第562話

 ウロボロスに化け、双頭の片割れを囮に用いる策が通った。

 見事、リリクシーラを牙で捕らえることに成功した。


 ウロボロスには化けているが、無論、相方が帰ってきたわけではない。

 どちらの首も俺が操っているだけだ。

 だが、少しだけアイツが帰ってきたような、そんな気がした。


 サンキューな、相方。

 本当に、いつも助けられていたな。


 今だって、相方の影響がなければ、堅実なリリクシーラ相手に賭けに出て一気に飛び掛かるような策は取れなかったかもしれねぇ。

 それに、策の中心になったのは間違いなくウロボロスだった。

 あの進化を選んでいなければ、咄嗟にこんな作戦は思いつかなかった。


「ぐっ……!」


 リリクシーラはもがき、四つの腕で俺の頭部を殴打する。

 牙が折れ、骨が歪むのを感じる。


 〖ホーリーナーガ〗は素手で戦うタイプの魔物ではないとはいえ、伝説級というだけはあった。

 これまで会ってきたどの魔物よりも凶悪な連打だった。


『だが、簡単に放してやるかよ!』


 放せば、また〖神仙縮地〗で延々と間合いを保ちながら一方的に攻撃されるのは見えている。

 頬が抉れようが、顎が砕けようが、この牙は簡単に抜いてはやらねぇ。


 掴んでいる限り、リリクシーラは〖神仙縮地〗を使えない。

 アレの説明文を読んだ限り、ワープではなく空間を歪めて距離を縮めている、ということだった。

 難しい理屈はわからねぇが、〖ワームホール〗のような空間転移でないなら押さえておけば逃げられる心配はないはずだ。


 俺はリリクシーラに喰らいついたまま、奴の身体を崖壁に叩きつけた。

 そのまま速度を引き上げて飛行し、身体を削っていく。

 摩擦でリリクシーラの肉が削がれていく。


 リリクシーラの碧い血肉が飛ぶのが見えた。

 俺はより強くリリクシーラを壁へと押し付ける。

 崖壁が彼女の身体で削れて行く。


 リリクシーラは四つの腕を振り上げ、再び各々の手に光のチャクラムを構える。

 これ以上掴んでいれば、〖アパラージタ〗の攻撃を受けることになる。


 俺はリリクシーラを崖壁へと投げ付ける。

 衝撃で崖壁が窪み、大きく罅が入った。

 続けて宙で回り、リリクシーラの胴体目掛けて尾の一撃を放った。

 リリクシーラは四つの腕を交差して防いだが、彼女の身体越しに崖壁が崩れた。


「がはっ!」


 リリクシーラの口から碧の血が垂れた。

 防がれはしたが、重い一撃であったはずだ。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

〖リリクシーラ・リーアルム〗

種族:ホーリーナーガ

状態:通常

Lv :100/140

HP :884/3592

MP :3681/3956

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 よし、しっかりダメージは取れている!

 行ける。

 温存しているMPの量には大きな差があるが、決して勝てねぇ相手じゃねぇ。


 続けて〖次元爪〗で即座に叩くも、リリクシーラは崖壁から跳ね起きながら〖神仙縮地〗にて移動しながら躱した。

 リリクシーラの手に〖アパラージタ〗のチャクラムがあり、〖神仙縮地〗が発動した。


 だとしたら……このタイミングで放ってくるはずだ。

 〖神仙縮地〗で歪めた空間を利用し、軌道の読めない投擲を行って来る。


 アレは一度見たが、〖竜の鏡〗で存在を消して回避するのが精一杯だった。

 しかし、あの回避方法は消耗が激しい上に、存在を戻す際には大きな隙を作ることになる。

 リリクシーラの前で何度もあんな回避を取る訳にはいかない。


 リリクシーラは、まずは二つのチャクラムを放った。

 左右それぞれからチャクラムが向かって来る。


 〖神仙縮地〗の影響のためか、チャクラムは速度と軌道を目まぐるしい速度で変化させていく。

 空間転移とはまた別物のはずだが、ほとんど瞬間移動みたいなもんだ。

 出鱈目すぎる。

 こんな攻撃、何度見たって慣れられるものじゃあない。


 俺は高度を落としながら、〖竜の鏡〗でベビードラゴンへと化けた。

 的が小さくなれば、その分直撃のリスクを下げられる。

 その分、今攻撃を受ければ身体の損傷が大きすぎてまともに動けなくなるが……どこかでリスクは取らねぇといけない。


 俺の上下を挟み込む様に、光の円盤が通過した。

 危ない、思ったよりもギリギリだった。

 思えば、自分の周囲の空間をある程度歪められるということは、リリクシーラは放った投擲武器の軌道を誤魔化すだけではなく、修正も行えるということだ。

 さすがに今の身体に当てられるほど精度は高くねぇはずだが、今でも十分危なかった。


 リリクシーラが残りの二つを投擲する。

 避けようと動いて、体勢が整っていないところを狙って撃って来やがった!


 いや……だが、今の身体だと膂力は大幅に減少しているが、魔法力は変わっちゃいねぇ!

 俺は〖グラビティ〗を放った。

 俺を中心に黒い光が円状に広がり、近くまで来ていた〖アパラージタ〗のチャクラムの軌道を大きく下げさせた。


 二つの光のチャクラムは、俺の下を抜けて崖底へと落ちて行った。


 躱せた……!

 あの〖神仙縮地〗と〖アパラージタ〗のコンボのチャクラムは、〖竜の鏡〗と〖グラビティ〗でギリギリ対応できる!

 同じ対応を続ければリリクシーラならばそこを突いてくる危険はあるが、決して対応不可の攻撃ってわけじゃねぇ!

 

 リリクシーラが眉間に皺を寄せて俺を睨んでいた。


 活路は見えてきた。

 一見無敵に見えた〖ホーリーナーガ〗だが、中距離さえ崩すことができれば、近接戦なら俺が優位に立てる。

 そして、中距離戦術の中枢である〖神仙縮地〗と〖アパラージタ〗は、決して付け入る隙がないわけではない。


 ガン攻めで賭けに出続けることは強いられるが、このMPの差は、ひっくり返すことのできる差だ。

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