一発ごとに大きく身を震わせて奇妙な綿を飛ばし、三発目を受けた時には緑色の体液を噴射していた。
「オ、オォ、オオオオオオオオ!」
奇妙な鳴き声を上げる。
あ、あいつ、口とかあるのか……?
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:ケサランパサラン
状態:狂神
Lv :94/130
HP :2085/2284
MP :1299/1414
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
お、おおっ!
百以上のダメージを削っている!
たったのレベル1でここまで削れるのは強い。
これならば、続けていけばかなり経験値が配分されるはずだ。
『効いてるみてぇだぞ! このままガンガン攻撃していってくれ!』
「はいっ!」
三体のアロが、声を揃えて嬉しそうに答える。
ハイタッチをしている姿がちらりと見えた。
……分身体のそれぞれに自我があるって、そういうことなのか。
三体のアロが喜び合っている微笑ましい様子を、トレントが死んだ目で眺めていた。
『ト、トレントは、その……状態異常魔法を頼む、な?』
『……そうですな、アロ殿がダメージを通しやすくなりますからな』
『そ、そう腐らないでくれ、頼む』
その後はトレントにひたすら〖ガードロスト〗を放ってもらい、アロには三人並んでの〖ダークスフィア〗を撃ってもらった。
半分以上HPが削れたところで、俺は〖次元爪〗を放った。
白い球体が大きく抉れて緑の体液を噴射し、下へと落下していった。
【経験値を5358得ました。】
【称号スキル〖歩く卵Lv:--〗の効果により、更に経験値を5358得ました。】
【〖オネイロス〗のLvが124から125へと上がりました。】
よし、まずは一体目を撃破した。
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名前:アロ
種族:ワルプルギス
状態:呪い・魔法力補正(大)
Lv :51/130
HP :49/69
MP :347/2208
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い、一気にレベルが五十も上がっている!
〖魔王の恩恵〗で取得経験値が倍になっているとはいえ、凄まじい。
さすがレベル上げに強い、格上狩りのステータスを持っているだけのことはある。
『アロ、すげぇぞ! 一気に五十レベルも上がってる!』
「本当ですか!」
「やったぁ!」
三体のアロが各々に喜ぶ。
に、賑やかでよろしい。
なんだか違和感凄くて、落ち着かねぇけど。
『あ、主殿! 私は、私は……!』
トレントが必死に尋ねてくる。
こ、これ、見ねぇとダメか?
なんだか辛いんだが。
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種族:タイラント・ガーディアン
状態:呪い・木霊化Lv4
Lv :69/85
HP :374/769
MP :318/318
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
み、三つしか上がってねぇ……。
いや、レベルって終盤で一気に上げづらくなってくるしこんなもんなんだけど、アロが一気に五十レベル上がったの見た後だと、なんだか、こう……。
いつもトレントってどうやってレベル上げてたんだっけ?
わからない。いつもやっていたはずのことが、わからなくなってきた。
レベル上げるのってこんなに難しかったのか。
『主殿……私は……?』
『い、五つ……いや、三つだ……』
『……なぜ一度、二つ値を盛ったのですか主殿?』
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