第531話
俺は小柄な老人と聖騎士らしき男が相乗りしている騎竜へと目を向ける。
「竜神さま! あの人、ヴォルクさんと戦ってたはずの人!」
アロが俺の背で叫ぶ。
じゃ、じゃあ、あの老人の方が、アロの言っていた妙な剣士か……!?
嫌な予感が胸を過ぎった。
あいつがここに来たということは……ヴォルクと黒蜥蜴、マギアタイト爺はどうなったんだ……?
……いや、今は、目前の戦いに集中するしかない。
ここを凌いで、こいつら全員ぶっ飛ばして、それからヴォルク達を捜すしかねえ。
冷静になれ、俺。
ここでしくじれば、アトラナートは奪還できず……そしてアロやトレントが殺されちまう。
リリクシーラ達は俺の〖次元爪〗を警戒してか手前のところから距離を詰めて来ないが……老人達の乗る騎竜は迷いなく俺へと向かって来る。
……あれなら、俺の〖次元爪〗で落とせる。
この状況で敵が増えるのは厄介だ。
あの老人がアルアネに並ぶステータスだとすれば、かなり苦しい状況になる。
……というより、黒蜥蜴やマギアタイト爺もいてあのヴォルクが仕損じた時点で、A級相応の相手であることはほぼ確定だ。
アルアネ同様の【Lv:90】……いや、もっと上だってあり得る。
俺の間合いで、優先して排除させてもらう……!
俺は老人の乗る騎竜へと爪を向ける。
「オイオイ、俺様を前に随分と余裕だなァ! 余所見なんて、寂しいじゃねェかよ!」
ベルゼバブが正面に回り込んでから俺の懐に飛び入り、首元を禍々しい爪で引き裂いた。
痛みを感じて目を向ければ、またすぐに擦り抜けて離れて行く。
〖毒爪〗を使ったようだが、俺に大した効果はなかった。
人間状態のベルゼバブの攻撃はあまり痛いダメージにはならないが……こいつ単体に意識を集中できない状況で、あの小柄と高速度で掻き乱されるのは面倒だ。
ベルゼバブも、隙を見つけてどうにか倒しきらねぇと……!
「チッ! ビクともしねェ! 聖女様ョオ、とっとと人化を解除させてくんねェかァ?」
ベルゼバブが苛立った様に言う。
……そうしてくれれば俺としてもありがたいのだが、リリクシーラがその選択を取ることはないだろう。
ベルゼバブが遅く、デカい化け物蠅の姿になってくれれば、俺としても〖次元爪〗でさっさと処分することができる。
そうなれば、リリクシーラも主戦力を失い、動けなくなるはずだ。
俺はベルゼバブが俺の周囲を回るのを無視し、前方へ意識を戻す。
老人と聖騎士の相乗りする騎竜は距離を詰めてきていたが、まだこちらに何か仕掛けて来られる間合いではないはずだ。
これなら、俺が一方的に攻撃できる。
前脚を振り上げ、〖次元爪〗を用いて騎竜を引き裂いた。
本人はどうかは知らないが、騎竜ではこの攻撃をまず避けられない。
騎竜の身体が肩から切断され、血飛沫を上げて落下していった。
【経験値を480得ました。】
【称号スキル〖歩く卵Lv:--〗の効果により、更に経験値を480得ました。】
倒した……のは、騎竜だけだった。
血飛沫に紛れ、老人が聖騎士を背負って地面へと跳んでいた。
寸前に騎竜を蹴ったらしく、速度が乗っている。
この高さをあの勢いで無策で落ちれば、それだけで重傷を負うはずだった。
だが、地に降り立った老人の周囲に、土煙一つ立たなかった。
着地する瞬間、一瞬宙で固まった様に見えた。
何らかの、重力を操るスキルか……?
今の様子を見るに、老人が恐らくリリクシーラが戦力として期待している人物なのだろうが……。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
〖アニス・ハウグレー〗
種族:アース・ヒューマ
状態:通常
Lv :55/55(MAX)
HP :424/424
MP :265/294
攻撃力:321+19
防御力:225
魔法力:263
素早さ:371
装備:
手:〖空夢の短剣:B〗
特性スキル:
〖グリシャ言語:Lv8〗〖剣士の才:LvMAX〗
耐性スキル:
〖毒耐性:Lv6〗〖斬撃耐性:Lv7〗
〖落下耐性:Lv4〗
通常スキル:
〖鎧通し:LvMAX〗〖極楽独楽:LvMAX〗〖破魔の刃:LvMAX〗
〖神速の一閃:LvMAX〗〖ハイジャンプ:LvMAX〗〖神落万斬:Lv3〗
称号スキル:
〖
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
こいつ……聖騎士達の中でも、平均より低いくらいのレベルしかない……?
本当に、ヴォルク達がこの老人……ハウグレーに、負けたのか?
とてもこのステータスでヴォルクを倒せるとは思えねぇ。
ステータスの高い者が戦闘において圧倒的に優位なのは、俺が一番知っている。
まず考えられるのはスキルだが、スキルも見知ったものが目立つ。
……武器による何らかの付加能力があるのだろうか。
武器によるステータスの補正値が、ランクに反して極端に低いところが怪しい。
【〖空夢の短剣〗:価値B】
【〖攻撃力:+19〗】
【とある貴族が巨大な竜を打ち倒すために錬金術師に作らせたとされている短剣。】
【……確かにどんな堅い鱗にも傷をつけることはできるのかもしれないが、こんなちっぽけな剣で巨竜を倒すには何千回と剣を振るう必要があるだろう。】
【ステータスの離れている相手にも最小限のダメージを与えることができる。】
……確かに変わった剣だが、あれではなさそうだ。
伝承通りなら、俺もこんな剣を相手に後れを取るとは思えねぇが……何を考えてハウグレーはあんな剣を持ってきたんだ?
しかし、だとしたら、やはりハウグレーの強みはスキルの方だろうか。
怪しいものといえば限られてくる。
〖神速の一閃〗は『飢えた狩人』の一員であったネルが使っていた、瞬間的に速度を引き上げて敵を斬る剣技だったはずだ。
初見の通常スキルは二つしかない。
【通常スキル〖極楽独楽〗】
【剣に回転運動を加えて投擲することで、自身の身体の一部のように自在に操る。剣技の極致の一つ。】
これではなさそうだが……だとすれば、最後の一つか。
【通常スキル〖神落万斬〗】
【神技の領域に達した剣。】
【神さえ墜とし得る剣の連撃。】
こ、こっちも、違う……?
「ふむ……お前さんは、隠れておれ。聖騎士共の覚悟は知っておるが、この状況では囮にもならぬ。犬死にするぞ」
ハウグレーは相乗りしていた聖騎士へとそう言って短剣を手に取り、地を駆けて俺へと向かって来る。
……だが、ステータス相応の速度だ。
今諭した聖騎士と変わらないステータスのはずだ。
ハウグレーの足は、ベルゼバブは無論、アルアネにも遠く及ばない。
あんな剣とステータスで、本気で俺を斬るつもりなのか……?
俺の〖気配感知〗も、ハウグレーに対して警笛を鳴らしていない。
リリクシーラやベルゼバブ、アルアネから感じる不穏なものを、ハウグレーからは一切感じない。
だからこそそれが不気味だった。
ハウグレーが何を強みにここへ来たのか、対峙してなお一切理解できない。
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