第567話
リリクシーラの二撃目の〖アパラージタ〗の斧の攻撃が振り下ろされる。
俺は残った左側の〖オネイロスフリューゲル〗を前に放り投げ、尾でその背面を殴りつけてリリクシーラへと飛ばした。
俺はその反動で後方に飛びつつ、〖自己再生〗と〖ハイレスト〗による回復を続けていく。
リリクシーラの〖アパラージタ〗の斧が、俺が弾き飛ばした〖オネイロスフリューゲル〗の左半分を下へと叩き落とした。
一瞬で破壊されたが、リリクシーラの攻撃を中断できたのは大きい。
咄嗟に出せる大盾というだけで充分価値がある。
ここまで、俺とリリクシーラの戦いはMPを削る戦いであると考えていた。
お互いに最大HPが高く、耐性スキル・回復スキルが豊富であるためだ。
HPを削りきられる前に回復スキルを挟むことができる。
だが……先ほどの攻撃は、俺のHPを最大から一気に削り切りかねないダメージを叩き出して来た。
〖チャクラ覚醒〗に〖アパラージタ〗の大斧の大振り、属性相性、そして正面からの直撃が噛み合った結果であろうが……条件さえ整えば一気にHPを削れるというのは、決して無視できる情報ではない。
〖アパラージタ〗は変幻自在であるし、〖神仙縮地〗も応用の幅が広すぎる。
出たスキルを一通り見たからと言って攻撃パターンを網羅できたと考えるのは安易すぎる。
俺の想像していなかった方法で高火力を叩き込んでくる可能性も見るべきだ。
〖チャクラ覚醒〗状態のリリクシーラは、俺のHPの大半を一撃で削れる攻撃力を持っている。
そう考えて動くべきだろう。
……ならば、多少MPが嵩んだとしても、常にHPを最大でキープしておく必要がある。
リリクシーラの身体がぐらりと揺らいだ。
さっきの衝突でこっちからダメージは与えられていないが、〖チャクラ覚醒〗の負荷が掛かっているのかもしれねぇ。
距離を置いて回復を続けながら〖次元爪〗を三発放った。
リリクシーラの姿が、消えたり現れたりを繰り返す。
……近接で行動を制限しねぇと、とてもじゃねぇが捉えられないか。
現れたリリクシーラの手許から、〖アパラージタ〗の大斧が消えていた。
俺は宙に突然現れた光の大斧へと目を向ける。
複雑な回転をしながら、真っ直ぐに俺へ向かってきている。
〖神仙縮地〗に紛れて、こっちに投げ付けて来やがった!
同時にリリクシーラは、再び〖アパラージタ〗で四つの腕にチャクラムを構えている。
俺は〖竜の鏡〗でベビードラゴンに姿を変えて高度を上げる。
俺のすぐ下の空間を〖アパラージタ〗の大斧が刈り取った。
リリクシーラが中距離主体で〖アパラージタ〗を用いて攻めて来るのなら、この姿で避け続けるのが一番だ。
奴にとっても、〖チャクラ覚醒〗の負担は無視できねぇはずだ。
チャクラム投擲に紛れて〖神仙縮地〗で距離を詰めて来る恐れもあるが、そのパターンはさっき一度目にしている。
次来たときは、さっきよりも上手く対応できる。
この選択も苦しい戦いにはなるが、あの〖チャクラ覚醒〗リリクシーラに正面から飛び込むのは得策じゃねぇ。
向こうが自分から白兵戦を仕掛けるつもりがないというのなら、こっちも逃げに徹するまでだ。
逃げる俺を、リリクシーラが追って来る。
〖神仙縮地〗は使っていない。
タイミングを計っているのだろう。
そのとき……俺の〖気配感知〗が、何かが近づいてくる気配を拾った。
この方角だと合流する。
恐らく人間……それも、空を飛ぶ魔物に乗っている。
……ヴォルクと、黒蜥蜴か?
考えたくはないが、ハウグレーという可能性もある。
この状態でぶつかるのは好ましいとは言えない。
ヴォルク達であったとしても、彼らのステータスでは今のリリクシーラと交戦するのはほぼ不可能だ。
正直、俺の取れる行動の方が、制限されてしまう。
ハウグレーであれば、合流するべきでないことは言わずもがなである。
俺はあの奇妙な動きに対応できなかった。
速度で振り切って戦いに付き合わないという手もあるが、そうすればハウグレーの周辺がリリクシーラの安全地帯となってしまう。
俺もリリクシーラから距離を置いてはいるが、完全に振り切って逃げるつもりはない。
リリクシーラにとってもこの戦いを中断させたくはないはずだ。
リリクシーラからしてみれば、今回は世界中から俺への対抗戦力を集め、自身の進化を利用して効率的に俺のMPを削れた戦いなのだ。
次は今回よりも戦力は落ちるだろうし、〖転生の脱皮〗の悪用や、〖神仙縮地〗の初見殺しも俺には通用しない。
そして俺としても、こんな戦いを何度も続けられていればアロ達が全員無事で生き延び続けられるとはとても考えられない。
この場でリリクシーラと、少しでも早く決着をつけたいのだ。
目前の気配と合流すれば不利になる。
だが……軌道を変えるわけにはいかない。
俺は後方に目を向ける。
「フフ……私に、運が向いたようですね」
リリクシーラが大きく裂けた口を開いて笑う。
リリクシーラにとって、合流相手が敵であっても味方であっても関係はない。
敵ならば攻撃を仕掛けて俺が守らざるを得なくして、味方であればそのまま戦力にする算段なのだろう。
だったら俺は、先に合流するしかねぇ!
俺は飛行速度を上げた。
「私がそれを許すと、そう思っているのですか?」
リリクシーラの周囲の空間が歪み、一気に距離を詰めてきた。
同時に手から四つの〖アパラージタ〗のチャクラムを放つ。
こっちもいい加減、対応には慣れて来たんだよ!
俺はリリクシーラ本体が〖神仙縮地〗で強襲してくるのを警戒しながら不規則に飛んで動きを読まれないようにする。
〖神仙縮地〗を用いた投擲武器の軌道変更にも、多少は頭が追い付いて来た。
複雑に見えて、案外パターン自体は多くない。
理解はできている。後は、いくら咄嗟に対応できるかと、脳のリソースをどれだけリリクシーラに残せるか、だ。
この座標なら、三つの〖アパラージタ〗のチャクラムの軌道には引っ掛からない。
リリクシーラの口許に微かに笑みが浮かんだ。
あいつの考えはわかっている。
四つ目のチャクラムの動きはわからなかったが、ここが空いているのが安易に見切れた以上、リリクシーラに誘導されたと考えるべきだろう。
『〖アイディアルウェポン〗!』
俺は〖オネイロスフリューゲル〗を自身の横に浮かべた。
横から飛来してきた〖アパラージタ〗のチャクラムが、オネイロスの両翼によって妨げられた。
〖オネイロスフリューゲル〗は大きく窪んで崖下へと落下していく。
どうせ今の身体で支えるのは面倒だったので、元より使い切りのつもりだ。
MPは嵩むが、身体を治すよりはマシだ。確実に攻撃を凌ぎ続ける。
リリクシーラ相手に雑な守りや攻撃は許されない。
そこを読んでカモにされ続けるだけだ。
俺も普段以上に慎重に動く必要があった。
リリクシーラの〖チャクラ覚醒〗が機能している以上、わざわざ俺から攻めるつもりはない。
守りに徹して、焦れたリリクシーラを確実に叩く。
俺が更に上方に逃げようとしたとき、俺の〖気配感知〗が、第三者がすぐそこまで来ていたことを教えてくれた。
俺はリリクシーラから距離を取りつつ、上方の人物を確認するために顔を上げた。
金の短髪、三白眼の女が、騎竜の上で空へ剣を掲げていた。
「〖ルナ・ルーチェン〗!」
十の光弾が、リリクシーラのチャクラムを避けきったばかりの俺へと向かってきた。
二発、被弾した。
翼に熱が走る。
ベビードラゴンになって俺の防御力は大幅に減少しているが、どちらにせよ大したダメージにはならなかった。
〖ルナ・ルーチェン〗は数に頼った遠距離攻撃のスキルであり、明らかに牽制用の技だ。
そのため威力が弱いということもあるだろうが、ベビードラゴンの薄い翼さえまともに貫けずにいる。
わざわざ何しに来やがったんだ。
今更アルヒス単騎で乗り込んできて、どうにかなる戦闘じゃねえのは本人が一番わかっていたはずだ。
言っちゃ悪いが、リリクシーラから的にされかねないアロ達や、相手の戦力になると厄介なハウグレーでなくてよかった。
リリクシーラもアルヒスが乗り込んでくるのは予想していなかったらしく、眉間に皺を寄せて彼女を睨んでいた。
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